988 / 1,179
987.案内役は
しおりを挟む
今日領主城に帰ったら、キースくんと友達になったんだってハルに報告しよう。
人見知りのキースくんの方から、友達?って聞いてくれたんだよ。そう話したらきっとハルは、キースくんの成長を感じて喜ぶんだろうな。
隣を歩いているキースくんにちらりと視線を向けてみれば、ニコニコ笑顔を浮かべた楽しそうな表情が目に飛び込んでくる。
俺と友達って言われただけで、こんなに喜んでくれてるんだもんな。それだけで、俺もついつい笑顔になっちゃうよ。
二人揃って笑顔のまま森を通り抜けて、今度は市街地へと道を歩いていく。ウェルマ市場までの道は、もう何度も通ったルートだからさすがに覚えてきた。
問題はウェルマ市場の中なんだよね。基本的には一本道なんだけど、その道が微妙に曲がってたりするからどこに繋がってるのかとかが、いまいちよく分からない。
ハルが案内してくれてる時はあんまり意識してなかったけど、改めて考えると単純そうに見えて結構複雑なんだよね。
迷子にならないように気をつけないとな。そんな事を考えながら、俺は内心すこし緊張しつつ市場へ足を踏み入れたんだけど、そんな心配は全く不要だった。
というのも、ウエルマ市場に入るなり、張り切った様子のキースくんが笑顔で案内を始めてくれたんだ。
それがすごいんだよ。俺がどっちに行こうかって考える前に、こっちだよとか、今の時間はこっちの方が空いてるからこっちから行こうとか教えてくれるんだ。すっごく道に詳しくて、まるでハルと一緒にいるみたいだ。
きびきび張り切って案内してくれてると思ったら、たまに家族の好きなお店の情報とかを教えてくれるのもすごく可愛くて癒される。
あそこの店はジルさんお気に入りの石鹸を売ってるんだとか、あそこの屋台は僕には少し辛い味付けだけど、父さんはあれが大好きなんだとかね。
領主様一家も庶民に混ざって市場で買い物してたりするんだ。まああの人達ならそんな事は気にしなさそうだし、そもそもみんな強いから大丈夫なのかな。
キースくんが楽しそうに色々と話しながら笑顔で案内してくれるから、俺もどんどん楽しくなってくる。
「キースくんは、道案内がうまいんだね」
「そう…かな?」
「うん、ハルみたいだと思ったよ」
あれ、これもしかして駄目だった?兄と比べられたって思われちゃうやつかなと、口にしてしまってから気づいてしまった。
俺にとっては、ハルみたいは最上級の誉め言葉なんだけどね。
「…本当にそう思う?」
あ、顔が嬉しそうに笑ってるから、どうやら比べられて嫌ってわけじゃないみたいだ。ほっとしながら、俺はキースくんに笑いかけた。
「うん、思うよ!ハルも案内がすごく上手なんだ。道に詳しいのももちろんだけど、こうやって色んな情報を教えてくれる所もすごく似てる」
「そっかー…それは嬉しいな」
照れくさそうにキースくんは笑みを浮かべた。
「僕ね、ハル兄さんみたいになりたくて、道を覚えたりしてるんだ」
うわー…これは…もしハルが知ったら、気絶するレベルの可愛さじゃない?お兄ちゃんみたいになりたいって努力する弟って、もう存在からして可愛すぎると思う。
「すごいね、キースくんならきっとなれるよ」
そうかなーと照れ笑いを浮かべたキースくんの可愛さを堪能しつつ、俺はぐるりと周囲に視線を向けた。
さっきから気になってたけど、やっぱり今日も衛兵や騎士らしき人がたくさんいるみたいなんだよね。制服の人から私服の人まで様々だけど、何となくそうかなーって判断ができる人が多い。
あと、そういう人からたまに視線を感じるんだよね。
嫌な視線とかってわけじゃなくて、明らかに俺とキースくんが無事かを確認してる感じ。もしかしてあの人達がハルのいってた護衛だったりするなのかな。
そんな事を考えながらぼんやりしていると、無意識のうちに一人の騎士さんをじっと見つめてしまっていたみたいだ。戸惑った様子で困り顔の私服のその騎士さんは、早朝訓練の時にウィリアムさんの隊員にいた人だったんだ。
「アキトくん?」
「あ、ごめん」
心配そうに見上げてきたキースくんは、俺の視線の先に気づくとハッとした様子で俺の袖をくいくいと引っ張った。
引っ張られるままに道の端へと歩いていくと、しゃがんで欲しいとジェスチャーをされた。すぐにその場にしゃがみこめば、キースくんはこっそりと耳元で囁いた。
「あのね、私服の衛兵や騎士の中に、もし知り合いがいても気づかないふりをしないと駄目なんだよ」
「え、そうなの?」
「うん、巡回の邪魔にならないようにって規則なんだ」
わーじゃあ思いっきり見つめてしまったのは、まずかったんだ。
「ごめん、全く知らなかった。ハルは普通に声をかけてたから…」
問題ないのかと思ってたんだよね。
「それはたぶん何かがあったんじゃないかな?」
「あ、粗悪品の魔道具屋台を発見した時だった」
「そういう時は良いんだよーでも、ハル兄なら、周りが聞いてても大丈夫なようにうまく声をかけてると思うよ」
ちょっと自慢げにそう言い放ったキースくんの可愛さに、ハルもここにいたら良かったのにと心の中で呟いた。
人見知りのキースくんの方から、友達?って聞いてくれたんだよ。そう話したらきっとハルは、キースくんの成長を感じて喜ぶんだろうな。
隣を歩いているキースくんにちらりと視線を向けてみれば、ニコニコ笑顔を浮かべた楽しそうな表情が目に飛び込んでくる。
俺と友達って言われただけで、こんなに喜んでくれてるんだもんな。それだけで、俺もついつい笑顔になっちゃうよ。
二人揃って笑顔のまま森を通り抜けて、今度は市街地へと道を歩いていく。ウェルマ市場までの道は、もう何度も通ったルートだからさすがに覚えてきた。
問題はウェルマ市場の中なんだよね。基本的には一本道なんだけど、その道が微妙に曲がってたりするからどこに繋がってるのかとかが、いまいちよく分からない。
ハルが案内してくれてる時はあんまり意識してなかったけど、改めて考えると単純そうに見えて結構複雑なんだよね。
迷子にならないように気をつけないとな。そんな事を考えながら、俺は内心すこし緊張しつつ市場へ足を踏み入れたんだけど、そんな心配は全く不要だった。
というのも、ウエルマ市場に入るなり、張り切った様子のキースくんが笑顔で案内を始めてくれたんだ。
それがすごいんだよ。俺がどっちに行こうかって考える前に、こっちだよとか、今の時間はこっちの方が空いてるからこっちから行こうとか教えてくれるんだ。すっごく道に詳しくて、まるでハルと一緒にいるみたいだ。
きびきび張り切って案内してくれてると思ったら、たまに家族の好きなお店の情報とかを教えてくれるのもすごく可愛くて癒される。
あそこの店はジルさんお気に入りの石鹸を売ってるんだとか、あそこの屋台は僕には少し辛い味付けだけど、父さんはあれが大好きなんだとかね。
領主様一家も庶民に混ざって市場で買い物してたりするんだ。まああの人達ならそんな事は気にしなさそうだし、そもそもみんな強いから大丈夫なのかな。
キースくんが楽しそうに色々と話しながら笑顔で案内してくれるから、俺もどんどん楽しくなってくる。
「キースくんは、道案内がうまいんだね」
「そう…かな?」
「うん、ハルみたいだと思ったよ」
あれ、これもしかして駄目だった?兄と比べられたって思われちゃうやつかなと、口にしてしまってから気づいてしまった。
俺にとっては、ハルみたいは最上級の誉め言葉なんだけどね。
「…本当にそう思う?」
あ、顔が嬉しそうに笑ってるから、どうやら比べられて嫌ってわけじゃないみたいだ。ほっとしながら、俺はキースくんに笑いかけた。
「うん、思うよ!ハルも案内がすごく上手なんだ。道に詳しいのももちろんだけど、こうやって色んな情報を教えてくれる所もすごく似てる」
「そっかー…それは嬉しいな」
照れくさそうにキースくんは笑みを浮かべた。
「僕ね、ハル兄さんみたいになりたくて、道を覚えたりしてるんだ」
うわー…これは…もしハルが知ったら、気絶するレベルの可愛さじゃない?お兄ちゃんみたいになりたいって努力する弟って、もう存在からして可愛すぎると思う。
「すごいね、キースくんならきっとなれるよ」
そうかなーと照れ笑いを浮かべたキースくんの可愛さを堪能しつつ、俺はぐるりと周囲に視線を向けた。
さっきから気になってたけど、やっぱり今日も衛兵や騎士らしき人がたくさんいるみたいなんだよね。制服の人から私服の人まで様々だけど、何となくそうかなーって判断ができる人が多い。
あと、そういう人からたまに視線を感じるんだよね。
嫌な視線とかってわけじゃなくて、明らかに俺とキースくんが無事かを確認してる感じ。もしかしてあの人達がハルのいってた護衛だったりするなのかな。
そんな事を考えながらぼんやりしていると、無意識のうちに一人の騎士さんをじっと見つめてしまっていたみたいだ。戸惑った様子で困り顔の私服のその騎士さんは、早朝訓練の時にウィリアムさんの隊員にいた人だったんだ。
「アキトくん?」
「あ、ごめん」
心配そうに見上げてきたキースくんは、俺の視線の先に気づくとハッとした様子で俺の袖をくいくいと引っ張った。
引っ張られるままに道の端へと歩いていくと、しゃがんで欲しいとジェスチャーをされた。すぐにその場にしゃがみこめば、キースくんはこっそりと耳元で囁いた。
「あのね、私服の衛兵や騎士の中に、もし知り合いがいても気づかないふりをしないと駄目なんだよ」
「え、そうなの?」
「うん、巡回の邪魔にならないようにって規則なんだ」
わーじゃあ思いっきり見つめてしまったのは、まずかったんだ。
「ごめん、全く知らなかった。ハルは普通に声をかけてたから…」
問題ないのかと思ってたんだよね。
「それはたぶん何かがあったんじゃないかな?」
「あ、粗悪品の魔道具屋台を発見した時だった」
「そういう時は良いんだよーでも、ハル兄なら、周りが聞いてても大丈夫なようにうまく声をかけてると思うよ」
ちょっと自慢げにそう言い放ったキースくんの可愛さに、ハルもここにいたら良かったのにと心の中で呟いた。
654
お気に入りに追加
4,204
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる