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992.拒絶失敗
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そこでファーガスさんに焼き菓子を食べて貰ったのが、このお店を持つきっかけになったりしたのかなー。
そんな事を想像しながらヴェリスさんの話しを聞いていた俺は、あまりにも予想と違う展開に驚いてしまった。
「え、領主様の一家の人に食べてもらえるせっかくの機会なのに、断っちゃったんですか?」
どう考えても、それってかなりのチャンスだよね。
「ええ、断っちゃいましたねぇ」
悪戯っぽい笑顔のヴェリスさんは、何でもない事のようにさらりとそう答えた。
「もちろん、断った理由もちゃんとありますよ」
俺は全然知らなかったんだけど、領主城の料理人には身元をしっかりと調査して安全だと確認された人しかいないんだって。
もし万が一料理に何かを混ぜられてはたまらないからと、貴族の家ではきちんと身元調査をするのが基本らしい。
まあそう言われると、それもそうかって納得はできるんだけどね。
「当時の私は、まだ入ったばかりの下っ端のメイドでしたから」
当時、メイドさん達は、領主城に出入りするために必要な最低限の検査しか受けてなかったんだって。
その検査って言うのは、まさかの冒険者ギルドでのランクアップ試験で使用されている、あの嘘発見器らしい。
ちなみにこの情報は、隣に座っていたキースくんが教えてくれたんだよ。俺が冒険者だからきっと使った事もあるよねーって笑顔でね。
天使みたいに可愛い上に、賢いってすごくない?
「教えてくれてありがとう、キースくん」
「どういたしまして」
へへーと笑い合う俺達の会話が終わるのを待って、ヴェリスさんは続けた。
「その程度の検査しか受けていない私が作ったものを、貴族でもある領主様一家の一員に食べて頂くわけにいきませんと、それは絶対にしてはいけない事なんですと、必死になって説明しましたねぇ」
その頃を思い出しているのか、ヴェリスさんは懐かしそうに笑っている。
「あー…なるほど。そうなんですか…まあ確かに悪い物は何も入れてないのではいどうぞーと気軽に上げる事はできないですよね」
貴族とか庶民とかって問題もあるけど、もしかしたら体に合わないものを使ってるかもって可能性もあるからね。
あれ、この世界にもアレルギーってあるのかな?少しだけ気になったけど、ここで聞くわけにもいかないから、覚えておいて後でハルに聞くか本で調べてみようかな。
「ヴェリス婆…その説明で、ファーガス兄様はあきらめてくれたの?」
キースくんはハラハラした様子でそう尋ねた。これはヴェリスさんを心配してるのかな、それともお菓子を貰えなかったファーガスさんを心配してるのかな。
「ファーガス様はその場ではわかったと頷いて引き下がってくださったんですが――後日、ご両親に食べたいと話したそうなんです」
「あーなるほど。まあこの香りを嗅いでるのに食べられないのは、俺でもつらいかもしれません」
そこでヴェリスさんは、ケイリーさんとグレースさんの前に連れていかれて説明をする事になったそうだ。まだ入ったばかりのメイド一人であのお二人の前に連れていかれるのはさすがにひどいと、当時の執事長さんとメイド長さんも一緒に来てくれたらしい。
ちなみにヴェリスさんはご本人いわくのんびりとした性格だったからか、お二人を前にしても特に怖いとは思わなかったらしい。
「そのおかげで拒否した理由はしっかりと説明できたんですけどねぇ―――」
「え、その説明で納得してくれなかったんですか?」
ケイリーさんとグレースさんなら、きっときちんと説明をされたら受け入れてくれると思ったんだけどな。
「ええ、それが…あのお二方はそれなら商業ギルドから最高レベルの鑑定魔法が使える人を連れてきて鑑定してからならどうだろう?っておっしゃるんですよ」
「鑑定魔法が使える人を…」
「連れてくる…?」
さすがのキースくんも、かなりの戸惑い顔だ。
高度な鑑定魔法が使える人ってすごく少ないって、ハルも言ってたもんな。それをメイドさんが作っているお菓子を鑑定するために呼んじゃうのか。
「でも――なんだかお二人の印象と違いますね」
無理を言ってすまなかったで終わらせそうな気がしたんですけどと呟けば、ヴェリスさんは困り顔で続けた。
「それまで、ファーガス様が何かを食べたいと主張した事は無かったそうなんです」
「あー…なるほど…初めて食べたいと自分から主張したもの…ですか」
当時から凄腕だったラスさんがファーガスさんの少ししか変化しない表情を読み取って、好みに合わせて料理を作ってくれていたせいもありますがと、ヴェリスさんは困り顔で続けた。
そんな事を想像しながらヴェリスさんの話しを聞いていた俺は、あまりにも予想と違う展開に驚いてしまった。
「え、領主様の一家の人に食べてもらえるせっかくの機会なのに、断っちゃったんですか?」
どう考えても、それってかなりのチャンスだよね。
「ええ、断っちゃいましたねぇ」
悪戯っぽい笑顔のヴェリスさんは、何でもない事のようにさらりとそう答えた。
「もちろん、断った理由もちゃんとありますよ」
俺は全然知らなかったんだけど、領主城の料理人には身元をしっかりと調査して安全だと確認された人しかいないんだって。
もし万が一料理に何かを混ぜられてはたまらないからと、貴族の家ではきちんと身元調査をするのが基本らしい。
まあそう言われると、それもそうかって納得はできるんだけどね。
「当時の私は、まだ入ったばかりの下っ端のメイドでしたから」
当時、メイドさん達は、領主城に出入りするために必要な最低限の検査しか受けてなかったんだって。
その検査って言うのは、まさかの冒険者ギルドでのランクアップ試験で使用されている、あの嘘発見器らしい。
ちなみにこの情報は、隣に座っていたキースくんが教えてくれたんだよ。俺が冒険者だからきっと使った事もあるよねーって笑顔でね。
天使みたいに可愛い上に、賢いってすごくない?
「教えてくれてありがとう、キースくん」
「どういたしまして」
へへーと笑い合う俺達の会話が終わるのを待って、ヴェリスさんは続けた。
「その程度の検査しか受けていない私が作ったものを、貴族でもある領主様一家の一員に食べて頂くわけにいきませんと、それは絶対にしてはいけない事なんですと、必死になって説明しましたねぇ」
その頃を思い出しているのか、ヴェリスさんは懐かしそうに笑っている。
「あー…なるほど。そうなんですか…まあ確かに悪い物は何も入れてないのではいどうぞーと気軽に上げる事はできないですよね」
貴族とか庶民とかって問題もあるけど、もしかしたら体に合わないものを使ってるかもって可能性もあるからね。
あれ、この世界にもアレルギーってあるのかな?少しだけ気になったけど、ここで聞くわけにもいかないから、覚えておいて後でハルに聞くか本で調べてみようかな。
「ヴェリス婆…その説明で、ファーガス兄様はあきらめてくれたの?」
キースくんはハラハラした様子でそう尋ねた。これはヴェリスさんを心配してるのかな、それともお菓子を貰えなかったファーガスさんを心配してるのかな。
「ファーガス様はその場ではわかったと頷いて引き下がってくださったんですが――後日、ご両親に食べたいと話したそうなんです」
「あーなるほど。まあこの香りを嗅いでるのに食べられないのは、俺でもつらいかもしれません」
そこでヴェリスさんは、ケイリーさんとグレースさんの前に連れていかれて説明をする事になったそうだ。まだ入ったばかりのメイド一人であのお二人の前に連れていかれるのはさすがにひどいと、当時の執事長さんとメイド長さんも一緒に来てくれたらしい。
ちなみにヴェリスさんはご本人いわくのんびりとした性格だったからか、お二人を前にしても特に怖いとは思わなかったらしい。
「そのおかげで拒否した理由はしっかりと説明できたんですけどねぇ―――」
「え、その説明で納得してくれなかったんですか?」
ケイリーさんとグレースさんなら、きっときちんと説明をされたら受け入れてくれると思ったんだけどな。
「ええ、それが…あのお二方はそれなら商業ギルドから最高レベルの鑑定魔法が使える人を連れてきて鑑定してからならどうだろう?っておっしゃるんですよ」
「鑑定魔法が使える人を…」
「連れてくる…?」
さすがのキースくんも、かなりの戸惑い顔だ。
高度な鑑定魔法が使える人ってすごく少ないって、ハルも言ってたもんな。それをメイドさんが作っているお菓子を鑑定するために呼んじゃうのか。
「でも――なんだかお二人の印象と違いますね」
無理を言ってすまなかったで終わらせそうな気がしたんですけどと呟けば、ヴェリスさんは困り顔で続けた。
「それまで、ファーガス様が何かを食べたいと主張した事は無かったそうなんです」
「あー…なるほど…初めて食べたいと自分から主張したもの…ですか」
当時から凄腕だったラスさんがファーガスさんの少ししか変化しない表情を読み取って、好みに合わせて料理を作ってくれていたせいもありますがと、ヴェリスさんは困り顔で続けた。
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