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 早朝訓練が終わるまでの時間は、それなりにあったはずなんだけど俺にとってはあっという間だった。

 真剣なハルに見惚れてる間に終わっちゃったもんな。

 ファーガスさんがマティさんと相談して考えてるっていう訓練をしてる所も見ようと思ってたんだけど、すっかり忘れてた。なんだか申し訳ないな。

 訓練に参加していた人たちもバラバラに帰り始めているから、もう解散になったんだろうな。

「アキトさん、そろそろ行きましょうか?」
「えっと…帰るんじゃなくてですか?」
「ええ、二人に会いに行きましょう!」

 いつになく興奮した様子のジルさんは、なんだかすごく可愛い。ウィリアムさんの訓練に、すっかり見入ってたもんな。

 気持ちは分かるけど。

「こっそり二人が帰る前に帰っておくのかと思ってました」
「もしかして、会いに行くのは嫌ですか?」
「いえ、そういうわけじゃないです!ぜひ!会いに行きましょう!」

 俺も無性にハルに会いたい。

 慣れない高いソファからなんとか無事に地面に下りて、俺とジルさんは入ってきた絵画の方へと歩き出した。

 ジルさんが絵画の横の壁を軽く叩くと、すっと絵画が動いた。

 そんなところにスイッチとか仕掛けがあるのかと驚いたけど、尋ねるより先に絵画の向こうから執事長のボルトさんが顔を出した。

 きっとボルトさんが開けてくれたんだろうな。

「お二人とも、堪能できましたか?」
「はい!」
「すごかったです!」
「それは良かったです。このあとはどうされますか?」
「二人に会いに行きたいです」

 ジルさんがそう答えれば、ボルトさんはちらりと俺にも視線を向けてきた。コクコクと頷けば、優しい笑みが返ってきた。

「ではこちらへどうぞ」



 ここに来た時とはまた違う廊下や部屋をたくさん抜けて、俺たちは一本の廊下にたどり着いた。

 華やかな装飾がたくさんあるから、これは表の廊下だろうな。

「まもなくここを通られるかと…」

 ボルトさんがそう言った途端、ちょうど視界の先にあった角を曲がってハルとウィリアムさんが現れた。

「え、ジル!?」
「アキト!」

 慌てて駆け寄ってきた二人は、ボルトさんが壁際に控えているのをちらりと見てからそれぞれが声をかけてきた。

「ジルってばお迎えにきてくれたのー?」
「いえ、そういうわけではないんですが」

 ぐいぐいと近づいてくるウィリアムさんに、ジルさんは困り顔で返している。

「アキト、何故ここに?」
「えっと…早朝訓練が見てみたくて…ジルさんと見学してたんだ」
「え、ジルとアキトくんが見てたの?」
「そうなのか?」

 うんと頷けばウィリアムさんは分かりやすくテンションがあがって、一気にジルさんに駆け寄って行った。

 あれ、ハルはちょっと複雑そうな顔だ。もしかして勝手に見たら良くなかった?

「先に言ってくれたら…」

 やっぱり嫌だったのか。

 慌てて謝ろうとしたけど、それより先にハルが口を開いた。

「アキトが見てるって知ってたら、もうすこし派手な訓練をしたのに…」
「え、そこ?」
「だって今日の訓練、かなり地味だったでしょ?もっと格好良い所をみてもらいたかった…」

 しょんぼりと肩を落としたハルに、俺は慌てて声をかけた。

「そんなことないよ!真剣に訓練してるハルはすっごく格好良くて、あっという間に時間が過ぎるぐらい見惚れたんだから!」
「…本当?」
「こんなことで嘘つかないよ!攻撃、すごく強くなってたよね」
「サイクさんが指導してくれたからね」

 俺の言葉に嘘がないことは分かってもらえたようで、ハルは落ち着いた声でそう答えてくれた。

 ちらりと様子を伺えば、ウィリアムさんはジルさんに率直に褒められたみたいで顔を赤くして照れているみたいだ。

 ジルさんはそんなウィリアムさんを、笑顔で見守ってる。

 うん、いまなら大丈夫かな。

 俺はちょいちょいとハルを手招いた。素直に近づいてきてくれたハルの頬に、そっとキスをしてみる。

「なっ!アキト…?」

 あ、ハルの顔も赤い。さっきはあんなに格好良かったのに、いまはこんなにも可愛い。

「したくなった」 
「いや、いつでも歓迎だけどね。ちょっとびっくりしただけで」

 ニコニコと笑い合っていると、不意に後ろから声をかけられた。

「仲良しで良いねー」

 これはもしかして見られたやつかな。まぁハルの家族だから良いか。

「それにしても、いったいどこから見てたんだ?」

 ハルの質問に答えようとしたけど、ジルさんに名前を呼んで止められた。

「それは私とアキトさん、それにボルトさんの秘密にしておきませんか?」
「えーなんでー?」
「教えてくれないんですか?」
「ええ、教えません。アキトさんとまたいつかこっそり見に行くつもりですから」

 ニコッと笑ったジルさんは、もちろんアキトさんさえ良ければですがと続けた。

 そんなの答えは一つだよね。

「ぜひご一緒させてくださいっ!」
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