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1013.【ハル視点】スタンピード?
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書類を読み終わると、それぞれ先に読み終わっていた人たちとの意見交換が始まった。
「あー、うん。これは確かに、こうして並べてみると明らかに何らかの異変が起きてるなとよく分かるな」
「ああ、見比べてみるとこんなに分かりやすいんだな」
「ああ、さすがジル様だ」
尊敬の眼差しでポツリとそう呟いた騎士に、ウィル兄さんは自慢げに微笑んでいる。うんうん、伴侶が尊敬されてるのが嬉しいんだな。
「んー…現れた場所に共通点は…ないよな」
もう一度書類に目を通していた衛兵が、不意にそう声をあげた。
「ああ、基本的には森の中が多いようだが…この二体の魔物は洞窟の中に現れたみたいだしな…」
「いや、こっちのなんて、何故か壁向こうの牧場の囲いの中だぞ?」
「は、何行目だ?」
「四ページ目の…上から三行目だな」
「あ、本当だ」
牧場の中に出た魔物については、確かに俺もちょっと気になったな。
壁向こうに作られた牧場は、今のところ一つしか存在していない筈だ。試験的に作られたこの牧場の経営者は、元騎士と元衛兵、そして元冒険者からなる集団だ。
警備や魔物退治で一緒に行動する事も多いからか、うちの領ではあまり職業ごとの隔たりが無いんだよな。気の合う仲間だけで経営するんだと笑ってたから、よく覚えている。
領都にある壁の向こう側は、どうしても魔物が多くなる。そんな場所に牧場を作るのだから、魔物への対策はきちんとされている。常に強い魔物避けの香を焚いているし、経営者による巡回も行われている。
香と巡回のおかげか、牧場内に魔物が出たという報告は今まで一度もあがってきていない。そんなしっかり対策の施された場所に、いったいどこから侵入したんだろうな。
ちなみに討伐者の所には、牧場経営者(元騎士と元衛兵、元冒険者)の記載がある。まああの人たちなら、よほど油断していない限りA級魔物一体ぐらいは問題無いんだろう。
「…みんな読み終わったようだな」
静かに周りの様子を伺っていたファーガス兄さんがそう声をかければ、会議室内は再びシンと静かになった。
「うん、みたいだねー」
笑顔で答えたウィル兄の軽い返事のおかげで、少しだけ空気も軽くなる。ファーガス兄さんだけだと深刻になり過ぎるし、ウィル兄だけだと軽くなり過ぎる。本当にこの二人はバランスが良いよな。
「もしA級の魔物が再び現れたとしても、我が領の誇る騎士団と衛兵団、そして領に滞在してくれている冒険者が倒してくれるだろうと――私は思っている」
ぽんぽんと進んでいく会議を真剣に聞いていた父は、不意に全員を見回してからそう口にした。それだけで騎士と衛兵の顔が引き締まるんだから、さすがだな。あの英雄ケイリー・ウェルマールに期待されているんだと、誇らし気な表情だ。
「問題はこの異常の方なんだが…何か意見はあるか?」
父の質問に、一人の騎士が答えた。
「これが…スタンピードの兆候である可能性は…ありますか?」
言い難そうにしながらも真剣な目で尋ねた一人の騎士の言葉に、会議室に緊張が走った。
うん、やっぱり一番気になる場所は、そこだよな。もしこの騎士が言わなければ、俺達兄弟の誰かが言わないと駄目な所だっただろう。
「結論から先に言うと、スタンピードの兆候である可能性は低いねー」
すぐさまそう答えたのは、調査を担当しているウィル兄だった。
「魔物研究をしている学者先生たちにも、今回の調査には付き合ってもらったんだ」
スタンピード前には、必ず起きる目安となる現象がいくつかある。
そもそも魔物の暴走であるスタンピードは、必ずダンジョンから始まる。
それならダンジョンしか警戒しなくて良いんじゃないかと思われがちだが、まずその前に魔物が一度極端に減るんだ。しかも森や採取地といった、ダンジョンとは全く関係のない場所から何故か魔物がいなくなる。
そうなる理屈も理由も分かってはいないが、それは教訓として言い伝えられている。
「あー、だから魔物が出なくなったらすぐに報告しろって言われてるのか」
「いや、お前それぐらいは知っておけよ」
最近隊長になったんだろうまだ若い衛兵が、先輩らしき衛兵に小声で叱られている。周りの衛兵も騎士達も、苦笑を浮かべて聞こえないふりだ。
「まあまあ、理由は分かってなくても、すくなくともすぐに報告してくれるつもりだったみたいだからその辺でー」
情報を取りまとめるウィル兄からすれば、意味が分からないと報告しない奴よりはマシという認定だったんだろうな。
若い衛兵くんは優しいと感激しているみたいだが、あれちょっと怒ってるよ。
「その後、爆発的に魔物が溢れるんだよな」
思わずそう口にすれば、ウィル兄はにっこりと笑って頷いた。あの笑顔は軌道修正ありがとうの笑みだな。どういたしまして。
「そうそう、そこまでは皆も知ってると思うんだけどねー魔物研究の学者先生によると、A級だけが増える事自体がまずおかしいんだって」
「あー、うん。これは確かに、こうして並べてみると明らかに何らかの異変が起きてるなとよく分かるな」
「ああ、見比べてみるとこんなに分かりやすいんだな」
「ああ、さすがジル様だ」
尊敬の眼差しでポツリとそう呟いた騎士に、ウィル兄さんは自慢げに微笑んでいる。うんうん、伴侶が尊敬されてるのが嬉しいんだな。
「んー…現れた場所に共通点は…ないよな」
もう一度書類に目を通していた衛兵が、不意にそう声をあげた。
「ああ、基本的には森の中が多いようだが…この二体の魔物は洞窟の中に現れたみたいだしな…」
「いや、こっちのなんて、何故か壁向こうの牧場の囲いの中だぞ?」
「は、何行目だ?」
「四ページ目の…上から三行目だな」
「あ、本当だ」
牧場の中に出た魔物については、確かに俺もちょっと気になったな。
壁向こうに作られた牧場は、今のところ一つしか存在していない筈だ。試験的に作られたこの牧場の経営者は、元騎士と元衛兵、そして元冒険者からなる集団だ。
警備や魔物退治で一緒に行動する事も多いからか、うちの領ではあまり職業ごとの隔たりが無いんだよな。気の合う仲間だけで経営するんだと笑ってたから、よく覚えている。
領都にある壁の向こう側は、どうしても魔物が多くなる。そんな場所に牧場を作るのだから、魔物への対策はきちんとされている。常に強い魔物避けの香を焚いているし、経営者による巡回も行われている。
香と巡回のおかげか、牧場内に魔物が出たという報告は今まで一度もあがってきていない。そんなしっかり対策の施された場所に、いったいどこから侵入したんだろうな。
ちなみに討伐者の所には、牧場経営者(元騎士と元衛兵、元冒険者)の記載がある。まああの人たちなら、よほど油断していない限りA級魔物一体ぐらいは問題無いんだろう。
「…みんな読み終わったようだな」
静かに周りの様子を伺っていたファーガス兄さんがそう声をかければ、会議室内は再びシンと静かになった。
「うん、みたいだねー」
笑顔で答えたウィル兄の軽い返事のおかげで、少しだけ空気も軽くなる。ファーガス兄さんだけだと深刻になり過ぎるし、ウィル兄だけだと軽くなり過ぎる。本当にこの二人はバランスが良いよな。
「もしA級の魔物が再び現れたとしても、我が領の誇る騎士団と衛兵団、そして領に滞在してくれている冒険者が倒してくれるだろうと――私は思っている」
ぽんぽんと進んでいく会議を真剣に聞いていた父は、不意に全員を見回してからそう口にした。それだけで騎士と衛兵の顔が引き締まるんだから、さすがだな。あの英雄ケイリー・ウェルマールに期待されているんだと、誇らし気な表情だ。
「問題はこの異常の方なんだが…何か意見はあるか?」
父の質問に、一人の騎士が答えた。
「これが…スタンピードの兆候である可能性は…ありますか?」
言い難そうにしながらも真剣な目で尋ねた一人の騎士の言葉に、会議室に緊張が走った。
うん、やっぱり一番気になる場所は、そこだよな。もしこの騎士が言わなければ、俺達兄弟の誰かが言わないと駄目な所だっただろう。
「結論から先に言うと、スタンピードの兆候である可能性は低いねー」
すぐさまそう答えたのは、調査を担当しているウィル兄だった。
「魔物研究をしている学者先生たちにも、今回の調査には付き合ってもらったんだ」
スタンピード前には、必ず起きる目安となる現象がいくつかある。
そもそも魔物の暴走であるスタンピードは、必ずダンジョンから始まる。
それならダンジョンしか警戒しなくて良いんじゃないかと思われがちだが、まずその前に魔物が一度極端に減るんだ。しかも森や採取地といった、ダンジョンとは全く関係のない場所から何故か魔物がいなくなる。
そうなる理屈も理由も分かってはいないが、それは教訓として言い伝えられている。
「あー、だから魔物が出なくなったらすぐに報告しろって言われてるのか」
「いや、お前それぐらいは知っておけよ」
最近隊長になったんだろうまだ若い衛兵が、先輩らしき衛兵に小声で叱られている。周りの衛兵も騎士達も、苦笑を浮かべて聞こえないふりだ。
「まあまあ、理由は分かってなくても、すくなくともすぐに報告してくれるつもりだったみたいだからその辺でー」
情報を取りまとめるウィル兄からすれば、意味が分からないと報告しない奴よりはマシという認定だったんだろうな。
若い衛兵くんは優しいと感激しているみたいだが、あれちょっと怒ってるよ。
「その後、爆発的に魔物が溢れるんだよな」
思わずそう口にすれば、ウィル兄はにっこりと笑って頷いた。あの笑顔は軌道修正ありがとうの笑みだな。どういたしまして。
「そうそう、そこまでは皆も知ってると思うんだけどねー魔物研究の学者先生によると、A級だけが増える事自体がまずおかしいんだって」
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