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980. 【ハル視点】強くなりたい理由
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「じゃあ、まずは今のハルの全力攻撃を俺に見せてくれるか?」
ニッと笑ったサイクさんに促され、俺は剣を抜いて魔道具に向き直った。
――今の自分にできる、全力の攻撃か。
ぐっと愛用の剣を握る手に力を込めて、少しだけ腰を落とす。息を整えてからそのまま一気に振り切って攻撃をすれば、目の前の魔道具がバサリと切り裂かれた。
一瞬で元に戻っていく魔道具の傷を睨むようにして見つめながら、やはりこの程度かと少しだけ落胆してしまう。
「やっぱり威力が足りないんだよな…」
思わずそう口にすれば、サイクさんはいやそんな事は無いだろうと不思議そうに続けた。
「でもサイクさんの攻撃と比べれば――全然だろう?」
「いやいや、俺の使ってるこういう大斧ってやつはな、そもそも攻撃の威力が出やすいんだよ。元々攻撃力が高い武器だからな」
サイクさんはそう言うと、軽々と大斧を振り回してみせた。
「ハルが使うようなそういう剣は、やっぱり大剣や大斧と比べればどうしても一発の威力は落ちる。だが、ハルはその分、手数で勝負するタイプだろ?」
「ああ、まあそうだな」
「剣使いとしてなら、ハルは既にかなり強い部類になる。それこそムレングのダンジョンでも、普通に通用するぐらいにな。それでも、まだ強くなりたいのか?」
お前には無理だと言うわけでもなく、無謀だと馬鹿にしているわけでもない。ただ、俺の真意が知りたいんだなと、真剣な目を見ればすぐに理解できた。
「これでは足りないんだ」
「足りない…?」
「ああ、俺が強くなりたい理由は、アキトだよ」
ボソリとそう呟けば、サイクさんは眉間にしわを寄せながら答えた。
「アキトを守るため…か?まあそういう動機も否定はしないが…だが」
まだ続きそうなサイクさんの言葉を、俺は目線だけで否定した。
違う。そういう意味じゃないんだ。視線だけで気づいて言葉を途切れさせたサイクさんは、じっと俺の言葉を待ってくれている。
「アキトはさ、いつも俺を守ろうとしてくれるんだよ」
「は?アキトが?ハルを守るのか?」
きょとんとした顔のサイクさんは、思わずと言った様子でそう口にした。まあ、そういう反応になるよな。俺の家族たちですら、本当に?と聞き返したぐらいだからな。
「ああ、そもそも俺に守ってもらおうなんてかけらも思っていないし、実際にそれが出来るだけの強さが、アキトにはある」
色々な魔法使いを見てきたが、どう考えてもあの魔法は規格外だ。
どうやらアキトは魔法を教えてくれた師匠が良いからだと思っているようだが、あれはそういう言葉で済ませられるレベルじゃない。。
得意の土魔法をはじめとした攻撃魔法、強化や弱体化の出来る補助魔法、そしてあの不思議なアキトと俺を回復した魔法。
どれもアキト本人の資質が、飛びぬけて優れていたから使える魔法だ。
「確かにアキトの魔法はすごいと思ったが…」
ルダリオン相手に魔法を放った時のアキトを、サイクさんも近くで見ているからな。理解が早い。
「別に俺は、アキトのために強くなりたいというわけじゃないんだ」
そう、これは決してアキトのためなんかじゃない。ただの俺の我儘だ。
「俺はこれからも、アキトと肩を並べて戦いたいだけだ。俺が守る事もあるし、アキトに守られる事もあるかもしれない。それは別に良いんだ」
むしろ俺をハロルド・ウェルマールじゃなく、ただのハルとして見てくれる事が嬉しいと思ってしまうぐらいなんだが、さすがにこれは惚気が過ぎるか。
そう考えて口にはしなかった。
「俺の力不足で、アキトの足を引っ張りたくない。ただそれだけなんだ」
「はー…何というか、お前らは本当にお似合いの伴侶候補だな」
俺の言い分を最後まで聞いてくれたサイクさんは、不意に笑みを浮かべるとそう呟いた。
そんな理由かと呆れられる覚悟だったんだが、予想外の反応だな。いったいどこをどう受け取ったら、そんな感想が出てくるんだろう。
「相手に相応しくなりたいと努力できる関係なんて、素晴らしいじゃないか」
アキトだってハルに相応しくなりたいときっと努力してるだろうよ。そう揶揄うように言われて、俺は目を大きく見開いた。
そうか。そうかもしれない。アキトの魔法がどんどん精度を増していったのは、俺と並んで戦うためなのかもしれない。
「俺はそういう理由は良いと思う!だから本気で指導してやろう!」
サイクさんはそう言うと、嬉しそうにニカッと笑ってみせた。
ニッと笑ったサイクさんに促され、俺は剣を抜いて魔道具に向き直った。
――今の自分にできる、全力の攻撃か。
ぐっと愛用の剣を握る手に力を込めて、少しだけ腰を落とす。息を整えてからそのまま一気に振り切って攻撃をすれば、目の前の魔道具がバサリと切り裂かれた。
一瞬で元に戻っていく魔道具の傷を睨むようにして見つめながら、やはりこの程度かと少しだけ落胆してしまう。
「やっぱり威力が足りないんだよな…」
思わずそう口にすれば、サイクさんはいやそんな事は無いだろうと不思議そうに続けた。
「でもサイクさんの攻撃と比べれば――全然だろう?」
「いやいや、俺の使ってるこういう大斧ってやつはな、そもそも攻撃の威力が出やすいんだよ。元々攻撃力が高い武器だからな」
サイクさんはそう言うと、軽々と大斧を振り回してみせた。
「ハルが使うようなそういう剣は、やっぱり大剣や大斧と比べればどうしても一発の威力は落ちる。だが、ハルはその分、手数で勝負するタイプだろ?」
「ああ、まあそうだな」
「剣使いとしてなら、ハルは既にかなり強い部類になる。それこそムレングのダンジョンでも、普通に通用するぐらいにな。それでも、まだ強くなりたいのか?」
お前には無理だと言うわけでもなく、無謀だと馬鹿にしているわけでもない。ただ、俺の真意が知りたいんだなと、真剣な目を見ればすぐに理解できた。
「これでは足りないんだ」
「足りない…?」
「ああ、俺が強くなりたい理由は、アキトだよ」
ボソリとそう呟けば、サイクさんは眉間にしわを寄せながら答えた。
「アキトを守るため…か?まあそういう動機も否定はしないが…だが」
まだ続きそうなサイクさんの言葉を、俺は目線だけで否定した。
違う。そういう意味じゃないんだ。視線だけで気づいて言葉を途切れさせたサイクさんは、じっと俺の言葉を待ってくれている。
「アキトはさ、いつも俺を守ろうとしてくれるんだよ」
「は?アキトが?ハルを守るのか?」
きょとんとした顔のサイクさんは、思わずと言った様子でそう口にした。まあ、そういう反応になるよな。俺の家族たちですら、本当に?と聞き返したぐらいだからな。
「ああ、そもそも俺に守ってもらおうなんてかけらも思っていないし、実際にそれが出来るだけの強さが、アキトにはある」
色々な魔法使いを見てきたが、どう考えてもあの魔法は規格外だ。
どうやらアキトは魔法を教えてくれた師匠が良いからだと思っているようだが、あれはそういう言葉で済ませられるレベルじゃない。。
得意の土魔法をはじめとした攻撃魔法、強化や弱体化の出来る補助魔法、そしてあの不思議なアキトと俺を回復した魔法。
どれもアキト本人の資質が、飛びぬけて優れていたから使える魔法だ。
「確かにアキトの魔法はすごいと思ったが…」
ルダリオン相手に魔法を放った時のアキトを、サイクさんも近くで見ているからな。理解が早い。
「別に俺は、アキトのために強くなりたいというわけじゃないんだ」
そう、これは決してアキトのためなんかじゃない。ただの俺の我儘だ。
「俺はこれからも、アキトと肩を並べて戦いたいだけだ。俺が守る事もあるし、アキトに守られる事もあるかもしれない。それは別に良いんだ」
むしろ俺をハロルド・ウェルマールじゃなく、ただのハルとして見てくれる事が嬉しいと思ってしまうぐらいなんだが、さすがにこれは惚気が過ぎるか。
そう考えて口にはしなかった。
「俺の力不足で、アキトの足を引っ張りたくない。ただそれだけなんだ」
「はー…何というか、お前らは本当にお似合いの伴侶候補だな」
俺の言い分を最後まで聞いてくれたサイクさんは、不意に笑みを浮かべるとそう呟いた。
そんな理由かと呆れられる覚悟だったんだが、予想外の反応だな。いったいどこをどう受け取ったら、そんな感想が出てくるんだろう。
「相手に相応しくなりたいと努力できる関係なんて、素晴らしいじゃないか」
アキトだってハルに相応しくなりたいときっと努力してるだろうよ。そう揶揄うように言われて、俺は目を大きく見開いた。
そうか。そうかもしれない。アキトの魔法がどんどん精度を増していったのは、俺と並んで戦うためなのかもしれない。
「俺はそういう理由は良いと思う!だから本気で指導してやろう!」
サイクさんはそう言うと、嬉しそうにニカッと笑ってみせた。
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