生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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1001.あっという間に

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 しょっぱいおかず系サンドの最後の一口をぽいっと口に放り込み、俺はもぐもぐと口を動かした。

 しっかり味わいながらも、もう食べ終わっちゃうなー無くなっちゃうなーと思っている自分に、なんだか笑ってしまった。

 この世界に来てからも、美味しいものは色々と食べてきた。何といっても俺にはハルという素晴らしい案内人がいたからさ、美味しくない食べ物に当たった事は今の所無い。

 そんな俺でも、もう無くなっちゃうなーとまで思う物はそう多くなかった。

 あ、でも黒鷹亭のレーブンさんと白狼亭のローガンさんの料理に対して思った事はあったし、ラスさんの料理に対しても思った事があるな。

 あのご家族の料理の腕前、すごすぎるよね。料理の腕前も遺伝するんだろうか…。

 あの料理人一家のみんな以外っていうと、ブレイズの所のパーティーリーダーであるルセフさんの手料理に対してもそう思ったな。あんなに美味しい料理をいつも食べれるんだから、きっとパーティーメンバーも幸せだろうな。

 あ、そうそう、それにそのルセフさんが教えてくれた料理人のルネさんの料理も、本当に美味しかったなー。あれは依頼後の打ち上げだった事もあって、みんなでもう無い!って騒ぎながら食べたのも楽しかった。

 うーん、こうやって思い出してみると、俺ってこの世界に来てから本当に美味しい物を食べてきたんだな。

 素晴らしい料理人さんたちが身近にいてくれたんだよね。後はハルの案内が素晴らしいんだけど。今まで俺の好みから外れたものをお勧めされた事が無いもんな…。

 あの屋台のおじさんは、食べ終わるのが惜しいぐらいに美味しい料理を作ってくれた。俺にとっては、まだ数人しかいないすっごい料理人の中の一人って事だ。

 名前も知らない人なんだけど顔は覚えてるから、また屋台を探してみよう。

「あー…もう無くなっちゃった…」

 そう呟いたキースくんは、すこししょんぼりとしながらすっかり空になってしまった大きな葉を見つめている。

 ああ、もしここにもしもう一個おかず系サンドがあったら、俺は速攻でそのお皿の上に足してあげてただろうなと思うぐらい、寂し気な様子だ。

「そうだね…でも美味しかったね!」

 いつも笑顔のキースくんが寂しそうな顔をしてるのは、正直に言って見ていてかなりつらい。これは耐えられないかもしれないぞと慌てた俺は、へたくそながらもそう声をかけた。

「うん、美味しかったよねーあ、でも!まだ甘いのがあるんだよ、アキトくん!」

 すごい発見だと言わんばかりに満面の笑みで教えてくれたキースくんに、俺は同じくらい満面の笑みでうんうんと何度も頷いた。笑顔になってくれて良かった。

「よし、それじゃあ甘いのも開けてみるね」
「うん、僕も開けよ、僕のはヨホっていう甘い果物にしてもらったんだー知ってる?」

 可愛く首を傾げて見上げてくるキースくんに、俺はんーと考えてから答えた。

「ヨホって果物は知らないな」

 全部を覚えてるわけじゃないから、多分…なんだけど俺が読んでた図鑑系にも載ってなかったと思う。

「えっとねー黄緑色で、トロッとしてて甘いんだーこの辺りだとダンジョン産が多いかな」

 なるほど。それは確かに美味しそうだ。

「へー美味しそうだね」
「良かったら、こっちも食べてみてね?」
「良いの?」
「もちろん!」

 嬉しそうに笑いながら頷いてくれるキースくんの可愛さを堪能しながら、俺は自分の包みに視線を落とした。

 常連であるキースくんはしっかりと中身の指定をしてたから、開ける前から具材が何か分かってるんだよね。

 一方俺はあの屋台のおじさんに全部丸投げのおまかせにしたから、何の具材を入れてくれてるのかは開けてみるまで全く分からない。

 いやまあ、さっきのしょっぱい系サンドが美味しすぎたから、こっちも絶対美味しいんだろうなーと思えるから不安とかは無いんだけどね。

 ワクワクしながら大きな葉の包みをそっとめくってみれば、真っ白なパンに真っ白なパルポの実のクリーム、そしてその間に赤と黄色の丸い粒がいくつも挟まれていた。

「これ…何だろう?」
「どれ?」

 僕で分かるかなーと言いながらもそっと俺の手の中を覗き込んだキースくんは、ハッと驚いた様子で呟いた。

「これはメーチェルの実だね!しかも二色ともある!」
「メーチェルの実?」
「えっと、これもダンジョン産だと思う。赤いのは完熟の証で、黄色はまだ熟しきってない色なんだ」
「へー」

 例え熟しきってないとしても、あのおじさんが入れたなら意味があるんだろう。そう思ってキースくんの言葉の続きを待っていると、ニコッと笑顔が返ってきた。

「これは説明するよりも前に、食べて欲しいな」
「キースくんがそう言うなら、そうしようかな」

 即答した俺は、ちょっとキースくんに弱すぎるかもしれない。
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