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1002.甘い方のサンド

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 どんな反応をするのかなーと明らかにワクワクした様子のキースくんにじっと見守られながら、俺は大きく口を開いてガブリとかぶりついた。

 ふわふわ食感の白パンと、パルポの実のしっかり甘いけどくどくないクリーム、そして甘酸っぱい独特の風味が口の中いっぱいに広がった。

 うわー、メーチェルって果物、サクランボみたいな味だ!

 しかもこれはアメリカンチェリーじゃなくて、明らかにサクランボの方。繊細な味なんだけど、サクランボみたいな以外に説明できない味。

「んーっ!!!これ、美味しいっ!甘酸っぱくてすっごく美味しいよ!キースくん!」
「良かったー甘酸っぱいなら、今食べたのは黄色の方だね!次は赤い方を食べてみて?」

 上目遣いでそう言われたので、コクリと頷いてからもう一口、今度は赤い方の実を狙って食べてみた。

 黄色と同じく赤い実もベースの味はサクランボなんだけど、更にそこに驚くほどの甘みが追加されてる。ジャムみたいに煮込んであるみたいな強烈な甘みを感じるんだけど、何故かこちらはシャキシャキとした食感がある。

「うわっ…甘いけど美味しいシャキシャキしてる!」
「そっちが完熟のメーチェルの実だね。食感も変わるの不思議だよね」

 甘いのだけだと飽きるって言って、黄色と赤色をあえて一緒に食べるのが人気なんだよーとキースくんはニコニコ笑顔で教えてくれた。

 うーん、すごいな、これ。びっくりするぐらい美味しい。しょっぱい系もすごかったけど甘い系もすごいな。美味しい。

「僕のも美味しかったよ。交換しない?」
「しよう!」

 キースくんの選んだヨホという果物は、すっごく濃厚なマスカット系の味がしたよ。今度この果物を見つけたら、買ってみたいなーと思うぐらい美味しかった。



 そのままワイワイと感想を言い合いながら楽しく食べ進めていくと、あっという間に二つのサンドは無くなってしまった。

 まあ食べると無くなるのは当たり前なんだけどさ。

 でも不思議な事にしょっぱい系サンドの時は無くなってしまうのが惜しいと思ってたのに、甘い系サンドまで食べ終わるとなんとなく満足した気分だ。

 もし目の前にあの屋台があったら、もう一回並んで買ってしまうだろうけど、美味しかったなーと余韻を楽しめる感じだ。

「美味しかったー」
「美味しかったねー」

 取り出した布で手を綺麗に拭いたりごみを片づけたりとしていると、不意にさあっと吹き抜けた風がサワサワと木々の葉っぱを揺らした。

 今の、良い風だったなー。

 大きな木の根っ子をベンチ代わりにしているおかげで、上を見上げれば葉っぱの隙間から少し空が見える程度の日陰がある。

 木漏れ日も綺麗だし、外みたいに暑くない。それに時折こうして風が吹くのが、すっごく気持ち良いんだよね。

 キースくんの選んでくれたこの場所は、最高だな。

 のんびりと座り込んだままで幸せを感じていると、不意にキースくんが口を開いた。
 
「あのね、あのお店ってね、開いてない日も多いんだよ」
「え、そうなの?」

 驚いて聞き返せば、ふふと笑顔が返ってきた。

「うん、昨日あの屋台が開いてたら良いのにって執事長のボルトに話したらね、少し前から開いてるようですよって教えてくれたんだ」

 あんなに美味しい料理ができる人だから、きっと常連さんも多いんだろう。それなのになんで?と俺は首を傾げた。

「あ、なんでって思ってる?」
「うん、思ってるね」

 表情の変化だけで、俺が何を考えてるか予想できるのもすごいな。

「あのねーあの屋台のおじさんは、有名な現役の冒険者なんだよ」
「え、そうなの?」
「うん。ムレングダンジョンを攻略してる、すごーい冒険者なんだ」

 最難関だって聞いてるムレングダンジョンを!?と驚いたのは、一瞬だけだった。

 だってよくよく考えたらさ、あんなにすごい精度でささっと魔力を練り上げて料理に使えるような人だよ。

 そりゃあダンジョン攻略をするような冒険者だってできるよね。あと何気にナイフさばきもすごかったし。

「へぇ、あの人って冒険者なんだ…すごいね」

 うん、色んな意味ですごい。そんなに強いのももちろんすごいし、冒険者が本職なのにあれだけ料理が上手ってのもすごい。

 感心しながら呟けば、キースくんはうんうんと頷いてくれた。
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