1,016 / 1,179
1015.【ハル視点】応接室
しおりを挟む
父が部屋から出ていったのをきっかけに、会議の参加者達もそれぞれが思い思いに動き出す。
お腹が空いたとラスの料理について話し合いながら、すぐさま隣の広間へと食事に向かおうとする者たち。まずはぐいーっと伸びをして、会議の時間で固まった体を伸ばすための運動を始める者たち。会議とは全く関係のない話題を口にして、笑い合っている者たちもいる。
こうしてみると個性が見えてくるよな。
ふと会議室の隅の方へと視線を向けてみれば、会議で配られた書類を片手に魔物についての議論をしている者たちまでいるな。
そんな風に興味深く周りを観察していると、不意にファーガス兄さんに声をかけられた。
「ハル」
周りに聞こえないように気を使っているのか、かなり小さな声だ。
「ん?」
「ハル、俺達も行くぞ」
「ああ、分かった」
あれ?そういえばウィル兄がいないな。
そう思いながらもファーガス兄さんについてこっそりと会議室から出れば、隣の広間の入口で参加者に声をかけているウィル兄の姿があった。
「時間になったらここの広間まで呼びに来させるから、それまではのんびり楽しんでねー」
ちなみに昼寝してても怒られないよーなんて笑顔で言うウィル兄に、広間へ向かう参加者たちも楽しそうに笑い返している。
ああ、なるほど。ウィル兄はこっそりと部屋を出て、会議の内容から少しでも気持ちを切り替えられるようにここで声かけしてたのか。
こういうのは、父はもちろん、ファーガス兄さんにもできないからな。仮にやろうとしても、逆に萎縮されてしまうのが想像できる。父さんもファーガス兄さんも尊敬されているし慕われてもいるんだが、それでも部下からすれば緊張する相手だからな。
ちなみに、萎縮させないからと言ってウィル兄が尊敬されていないというわけではない。あの笑顔と話し方のおかげなのか、我が家の中でおそらく一番話しやすい相手として親しまれているだけだ。
萎縮させないという点だけならキースも該当するんだが、キースの方の人見知りが発動するからな。かなり声はかけ難いだろう。
「ファーガス様、ハロルド様、こちらへどうぞ。ご案内します」
スッと俺達に近づいてきた執事長は、控え目にそう声をかけてきた。
「ああ、頼む」
頷いたファーガス兄さんと一緒にボルトの後をついていけば、案内されたのは会議室からすこし離れた場所にある滅多に使われない小さな応接室だった。
「どうぞお入りください」
ボルトの手によって開かれたドアから応接室の中へと入れば、疲れた様子で腰を下ろした父とたくさんの料理が出迎えてくれた。
「ああ、ファーガス、ハル。お疲れ」
「父さんもお疲れ様」
「お疲れ」
お互いに労いの言葉をかけ合ってから、手振りで勧められるままに俺達はどさりと椅子に腰を下ろした。座り心地の良い椅子に座って脱力すれば、自然にふうーっと息が漏れる。
会議の疲労感というのは、採取や討伐、警護なんかで感じるものとは全然違うんだよな。あまり会議に慣れていないせいもあってか、会議というものは何故かやけに疲れる気がする。
「失礼いたします。ウィリアム様をご案内して参りました」
「みんなおまたせー」
「いや、皆への声かけありがとう。助かった」
ファーガス兄さんからの感謝の言葉に、ウィル兄はニコニコと笑顔で答えた。
「どういたしましてーちゃんと休憩して欲しいもんねー」
ああ、さっきの声かけは、ファーガス兄さんから頼まれてやっていたのか。自分がやれば萎縮させると、きっと本人も思ったんだろうな。
「全員、無事に広間には移動していたか?」
すこし心配そうにそう尋ねた父さんに、ウィル兄はうんと頷いた。
「何人かは会議内容について話し合ってて会議室から移動すらしてなかったけど、その人たちもちゃんと全員誘導してきたよー」
「そうか、ありがとう」
「まあ、あの内容だったら話し合いたくなる気持ちは分かるけどねー」
「だが、食事をしながら話す内容でもないだろうからな」
ファーガス兄さんの言葉に、俺達は全員揃って頷いた。食事の時に会議の内容について考えているなんて、料理人に失礼だろう。
「よし、俺達も会議の内容には一切触れずに、ただラスの作った料理を堪能するか!」
「賛成ー!」
「ああ、そうしよう」
「そうだな」
今日もずらりと並んだ美味しそうな料理の数々をぐるりと眺めて、俺達は四人揃って口を開いた。
「「「「いただきます!」」」」
お腹が空いたとラスの料理について話し合いながら、すぐさま隣の広間へと食事に向かおうとする者たち。まずはぐいーっと伸びをして、会議の時間で固まった体を伸ばすための運動を始める者たち。会議とは全く関係のない話題を口にして、笑い合っている者たちもいる。
こうしてみると個性が見えてくるよな。
ふと会議室の隅の方へと視線を向けてみれば、会議で配られた書類を片手に魔物についての議論をしている者たちまでいるな。
そんな風に興味深く周りを観察していると、不意にファーガス兄さんに声をかけられた。
「ハル」
周りに聞こえないように気を使っているのか、かなり小さな声だ。
「ん?」
「ハル、俺達も行くぞ」
「ああ、分かった」
あれ?そういえばウィル兄がいないな。
そう思いながらもファーガス兄さんについてこっそりと会議室から出れば、隣の広間の入口で参加者に声をかけているウィル兄の姿があった。
「時間になったらここの広間まで呼びに来させるから、それまではのんびり楽しんでねー」
ちなみに昼寝してても怒られないよーなんて笑顔で言うウィル兄に、広間へ向かう参加者たちも楽しそうに笑い返している。
ああ、なるほど。ウィル兄はこっそりと部屋を出て、会議の内容から少しでも気持ちを切り替えられるようにここで声かけしてたのか。
こういうのは、父はもちろん、ファーガス兄さんにもできないからな。仮にやろうとしても、逆に萎縮されてしまうのが想像できる。父さんもファーガス兄さんも尊敬されているし慕われてもいるんだが、それでも部下からすれば緊張する相手だからな。
ちなみに、萎縮させないからと言ってウィル兄が尊敬されていないというわけではない。あの笑顔と話し方のおかげなのか、我が家の中でおそらく一番話しやすい相手として親しまれているだけだ。
萎縮させないという点だけならキースも該当するんだが、キースの方の人見知りが発動するからな。かなり声はかけ難いだろう。
「ファーガス様、ハロルド様、こちらへどうぞ。ご案内します」
スッと俺達に近づいてきた執事長は、控え目にそう声をかけてきた。
「ああ、頼む」
頷いたファーガス兄さんと一緒にボルトの後をついていけば、案内されたのは会議室からすこし離れた場所にある滅多に使われない小さな応接室だった。
「どうぞお入りください」
ボルトの手によって開かれたドアから応接室の中へと入れば、疲れた様子で腰を下ろした父とたくさんの料理が出迎えてくれた。
「ああ、ファーガス、ハル。お疲れ」
「父さんもお疲れ様」
「お疲れ」
お互いに労いの言葉をかけ合ってから、手振りで勧められるままに俺達はどさりと椅子に腰を下ろした。座り心地の良い椅子に座って脱力すれば、自然にふうーっと息が漏れる。
会議の疲労感というのは、採取や討伐、警護なんかで感じるものとは全然違うんだよな。あまり会議に慣れていないせいもあってか、会議というものは何故かやけに疲れる気がする。
「失礼いたします。ウィリアム様をご案内して参りました」
「みんなおまたせー」
「いや、皆への声かけありがとう。助かった」
ファーガス兄さんからの感謝の言葉に、ウィル兄はニコニコと笑顔で答えた。
「どういたしましてーちゃんと休憩して欲しいもんねー」
ああ、さっきの声かけは、ファーガス兄さんから頼まれてやっていたのか。自分がやれば萎縮させると、きっと本人も思ったんだろうな。
「全員、無事に広間には移動していたか?」
すこし心配そうにそう尋ねた父さんに、ウィル兄はうんと頷いた。
「何人かは会議内容について話し合ってて会議室から移動すらしてなかったけど、その人たちもちゃんと全員誘導してきたよー」
「そうか、ありがとう」
「まあ、あの内容だったら話し合いたくなる気持ちは分かるけどねー」
「だが、食事をしながら話す内容でもないだろうからな」
ファーガス兄さんの言葉に、俺達は全員揃って頷いた。食事の時に会議の内容について考えているなんて、料理人に失礼だろう。
「よし、俺達も会議の内容には一切触れずに、ただラスの作った料理を堪能するか!」
「賛成ー!」
「ああ、そうしよう」
「そうだな」
今日もずらりと並んだ美味しそうな料理の数々をぐるりと眺めて、俺達は四人揃って口を開いた。
「「「「いただきます!」」」」
605
お気に入りに追加
4,204
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる