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1018.【ハル視点】情報収集

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 防音結界の魔道具を設置し終わると、ウィル兄はすぐにテーブルへと戻ってきた。

「ハル、こっちも連絡とってみるね。何か新しい情報があるかもしれないし…」

 二冊のノート型の魔道具を手にこちらを見たウィル兄に、俺はこくりと頷いた。

「ああ、頼む」
「まかせてー」

 しんと静まり返った部屋の中には、父さんとウィル兄がペンを走らせる音だけが響いている。

 いなくなったのは、護衛の目が離れた一瞬の出来事だった。

 その一瞬の隙を突いて誰かにさらわれたのか、それとも…この世界のどこかに召喚されたという可能性もあるんだろうか。

 いや、もしかしたら…元の世界に戻ったという可能性も無いか?

 ぐるぐると考えこんでいると、どんどん嫌な可能性ばかりが浮かんでくる。組んだ両手にぎゅっと力を入れて耐えていると、不意に父が声をかけてきた。

「…ハル」
「はい」
「二人の事は俺の持てる力全てを使って全力で探すからな」

 絶対に無事だなんて言われていたら、何が分かると言い返していたかもしれない。だが父はそんな無責任な事は口にしなかった。

「…っ…ああ、ありがとう」

 しばらくすると、執事長のボルトを連れたファーガス兄さんが部屋へと戻ってきた。その頃には、ウィル兄のノート型魔道具を使った連絡もひと段落していた。

「待たせてすまない」
「いや、会議の方の対処ありがとう」
「よし、それじゃあーまずは情報の整理をしようか」

 しゃべり出そうとしたウィル兄の言葉を遮るようにして、ボルトは口を開いた。

「その前に。ハロルド様、私はこちらにいてもよろしいのでしょうか?」

 不満でしたらすぐに退出しますがと尋ねてきた執事長のボルトは、言葉とは裏腹にギラギラと光る目をしている。

 あーアキトとキースの行方が分からなくなった原因を、この手で始末してやるって思っている目だな。その役目は俺がやるから譲ってはやれないが、ボルトの発想力は欲しい。

「問題ない。よろしく頼む」
「かしこまりました」

 ボルトも座れと父に促されて、同じテーブルに腰を下ろす。ここで使用人なのでと口にして無駄な時間を使わせないあたりが、さすがボルトだな。

「待ってる間にこれで連絡をとってみたんだけどねー騎士も衛兵もアキトくんの気配探知で数人見つかってたよ。だから距離を少し広めにとって、二人の後を追ってたらしい」

 ああ、やっぱり見つかった奴らが出たか。アキトの探知能力の伸びをしっている俺からすれば想像通りではあったが、そのせいで護衛が距離を取ったのか。

「こちらからも、路地で突然二人の姿が消えたーって報告が入ってたよ」
「…路地というのは?」

 ファーガス兄さんは、何故路地に入ったんだ?と言いたげにそう尋ねた。まあ、キースが道案内をしているなら、そうそう路地になんていかないだろうからな。

「アキトが行きたいと言っていたのがパースパン屋だったから、そこの路地かもしれないな」
「ああ、しょくパンの所かーちょっと待ってねー」

 さらさらとノートにウィル兄が書き込めば、すぐに返事がかえってきた。

「うん、そこの路地で間違いないらしい」
「あそこの路地にはパースパン屋しか無いし…たしか突き当りは行き止まりじゃなかったか?」

 怪訝そうに尋ねたのは、市場の中の地図をさらさらと記憶だけで書き出していた父だった。

「確かにあの場所は行き止まりとなっていますし、店舗は無かったかと…確か大きな壁があった筈ですが」

 ボルトも不思議そうにそう続けた。

「手段はまだ分からないが、という事は誘拐の線が強いか」
「誘拐…目的は何だと思う?」
「身代金か…単純に二人の見た目に惚れこんだか…それとも…」

 そこで父さんは不意に言葉を切った。

 ああ、そうか。アキトの異世界の知識狙いかもしれないと言いたいんだな。ボルトはアキトが異世界人だと知らないから、気を使っているんだろう。

 アキトはボルトさんなら大丈夫とあっさりと明かしそうな気もするが、不在の場所で広める話しでは無いからな。

「ハルの伴侶候補になるのは自分だと思ってたやつの暴走という線は無いだろうか?」

 ファーガス兄さんの言葉に、俺は思わず反射的には?と答えた。

 俺の伴侶候補になりたいからと、アキトを攫うとかそんな馬鹿な話しがあるか?もしそんな奴が犯人だとしたら、それはもう命がいらないと宣言したようなものじゃないか?

「あ、だがこれはただの俺の想像だから…」

 慌てた様子のファーガス兄さんの言葉に、俺はにっこりと笑みを浮かべた。額には青筋が浮いているかもしれないが、顔には意識して笑みを浮かべて答える。

「そんなくだらない理由でアキトを攫ったというなら、どこの誰であろうと、どこの家だろうと全力で報いを受けさせる」
「はいはい、ハールー、気持ちは分かるけど殺気洩らさないの!」

 漏れ出てしまう殺気が、どうしても制御できない。いや、この部屋の中にいるのは、家族とボルトだけだったな。俺の殺気程度で動じたりしない人しかいないわけだから、別に殺気に関しては気にしなくても良くないか?

「まず手段が分からないとな…目撃情報があると良いんだが」
「そうなんだけどねーあまり盛大に聞き込みをすると二人の不在が広まってしまうからね。今は手探りで控え目な情報収集しかしてないんだ」
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