生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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「アキト、キース、くれぐれも気を付けてね」

 あまりにも心配そうな表情で告げられたハルの言葉に、俺とキースくんは思わず顔を見合わせてから苦笑してしまった。

「うん、ちゃんと気を付けるね」
「ハル兄、まかせて」

 俺とキースくんの事を心配してくれるハルの気持ちは、すごく嬉しい。すごく嬉しいんだけど、この会話さっきから何回目だろう。

「俺も一緒に行きたかったな…」
「次は絶対、ハル兄も一緒に行こうね」

 ニコニコ笑顔のキースくんにそう言われれば、兄としてそれ以上何かを言う事もできなかったのか、ハルは複雑そうな表情でこくりと一つ頷いた。



 本来なら今日は俺とハル、そしてキースくんの三人で市場に遊びに行く予定だったんだけど、ハルに急用が入っちゃったんだ。

 もちろんハルは先約があるからって何とか断ろうとはしてくれたんだけど、さすがに今回ばかりは断り切れなかったんだよね。

 というのも、あのルダリオンの一件があってから、辺境領ではあちこちで同時に調査を進めていたんだって。その結果、他にもあまりこの辺りでは見かけないような、A級の強い魔物が何体か見つかったらしい。

 ちなみにその魔物たちは、既に騎士や衛兵、冒険者の人達で全て倒したらしいよ。

 やっぱりここの人達ってすごいよね。他の地域だったらものすごく大騒ぎになりかねない事態なのに、もうしっかり全部倒しちゃってるんだから。

 そんなわけであっさりと魔物は倒してしまったけど、問題はその魔物が現れた原因が全く分かっていない事なんだって。

 その原因を探るための対策会議に、ハルも出席する事になったんだ。

 ハルの所属は今もトライプール騎士団なんだけど、さすがに家族なら所属が違ってもこいう会議に参加する事はできるんだって。

 お互いの騎士団が持つ機密情報の漏洩さえしなければ良いっていう、王家が定めた法律もあるらしいよ。

 いざという時に所属とか管轄とかを気にせずに色んな所の騎士団と協力できるって、何気にすごい事だと思う。

 ちなみに俺はハルの伴侶候補ではあるけど、まだハルの正式な伴侶ってわけじゃない。まだ書類上では家族じゃないから、今回の会議には参加できないんだって。

 別に俺はその会議にすっごく参加したいってわけじゃないから何の問題も無いんだけど、ものすごく申し訳なさそうな顔をしたケイリーさんがそう説明してくれたんだ。

「これはもちろん、あくまで書類上の話しだからね?私たち家族にとっては、既にアキトくんはもう家族だからね?誤解しないでね?」

 大慌てでそう弁解してくれるケイリーさんの姿に、胸がほっこりしちゃったよ。



 ハルが対策会議に出席するのは絶対として、問題はキースくんとの約束だった。

 数日前から顔を合わせる度にどこに行きたいかって相談をしてたし、俺が気になるっていったお店をメイドさん達に聞いて情報収集してくれたりしてたんだよね。

 すっごく楽しみにしてくれていたのを知ってるだけに、ハルの予定が無理になったから今日はやめておこうとは言いたくない。

「キース、対策会議の事は聞いた?」
「うん、聞いたよ」

 物分かりの良いキースくんは、しょんぼりと肩を落とししながらも仕方ないよと少し寂しそうに呟いた。

 あー駄目だ。やっぱり今日は無しでとは言いたくない。

「ねぇ、ハル。俺とキースくん、二人だけで市場に行くのは…駄目なのかな?」
「アキトとキースの二人だけで…?」
「え、アキトくんは、一緒に市場に行くの…僕と二人だけでも良いの?」

 最近になってようやく敬語なしで話してくれるようになったキースくんは、キラキラと目を輝かせてそう尋ねてくれた。

 よし、少なくともキースくんは乗り気みたいだ。

「ハル、駄目かな?」
「いや、駄目というわけでは無いよ…俺も行きたかった…けど…」
「ハルも一緒にもまた行こうよ」

 そう声をかけてから、そっとハルに顔を近づける。

「たださ、キースくん、すごく楽しみにしてくれて下調べとかもしてくれてたんだ。だから、今日は駄目って言いたくないだけなんだ」

 こっそりとそう囁けば、ハルはなるほどとすぐに頷いてくれた。

「分かった。それじゃあ条件を二つだけ出して良いかな?」
「条件?」
「ああ、一つ目、二人とも危険な場所には行かない事」

 目的地はウェルマ市場だけだから、危険な場所になんて行かない。俺とキースくんはコクコクと頷いた。

「二つ目、護衛をつけても良いか?」
「護衛…?」
「ああ、何かあった時のためにね。あ、でも二人で楽しみたいだろうから、こっそり陰から護衛するようにするよ」

 なるほど。知らない人と一緒に市場を回るわけじゃないなら、むしろ助かるかもしれない。

「僕は問題ないよ」
「うん、キースくんが良いなら俺も大丈夫」
「それじゃあ、手配する時間だけ貰えるかな?」

 ハルはそう言うと、慌てた様子で部屋から出ていった。

「アキトくん、ありがとう」
「ん?」
「本当はおでかけしたかったんだ」
「そっか。俺もキースくんとのおでかけ楽しみだよ」

 そんな言葉を交わして、俺達は笑い合った。
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