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1008.【ハル視点】護衛の手配
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真剣な表情を浮かべた二人はそっと視線を交わすと、俺に向き直って尋ねた。
「それなら二人につける護衛が必要になるな?」
「もちろん護衛をつける許可はもらってあるんだよねー?」
「ああ、それがさっき俺が言った頼みたい事なんだ。二人には陰からの護衛をつける許可を貰ってある」
アキトはともかく、人見知りなキースは見知らぬ人が近距離で護衛につけば楽しめないかもしれない。そう思って陰からの護衛にしたんだと説明すれば、二人揃って妥当な判断だなと頷いてくれた。
「キースのためなら、俺も陰からの護衛を勧める」
「そうだねーまあ行先にもよるけど…って、今日ってどこに行くの?」
たしか行先はまだ聞いてなかったよねと尋ねてきたウィル兄に、俺はひとつ頷いてから答えた。
「ウェルマ市場だ」
「あーそっか。うん、それなら陰からで正解だと思うよ」
うんうんと頷いているウィル兄の隣で、ファーガス兄さんもなるほどと頷いている。
「ウェルマ市場か」
もう一度確かめるようにそう呟いたファーガス兄さんは、愛用している腕輪型の魔道収納から大事そうに一つの包みを取り出した。
布の中から現れたのは、手のひら大の石のような物だった。
もしこれが何か知らなければ、何故急に石なんか取り出したんだと困惑するかもしれないな。そんな事をぼんやりと考えながら、俺はファーガス兄さんの取り出した魔道具を見つめた。
これはあらかじめ登録した同じ魔道具を持つ者と空間を繋げて会話する事ができる、ダンジョン産の魔道具だ。かなり入手難易度も高く、数もそう多くないため、これを持っているのはうちの領の中でも数人だけだ。
会話をする度に魔石を消費はするが、それでも使う価値のある便利な魔道具だ。
リンッと鈴のなるような高い音がしたかと思えば、すぐに相手が応答した。
「どうした?」
「仕事だ。時間は今日この後すぐ。うちの末の弟キースと、ハルの伴侶候補アキトの護衛を頼みたい」
「分かった。移動予定の場所は?」
今日このあとすぐなんていきなり言われても、理由も問わずにすぐにそう返してくれるのか。さすがに急な依頼に慣れているな。だが、ありがたい。
「うちからウェルマ市場まで。他の危険な場所には近づかないように伝えてあるそうだ」
「分かった。すぐに二人回そう」
「ああ、よろしく頼む」
「ああ、まかせろ」
ぷつりと途切れた魔道具の通信に、俺はふうと思わず息を吐いた。
無事に護衛が手配できて良かったと肩の力を抜くと、ウィル兄がんーとすこし考えこんでからおもむろに口を開いた。
「あのさ、もし良かったらなんだけど…巡回中の騎士団員たちと衛兵隊員たちにも連絡しても良いー?」
「いや、俺は助かるが…良いのか?」
「だってキースとアキトくんが二人だけで行くんでしょ?万全にしておいた方が良いよ。それにこっちの訓練にもなるだろうし、何の問題もないよ」
ウィル兄はニコニコと笑顔を浮かべてそう言いきった。
最近になって、アキトの気配探知はどんどん鋭くなっていっている。
それも全て母さんの指導を受けてからだ。
母の説明は何というか、大雑把だしとにかく擬音語が多い。説明も特に丁寧ではないから正直分かり難いと思うんだが、魔法も感覚派なアキトとはかなり相性が良かったらしい。ぐんぐん吸収した結果、今はかなりの精度で感知ができるようになりつつある。
だから訓練になるといえばなるかもしれないな。
「それならぜひ頼みたい」
まあ、訓練になるとかはただの言い訳で、きっと俺が安心して会議に出れるように言ってくれたんだろう。そう理解した上で、俺はそのありがたい申し出を受け入れた。
「分かったーちょっとだけ待ってねー」
ウィル兄はそう言うと、既に着用していた騎士団服のポケットにさっと手を入れた。
ファーガス兄さんは腕輪型を使用しているが、ウィル兄は自分の着る服自体に魔導収納をつけてるんだよな。
本人いわく、魔導収納鞄を持った上でこの服を着ていると、ポケットの魔導収納には気づかれない事が多いからーらしい。
基本的には騎士団の制服を着用する事が多いからできる事だな。
「あ、あったあった」
ポケットから取り出したのは、豪華な装丁の施された何冊ものノートだった。
これは対になったノートに、書き込んだ文字が浮かぶというこれもまたダンジョン産の魔道具だ。これは通話ができるものほど珍しくもないため、各隊の隊長が全員保持している。
「えっと…今日は…騎士団はシラーブの隊と…それに衛兵はクーヒルの隊だな」
へぇ、衛兵はクーヒルの隊なのか。早朝訓練で久しぶりに会えた友人の姿を思い浮かべながら、俺はウィル兄の指先をじっと見つめていた。
『うちの末弟キースとハルの伴侶候補アキトがウェルマ市場に行くから、巡回がてら見守りよろしく。ただしアキトの気配探知はかなり鋭いから、気をつけて』
『分かった』
クーヒルからの返事は何とも簡潔なものだった。
「次はシラーブの隊ねー」
そう言ってサラサラと書き込まれて行く文章はさっきの衛兵宛てのものとほとんど同じだったが、最後に見つかったら訓練増やすからー見つかったやつの報告もよろしくーと続いていた。
あ、これはもしかして訓練がどうこうってやつも本気だったのかもしれない。すまないが、頑張ってくれと心の中で騎士団員たちを応援しながら、俺は黙ってそっと目を反らした。
「それなら二人につける護衛が必要になるな?」
「もちろん護衛をつける許可はもらってあるんだよねー?」
「ああ、それがさっき俺が言った頼みたい事なんだ。二人には陰からの護衛をつける許可を貰ってある」
アキトはともかく、人見知りなキースは見知らぬ人が近距離で護衛につけば楽しめないかもしれない。そう思って陰からの護衛にしたんだと説明すれば、二人揃って妥当な判断だなと頷いてくれた。
「キースのためなら、俺も陰からの護衛を勧める」
「そうだねーまあ行先にもよるけど…って、今日ってどこに行くの?」
たしか行先はまだ聞いてなかったよねと尋ねてきたウィル兄に、俺はひとつ頷いてから答えた。
「ウェルマ市場だ」
「あーそっか。うん、それなら陰からで正解だと思うよ」
うんうんと頷いているウィル兄の隣で、ファーガス兄さんもなるほどと頷いている。
「ウェルマ市場か」
もう一度確かめるようにそう呟いたファーガス兄さんは、愛用している腕輪型の魔道収納から大事そうに一つの包みを取り出した。
布の中から現れたのは、手のひら大の石のような物だった。
もしこれが何か知らなければ、何故急に石なんか取り出したんだと困惑するかもしれないな。そんな事をぼんやりと考えながら、俺はファーガス兄さんの取り出した魔道具を見つめた。
これはあらかじめ登録した同じ魔道具を持つ者と空間を繋げて会話する事ができる、ダンジョン産の魔道具だ。かなり入手難易度も高く、数もそう多くないため、これを持っているのはうちの領の中でも数人だけだ。
会話をする度に魔石を消費はするが、それでも使う価値のある便利な魔道具だ。
リンッと鈴のなるような高い音がしたかと思えば、すぐに相手が応答した。
「どうした?」
「仕事だ。時間は今日この後すぐ。うちの末の弟キースと、ハルの伴侶候補アキトの護衛を頼みたい」
「分かった。移動予定の場所は?」
今日このあとすぐなんていきなり言われても、理由も問わずにすぐにそう返してくれるのか。さすがに急な依頼に慣れているな。だが、ありがたい。
「うちからウェルマ市場まで。他の危険な場所には近づかないように伝えてあるそうだ」
「分かった。すぐに二人回そう」
「ああ、よろしく頼む」
「ああ、まかせろ」
ぷつりと途切れた魔道具の通信に、俺はふうと思わず息を吐いた。
無事に護衛が手配できて良かったと肩の力を抜くと、ウィル兄がんーとすこし考えこんでからおもむろに口を開いた。
「あのさ、もし良かったらなんだけど…巡回中の騎士団員たちと衛兵隊員たちにも連絡しても良いー?」
「いや、俺は助かるが…良いのか?」
「だってキースとアキトくんが二人だけで行くんでしょ?万全にしておいた方が良いよ。それにこっちの訓練にもなるだろうし、何の問題もないよ」
ウィル兄はニコニコと笑顔を浮かべてそう言いきった。
最近になって、アキトの気配探知はどんどん鋭くなっていっている。
それも全て母さんの指導を受けてからだ。
母の説明は何というか、大雑把だしとにかく擬音語が多い。説明も特に丁寧ではないから正直分かり難いと思うんだが、魔法も感覚派なアキトとはかなり相性が良かったらしい。ぐんぐん吸収した結果、今はかなりの精度で感知ができるようになりつつある。
だから訓練になるといえばなるかもしれないな。
「それならぜひ頼みたい」
まあ、訓練になるとかはただの言い訳で、きっと俺が安心して会議に出れるように言ってくれたんだろう。そう理解した上で、俺はそのありがたい申し出を受け入れた。
「分かったーちょっとだけ待ってねー」
ウィル兄はそう言うと、既に着用していた騎士団服のポケットにさっと手を入れた。
ファーガス兄さんは腕輪型を使用しているが、ウィル兄は自分の着る服自体に魔導収納をつけてるんだよな。
本人いわく、魔導収納鞄を持った上でこの服を着ていると、ポケットの魔導収納には気づかれない事が多いからーらしい。
基本的には騎士団の制服を着用する事が多いからできる事だな。
「あ、あったあった」
ポケットから取り出したのは、豪華な装丁の施された何冊ものノートだった。
これは対になったノートに、書き込んだ文字が浮かぶというこれもまたダンジョン産の魔道具だ。これは通話ができるものほど珍しくもないため、各隊の隊長が全員保持している。
「えっと…今日は…騎士団はシラーブの隊と…それに衛兵はクーヒルの隊だな」
へぇ、衛兵はクーヒルの隊なのか。早朝訓練で久しぶりに会えた友人の姿を思い浮かべながら、俺はウィル兄の指先をじっと見つめていた。
『うちの末弟キースとハルの伴侶候補アキトがウェルマ市場に行くから、巡回がてら見守りよろしく。ただしアキトの気配探知はかなり鋭いから、気をつけて』
『分かった』
クーヒルからの返事は何とも簡潔なものだった。
「次はシラーブの隊ねー」
そう言ってサラサラと書き込まれて行く文章はさっきの衛兵宛てのものとほとんど同じだったが、最後に見つかったら訓練増やすからー見つかったやつの報告もよろしくーと続いていた。
あ、これはもしかして訓練がどうこうってやつも本気だったのかもしれない。すまないが、頑張ってくれと心の中で騎士団員たちを応援しながら、俺は黙ってそっと目を反らした。
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