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1003.屋台のおじさん

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「ね、すごいよねぇ。ファーガス兄さんのお友達と同じパーティーの人なんだよー」

 誇らし気にそう続けたキースくんに、俺はん?とさらに逆方向に首を傾げた。

 現在ムレングのダンジョンを攻略中のパーティーに所属してて?ファーガスさんの友人が同じパーティーにいる?

 それってもしかして…?

「そのパーティーがお休みの時だけ、ああやって気まぐれに屋台をやってくれるんだって」

 なるほど。その上、定期的な休みを取れる珍しい冒険者パーティーに所属してると。

 うん、これってもう確定だよね?

「あのさ、キースくん。そのファーガスさんのお友達ってもしかして…サイクさんって人かな?」
「あ、うん、そうだよ。その人!そこのパーティーのリーダーがあの屋台の人なんだって」

 名前は知らないけどとキースくんは笑顔で教えてくれた。

 おおう。ものすごく美味しい料理を作って食べさせてくれたあの屋台のおじさんが、まさかのサイクさんとミルゴさんが所属してるパーティーのリーダー本人なのか。

 と言う事は、あの人が魔法使いなのに最近では魔法だけじゃなく、盾の使い方を学び始めてるんだって聞いてたあのリーダーって事になるよね。

 俺は料理は全然できないから、料理が得意なパーティーメンバーのために材料を集める係なんだ。そんな風にサイクさんは苦笑しながら話してくれてた。

 つまり料理が得意なメンバーってのがあの人だったって事だよね。

 え、ちょっと待って。ということは、料理をしてくれるのもあの人って事!?あんなに美味しい料理をダンジョンでも食べられるって事なのか。

 なんだろう、ルセフさんと言いパーティーを率いるリーダーって料理が上手くないと駄目っていう、この世界の暗黙のルールとかがあったりするのかな。

 いや、それともパーティーメンバーの胃袋を握った人が、自然とリーダーになるのかな?

「ねぇ…大丈夫?」
「あ、うん、ごめんね。ちょっとびっくりしただけだよ」

 まさかこんな所で知り合いと繋がると思ってなかったからねと呟けば、キースくんは不思議そうに何度も瞬きをしてから控え目に尋ねてきた。

「そう言うって事は…アキトくんは、サイクさんと知り合いなの?」
「うん、この前ハルと行ったダンジョンで知り合ったんだ」

 一緒に魚釣りをして、一緒にご飯を食べて、その後には一緒にルダリオンと戦った事も隠さずに伝えた。だってキースくん、俺達がルダリオンと戦った事は既にちゃんと知ってるもんね。

「そうなんだ!すごいなー、僕まだちゃんとサイクさんに会った事ないんだ」

 ファーガス兄ちゃんの数少ないお友達の一人なのにと寂し気なキースくんに、俺は慌てて声をかけた。

「サイクさんに会いたいなら、騎士団の早朝訓練が良いかも」
「え…?」
「この前ジルさんと騎士団の早朝訓練を見学しに行った時も、来てたからね」

 まあ距離はあったし、たぶんサイクさんにも気づかれてないんだけど。そんな事を考えながらちらりと視線を向ければ、キースくんはえっと驚いた様子で俺の方をまじまじと見つめた。

「早朝訓練に来てるんだ…」
「うん、来てたね」
「そっかーでも僕まだ小さいからって訓練場に入れてもらえないんだ…会えなくてもせめて見てみたかったな」

 あそこは貴族でも騎士団員でも衛兵でも冒険者でも一般市民でも入れる開かれた場所けど、成人だけはしていないと入れない規則になっているんだって。

 それだけは絶対らしく、何なら魔道具で侵入禁止にされているらしい。

 しょんぼりしてるキースくんに、思わず俺は声をかけてしまった。

「あ…えっと、これは秘密の話なんだけど…良いかな?」
「秘密…うん、ちゃんと守るよ!アキトくんがそう言うなら、家族にも言わない!」

 即答してくれた可愛い友人に、ジルさん相手には秘密にしなくて良いからねと言葉を続ける。

「俺達も訓練場には行かずに、建物の中から見学したんだ」
「…どうやって?」
「執事長のボルトさんが手配してくれてね」
「……それって、僕も見たいって言ったら…迷惑かなぁ?」

 普通のこどもなら行きたい!って言う所なのに、俺とジルさんの気持ちを考えて控え目に主張する所がキースくんらしいな。

 ジルさんがキースくんに迷惑だなんて言うわけが無いし、それは俺も同じだ。

 あの座り心地の良い梯子椅子だけは追加で作って貰わないと駄目かもだけど――それはボルトさんと使用人さん達に聞いてみよう。

 俺も一緒に作るのでキースくん用もお願いしますと言ってみて、無理なら最悪俺の膝だっこでも良いかな。

「迷惑なわけないよ!次は絶対キースくんも誘うね!」
「やったぁ!」
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