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1014.【ハル視点】嫌な予感
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もしこれがスタンピードなら、A級が増える前に大量のB級C級の魔物も増えていないとおかしい。
そう言うなり張り切って調査に乗り出したその学者によると、スタンピードと想定するにはB級とC級の魔物があまりにも少なすぎるらしい。
「だからスタンピードの可能性は低いと思うよー」
「そうだな。俺も同意する」
不意にそう口を開いたのは、ファーガス兄さんだった。全員の視線が集まった事も気にせずに、ファーガス兄さんは堂々と言い放った。
「ダンジョン内に何らかの異変が発生していないかどうかは、俺も実際に三か所のダンジョンに潜ってこの目で確認してきた」
あまりに唐突な予想外の発言に、一番驚いた様子だったのはウィル兄だった。
「えーいつの間にー?」
「スタンピードの可能性を考えれば、ダンジョンの調査は必要だろう」
「まあ…うん。そうだね」
ああ、もしここに母がいたら、私も一緒に行きたかったーと大騒ぎするんだろうなぁ。もしかしたら、不在で良かったのかもしれない。
「どこのダンジョンも魔物の発生については落ち着いたものだった」
「それは良かったんだけどー話しが最初に戻っちゃったよね」
苦笑するウィル兄を見つめながら、俺は口を開いた。
「俺が気になるのは、この魔物についての共通点なんだが…」
「さっき共通点は無いと、言われていなかったか?」
不思議そうなファーガス兄さんに、まだきちんと確認はしてないから自信はないんだけどねと前置きをした。
本来ならきちんと確認してから言いたい情報なんだが、ここで黙っていて会議を長引かせるよりは言ってしまった方が良いだろう。ここには魔物に詳しい人が、こんなにたくさんいるんだから。
決して一人で裏付け調査をしたくないからでは無い。
「ハロルド、不確定でも良い。話してくれ」
父からの許可に、俺はひとつ頷いてから口を開いた。
「この書類に載ってる魔物は、確かに分布図に従うなら出現した事自体が不自然だと思う」
「だよねー」
「でも、もしかしたらなんだが…これは全てムレングダンジョン内に存在してる魔物なんじゃないか?」
「…え…」
全員が慌てた様子で、書類にもう一度目を通し始めた。
「あ、たしかにムレングの砂漠階層にいました!オレールウルフ!」
うちの隊員が襲われて、逃げてきた事があったと一人の騎士が答える。
「ムレング内の海でメントイープに襲われたって話しを聞いたと、入口の衛兵から報告を受けた事があるな…」
衛兵のあの世間話の延長のような情報取集は、こういう場面でも役に立つんだな。あなどれないシステムだ。
「それなら、このトルーヒトについては、俺もムレング内で倒した事があるな」
ファーガス兄さんがそう口にすれば、会議の参加者も口々に自分の知る事を話し始めた。魔道具のペンで書類に印を入れていけば、どんどん魔物の情報が出そろっていくのが分かった。
「なるほど。確認が取れないのは、数体だけのようだな」
「うん。すぐに確認して貰うねー」
ウィル兄は楽し気にそう言うと、壁際に立っていた侍従にそっとメモを手渡した。さっき話していた魔物研究の学者先生にでも、魔物についての情報を尋ねるんだろう。
「うん。これはかなり信憑性があるな…ハルは、やっぱりスタンピードを疑っているのか?」
ファーガス兄さんからの質問に、俺はあっさりと首を振って答えた。
「いいや、俺が疑っているのは、転移の魔道具の悪用…または召喚魔法の悪用…かな」
ふと思いついてしまったんだよね。異世界からの召喚は難しくても、この世界の中での召喚ならどうなんだろうと。
まあそう考えたきっかけも、アキトなんだけどな。
召喚したのが隣国の奴らだと仮定して、もし今ここでアキトが召喚されてしまったらどうしようと思ったのがきっかけだ。
異世界ではなく同じ世界からなら簡単だともし言うなら、ダンジョンから魔物の召喚だってできるんじゃないのか?
「ただの予測だから、自信は全くないんだが…」
「いや、この場に自信は必要無い。調査が進むきっかけになれば、それだけで助かる」
父は重々しい声でそう言うと、一瞬だけ嬉しそうに目を細めてみせた。よくやったと褒められているような気分だな。
「あの、さっきのハロルド様の発言で思い出したんですが…うちの隊でA級の魔物と戦った奴が、気になる事を言っていたんです」
「ほう、聞こうか」
「最初にそこを通った時は確かに何もいなかったのに、次の瞬間にはそこに現れていた…と。まるで魔法のようだったと」
「これは…可能性が少しあがったか」
ざわざわと賑わう室内を見渡した父さんは、ふうとひとつ息を吐いてから少し休憩にしようかと声をかけた。
「隣の広間に昼食を用意してもらった。食事を済ませて一時間後に再開しよう」
そう声をかけた父さんに、騎士や衛兵たちから歓声があがった。
「久しぶりのラスさんの飯ー!」
「うわーすっごい幸運じゃないか?」
「おい、俺達、今日任務のシラーブに殴られそうだな?」
「いやいや、殴られても良いからラスさんの飯が食べたい!」
「絶対美味いもんな」
「え、もうこんな時間!?腹減ったな…」
一気に賑やかになった室内の様子に、父さんはふっと笑みを浮かべるとゆっくり楽しんでくれと言い置いてすぐに部屋から去っていった。
そう言うなり張り切って調査に乗り出したその学者によると、スタンピードと想定するにはB級とC級の魔物があまりにも少なすぎるらしい。
「だからスタンピードの可能性は低いと思うよー」
「そうだな。俺も同意する」
不意にそう口を開いたのは、ファーガス兄さんだった。全員の視線が集まった事も気にせずに、ファーガス兄さんは堂々と言い放った。
「ダンジョン内に何らかの異変が発生していないかどうかは、俺も実際に三か所のダンジョンに潜ってこの目で確認してきた」
あまりに唐突な予想外の発言に、一番驚いた様子だったのはウィル兄だった。
「えーいつの間にー?」
「スタンピードの可能性を考えれば、ダンジョンの調査は必要だろう」
「まあ…うん。そうだね」
ああ、もしここに母がいたら、私も一緒に行きたかったーと大騒ぎするんだろうなぁ。もしかしたら、不在で良かったのかもしれない。
「どこのダンジョンも魔物の発生については落ち着いたものだった」
「それは良かったんだけどー話しが最初に戻っちゃったよね」
苦笑するウィル兄を見つめながら、俺は口を開いた。
「俺が気になるのは、この魔物についての共通点なんだが…」
「さっき共通点は無いと、言われていなかったか?」
不思議そうなファーガス兄さんに、まだきちんと確認はしてないから自信はないんだけどねと前置きをした。
本来ならきちんと確認してから言いたい情報なんだが、ここで黙っていて会議を長引かせるよりは言ってしまった方が良いだろう。ここには魔物に詳しい人が、こんなにたくさんいるんだから。
決して一人で裏付け調査をしたくないからでは無い。
「ハロルド、不確定でも良い。話してくれ」
父からの許可に、俺はひとつ頷いてから口を開いた。
「この書類に載ってる魔物は、確かに分布図に従うなら出現した事自体が不自然だと思う」
「だよねー」
「でも、もしかしたらなんだが…これは全てムレングダンジョン内に存在してる魔物なんじゃないか?」
「…え…」
全員が慌てた様子で、書類にもう一度目を通し始めた。
「あ、たしかにムレングの砂漠階層にいました!オレールウルフ!」
うちの隊員が襲われて、逃げてきた事があったと一人の騎士が答える。
「ムレング内の海でメントイープに襲われたって話しを聞いたと、入口の衛兵から報告を受けた事があるな…」
衛兵のあの世間話の延長のような情報取集は、こういう場面でも役に立つんだな。あなどれないシステムだ。
「それなら、このトルーヒトについては、俺もムレング内で倒した事があるな」
ファーガス兄さんがそう口にすれば、会議の参加者も口々に自分の知る事を話し始めた。魔道具のペンで書類に印を入れていけば、どんどん魔物の情報が出そろっていくのが分かった。
「なるほど。確認が取れないのは、数体だけのようだな」
「うん。すぐに確認して貰うねー」
ウィル兄は楽し気にそう言うと、壁際に立っていた侍従にそっとメモを手渡した。さっき話していた魔物研究の学者先生にでも、魔物についての情報を尋ねるんだろう。
「うん。これはかなり信憑性があるな…ハルは、やっぱりスタンピードを疑っているのか?」
ファーガス兄さんからの質問に、俺はあっさりと首を振って答えた。
「いいや、俺が疑っているのは、転移の魔道具の悪用…または召喚魔法の悪用…かな」
ふと思いついてしまったんだよね。異世界からの召喚は難しくても、この世界の中での召喚ならどうなんだろうと。
まあそう考えたきっかけも、アキトなんだけどな。
召喚したのが隣国の奴らだと仮定して、もし今ここでアキトが召喚されてしまったらどうしようと思ったのがきっかけだ。
異世界ではなく同じ世界からなら簡単だともし言うなら、ダンジョンから魔物の召喚だってできるんじゃないのか?
「ただの予測だから、自信は全くないんだが…」
「いや、この場に自信は必要無い。調査が進むきっかけになれば、それだけで助かる」
父は重々しい声でそう言うと、一瞬だけ嬉しそうに目を細めてみせた。よくやったと褒められているような気分だな。
「あの、さっきのハロルド様の発言で思い出したんですが…うちの隊でA級の魔物と戦った奴が、気になる事を言っていたんです」
「ほう、聞こうか」
「最初にそこを通った時は確かに何もいなかったのに、次の瞬間にはそこに現れていた…と。まるで魔法のようだったと」
「これは…可能性が少しあがったか」
ざわざわと賑わう室内を見渡した父さんは、ふうとひとつ息を吐いてから少し休憩にしようかと声をかけた。
「隣の広間に昼食を用意してもらった。食事を済ませて一時間後に再開しよう」
そう声をかけた父さんに、騎士や衛兵たちから歓声があがった。
「久しぶりのラスさんの飯ー!」
「うわーすっごい幸運じゃないか?」
「おい、俺達、今日任務のシラーブに殴られそうだな?」
「いやいや、殴られても良いからラスさんの飯が食べたい!」
「絶対美味いもんな」
「え、もうこんな時間!?腹減ったな…」
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