生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1010.【ハル視点】見送り

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 部屋にいた全員で揃って玄関前まで移動すれば、そこには外出すると聞きつけた使用人たちがずらりと整列している姿があった。

 昔から何故かうちの使用人たちは領主一家の誰かが外出をする時には、こうして律儀に見送りに来てくれる。

 別に見送りをしろと強制しているわけでも無いし、どちらかというと外出するという連絡すらろくにしていないんだが――それでも気づけばこうして待機してるんだよな。

 母グレースのきまぐれな外出ですら、見送りがついていたりするのには驚いた事がある。

 まあ父と母いわく、使用人同士での情報伝達が上手くいってる証拠だと気にもしていないようだし、俺もすっかりこの行動に慣れてしまったんだが。

「うわーみなさんわざわざ来てくれたんだ…」

 そう呟いたアキトは、びっくりした顔で整列している使用人を見つめている。

 それにしても今日は人数が多いな。

 明らかに人数が多いのは末の弟キースの可愛さのせいか、それともアキトの可愛さのせいかどっちなんだろうな。

 元々アキトは領主城に来た頃から、誰に対しても変わらない態度と素直に口にする感謝の言葉のおかげで、使用人の中でもかなりの人気があった。

 自分の感想などを滅多に口にしない使用人達なのに、素晴らしい伴侶候補様ですねと数人から声をかけられたぐらいの人気者だ。

 アキトを褒められるのは俺も嬉しいから、笑顔でありがとうと答えていたから余計に遠慮がなくなったのかもしれないが。

 その上、アキトはとにかくうちの家族との相性がかなり良かったか。

 領主一家に総出で構われても、怖がるでも嫌がるでもなく、むしろ幸せそうにニコニコと笑っている。そんな反応ができる人は、そうそういない。

 きっとここで、人柄だけでなく強い心を持っていると思われたんだろうな。

「見送りに来ていただき、ありがとうございます」
「ありがとう!」

 嬉しそうに笑顔でお礼を言うアキトの隣で、キースもニコニコ笑顔でお礼を口にしている。

「とんでもありません。私たちがしたくて来ただけですから」

 使用人を代表して丁寧にそう答えた執事長のボルトを、俺は思わず呆れ顔で見つめてしまった。

 どう考えても会議の準備で忙しい筈なのに、何故お前がここにいるんだ。

 まじまじとボルトを見つめていると、ファーガス兄さんが口を開いた。

「アキトもキースも、存分に楽しんでこい」
「もし何かあれば、街中にいる衛兵や騎士に声をかけるんだよー」

 少し心配そうにそう続けたウィル兄の言葉に、アキトとキースはこくりと頷いた。

「ありがとうございます、ファーガスさん、ウィリアムさん」
「ありがとう、兄様たち」

 どういたしましてと二人が答えた所で、アキトとキースは今度はまっすぐに俺を見た。

「アキト、キース、くれぐれも気を付けてね」

 さすがに護衛をこれだけつけていれば安全だとは思うんだが、アキトもキースもとにかく可愛いからな。もしかしたら変な奴に声をかけられるかもしれない。

「うん、ちゃんと気を付けるね」
「ハル兄、まかせて」

 あー、二人で顔を見合わせてから、俺を安心させようとニコッと笑ってくれるアキトとキースの可愛さがすごい。

「やっぱり、俺も一緒に行きたかったな…」

 思わずポツリと本音を洩らせば、両側から肩に回っている兄達の腕にぎゅーっと力がこもった。

 だから、逃げないって。痛いからやめてくれ。

「次は絶対、ハル兄も一緒に行こうね」

 ニコニコ笑顔のキースにそう言われてしまえば、兄としてこれ以上何かを言う事もできないか。みっともない姿は見せたくないからなと、俺は両肩に二人の兄を装備したままこくりと一つ頷いた。

「アキト、キース、二人ともいってらっしゃい」
「「いってきます!」」

 晴れやかな笑顔で去っていく二人を、俺はたくさんの使用人たちと一緒に見送った。



 あー行っちゃったなと寂しく思う時間もなく、俺はいま両側から回されている腕で引きずるようにして移動させられている。

「会議までもうあまり時間が無いな」
「あー確かにー急いで行こっか」

 弟を引きずっているとは思えないほど普通の会話をしながら歩く兄達に、俺は控え目に声をかけた。

「なあ、そろそろ離してくれないか…」
「あー、そうだな…離しても逃げないなら離そう」

 不意に立ち止まったファーガス兄さんはそう言うと、じっとまっすぐに俺の目を見つめてくる。今さら逃げたりしないよと目を見て答えれば、やっと片腕が離された。

「ウィル兄も離してくれ」
「ん?逃げない?」
「逃げないよ。それに、もし家族から頼られたのを放棄して駆け付けたりなんてしたら、アキトはきっと悲しむからな」

 そうだろう?と尋ねれば、納得がいったのか、ウィル兄もやっと腕を離してくれた。
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