生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1005.裏路地目指して

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「あ、次はこっちだよー、アキトくん」

 上目遣いで優しく道を教えてくれるキースくんの手は、しっかりと俺の手に繋がれている。歩き出したぐらいで、キースくんの方から自然と繋いでくれたんだよね。

「こっちだね?」
「うん、こっち」

 すっかり俺と手を繋いで歩くのにも慣れてくれたのか、それとも普段から移動の時はご両親やお兄さんたちと手を繋いでる癖が出てるだけなのか。

 どっちが正解なのかは分からないけど、それをわざわざ尋ねるほど俺は馬鹿じゃない。ゆらゆらと繋いだ手を揺らしながら、キースくんの隣を歩いていく。 

「ここは来た時とは違う道だね?」

 道に沿っていくつもの店舗が並んでるけど、どのお店にも装飾や飾り付けがあんまりついてない。どこか地味で無骨な雰囲気の漂うお店が、やけに多いんだよね。

 あ、よくよく見れば看板もついてないお店が多いな。

 キョロキョロと視線を動かしていると、キースくんが笑顔で教えてくれた。

「うん、こっちの道は素材を取り扱ってる店が多いんだ」
「素材か…」

 そう言われてちらりと窓から店舗の中を覗き込んでみれば、確かに店内にはゴロゴロとした鉱石や切り分けた木材などがずらりと並んでいる。

「この通りはねー、職人さんとかが来る事が多いんだ」

 たまに素材を探してる冒険者の人も混ざってるけどねと教えてくれたキースくんの視線の先には、掘り出し物の何かの皮があったと嬉しそうに話している冒険者たちの姿があった。

 ああ、こういう場所で欲しい装備品や魔道具の素材を集めるという手もあるのか。

「でね、今の時間だとちょうど食べ物の屋台が混むでしょ?」

 ああ、そうか。俺たちは昼前に昼食を食べ終えたけど、今からが食べ物系屋台の昼の混雑ピーク時間帯かもしれない。

「ちょうどお昼頃だもんね」
「うん。職人さんはみんな基本的にお昼はしっかり食べるから、今の時間は素材を買いに来る人も少ないんだよ」

 ここにあるお店も一応お店自体は開けてくれてるけど、中では店員さんがお昼の時間中な事が多いんだって。

「さすがキースくん。そこまで考えてくれてるんだね」
「うん、案内するなら歩きやすさとかを考えるのも大事だっていう、ハル兄の教えだよ」

 自慢げに答えたキースくんの可愛さに、俺はうっと言葉に詰まった。

 ハルの教えた事がキースくんにちゃんと根付いてるよって、ハルにそう教えてあげたいなー。きっとハルはニコニコしながら、幸せそうに喜ぶんだろうな。

「次はあそこの角を曲がるよ」
「はーい」



 言われるがままに素直に移動していけば、今の時間に一番人が多いだろう食べ物系の屋台がある場所はうまく迂回する事ができたらしい。

「キースくんのおかげでここまで早かったね。ありがとう」
「へへー、どういたしまして」

 にぱーっと笑顔のキースくんと繋いだ手を揺らして、俺は路地裏に足を踏み入れた。

「パースのパン屋はこっちの奥にあるんだって。僕も行くのは初めてなんだ」
「あ、そうなんだ」
「うん、前はウィル兄が巡回の帰りに買ってきてくれて、皆で食べたんだ」

 ウィリアムさんって隊長さんなのに、自分でも巡回とかするんだ。いやもしかしたらこの世界では。隊長とかの方が率先して動くのかな。領主様が自分からスタンピードの場所に出向くぐらいだし。

 そんな事を考えながら歩いていると、不意にキースくんが立ち止まった。

「キースくん、どうしたの?」
「えっと…そこのお店が気になって…」

 キースくんの視線の先を見てみれば、そこには大きなガラスが嵌めこまれているドアがあった。ドアの向こう側には、綺麗なガラスの器がいくつも並べられているのが見える。

 あ、確かにこれは気になるな。

「本当だ、良いね」
「アキトくんもそう思う?」
「うん…すごいね」

 もしこれにケンが作ってる枯れない花の木彫りを入れたら、すっごく綺麗だろうな。そう思うと、ついつい興味が湧いてきた。

「「入ってみる?」」

 そう言い出したのは、まさかの二人同時だった。

 まだそんなに遅い時間ってわけじゃないし、すこしぐらい寄り道しても良いよね。そんな気持ちで口にした言葉が綺麗に重なって、俺達は顔を見合わせて笑い合った。

 じゃあ入ろうかとドアノブに片手で触れた時、不意にキースくんが呟いた。

「まさかこんな所に知らない本屋さんがあるなんて…」

 予想外のキースくんの言葉に、俺はノブに触れたままさっと隣を振り返った。

「え、どうしたのアキトくん」
「本屋…?」
「うん、だってあんなにたくさん本が並んでるよ?」

 本屋でしょう?と続けたキースくんの視線の先は、俺もさっき見つめていたドアのガラス部分だ。なんでと思いながら慌てて目線を向ければ、そこにはやっぱりガラス細工が並んでいる。

 花が似合いそうな綺麗なガラスの瓶だ。

「俺にはガラス細工が見えてる…」
「…っ!アキトくん、ドアから手を離してっ!」

 キースくんの慌てた声と表情に、俺はすぐにドアノブから手を離そうとした。

 だが、指先はピクリとも動かなかった。

「駄目だ、動かない」

 なかば叫ぶようにしてそう告げた次の瞬間、ドアから眩いほどの光が一気に溢れてきた。視界が真っ白になるなか、キースくんの魔道具だという小さな声だけが聞こえてきた。

――ごめん、ハル。何か厄介な事に巻き込まれたかもしれない。

 心の中で謝罪しながら、俺はぎゅっと目をつむった。
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