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978.【ハル視点】森の訓練場へ
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今俺達は、森の中の訓練場へと向かって、一かたまりの集団になって歩いている。
この集団の先頭を歩いているのは、早朝訓練を取り仕切る立場のファーガス兄さんだ。そのすぐ後ろにはウィル兄と俺、そしてその後ろに集まってきた騎士達がゾロゾロと続いている。
今の俺の所属はウェルマール騎士団じゃないんだから、ここにいてはいけないような気もするんだが兄達に引っ張られてここに落ち着いてしまったんだよな。
ちなみにあの時近くにいたサイクさんとミルゴさんはと言えば、集団が出来る頃に二人揃ってすっと気配を消していなくなった。さすがに一流の冒険者は、逃げ足も一流らしい。
どうやら今は衛兵たちの所に混ざっているようで、目を輝かせた新人衛兵と何か話しているのが視界の端に見えた。
もう少しで森を切り拓いて作られた訓練場が見えてくるかという頃、何故か向かい側から早朝訓練の参加者らしき人たちの集団がすごい勢いで駆け寄ってきた。
「ファーガス様!」
必死の顔をした騎士と衛兵、冒険者の混合隊がこちらに向かってく光景は、かなりの迫力があった。
普通の人なら逃げ出すぐらいの圧力だったが、ファーガス兄さんの反応はあくまでも落ち着いたものだった。
「どうした?一体なにがあった?」
一番先頭を走っていた騎士は、さっと立ち止まるとすかさず敬礼をしながら答えた。
「はっ!参加者があまりにも少なすぎたため、魔物の襲撃事件でも起こったのかと考え、訓練場手前で引き返して参りました」
「ああ、なるほど。そういうことか」
咄嗟にそう判断をして、職業も年齢もバラバラの人たちをまとめあげて動く。それは一刻を争う事態には、とても素晴らしい行動だ。
だが、だれでも出来ることではない。
名前も顔も俺は知らない人だから、おそらく隊長格ではない。それなのに動けたんだから、この騎士はすごいな。
その行動に感心したのは、俺だけではなかったようだ。
「素晴らしい判断だ。共に動いてくれた、皆の行動にも心からの感謝を」
そう口にしたファーガス兄さんは、うっすらと笑みを浮かべて満足そうに頷いた。
あー、家族以外の前でこういう笑顔を見せるのは、すこし珍しいな。何人かの新人らしき騎士が固まっているのが目についた。
長い間騎士をしているとマティさん相手に笑顔の対応をしている姿を知ることになるから、すこし驚くぐらいで済むんだろうな。
「魔物の襲撃事件では無いが――すこしだけ問題があってな。だが、もう解決した」
引き返してきた一団に向かってそう告げたファーガス兄さんは、さあ行こうかとその場にいた全員に声をかけた。
引き返してきた人たちは列の先頭をファーガス兄さんに譲ろうとしたが、本人があっさりと断ってしまった。
「この人数でこんな狭い場所で部隊を組み直すのは無理だろう」
ちらりと周りを見てみれば確かにとか合理的だとか対応に感心している声が多いようだが、これはただ面倒なだけだろうな。
ちらりと視線を向ければ、ウィル兄も苦笑している。やっぱりウィル兄も同じ意見みたいだ。
好意的に受け取られているからまぁ良いかとウィル兄と視線で確認し合って、俺たちは何も言わずに前を行く人の背中を追って訓練場へと足を踏み入れた。
整列とまではいかないがなんとなく一塊になった参加者たちを見て、ファーガス兄さんは一段高くなった台の上に上がった。
ざわめきが自然と収まり、しんと静まり返る。こんなにたくさんの人がいるのが、まるで嘘のような静けさだ。
「参加者の諸君、おはよう。今朝もたくさんの人が集まってくれた事を嬉しく思う」
皆はただ静かにファーガス兄さんを見つめている。
「ここにいるのは皆が同士だ。全員が強くなりたいと願い、だからこそここにいる。職業も階級も年齢も、ここでは一切関係はない。ただ強くなるために!同士と力を合わせて訓練に励んでくれ。以上だ」
相変わらずファーガス兄さんは話が短いな。まぁあまり長々と話されるよりは良いだろうし、周りもやる気になってきたと騒いでいるから良いか。
「ハルは今日も打ち込みかなー?」
「ああ、打ち込みだな。まだコツが掴めなくてちょっと苦戦してる」
ウィル兄が相手だからとすこしばかりの愚痴をこばした瞬間、真後ろから声が聞こえてきた。
「なんだ、なら俺のやり方教えるか?」
「サイクさん、良いんですか?」
「…その反応、やっぱりバレてたのか…」
しっかり気配消してたのにと呟くサイクさんに、人相手なら気配は消したら逆効果だと答えれば大きく目を見開かれてしまった。
「そうなのか?」
「あ、はい。俺や母は小動物程度の気配を目指してますね」
「そうか…良い事聞いた!よし、いまのを対価に攻撃力をあげるコツ教えてやるよ!」
「あ、ありがとうございます」
慌ててお礼を言えば、サイクさんはハルならできるさと軽く断言してくれた。
「そっかーサイクはハルさんと打ち込みかー俺はどうするかなー久しぶりに対複数で盾の練習したいんだけどな」
どっかに飛び込んでみるかななんて明るく笑ったミルゴさんに、ウィル兄さんが目を輝かせた。
「それなら俺と来ない?」
「ん?あんたは?」
「ハルの兄だよー二人目のね」
「あーえっと…ウィリアム…さん?って失礼か?領主一家だもんな!あ、ハルもハル様って呼ぶべき?あ、でもおれファーガスはファーガスって呼び捨てにしてた…」
不敬罪でつかまる?とブツブツ呟いているミルゴさんに、俺は笑いながら声をかけた。
「やめてくれ。さんもいらない」
「おれも普通に呼んでほしいなー」
「わかった!じゃあハルはハルで!兄ちゃんはとりあえずウィリアムさん呼びにするわ!」
「改めて、ミルゴさん一緒に訓練しない?うちの隊員総出で攻撃しよっか?」
「わー!それは嬉しい!ぜひ!」
騎士団の攻撃が受けられるのかとワクワクした様子のミルゴさんは、ウィル兄と一緒に去っていった。
この集団の先頭を歩いているのは、早朝訓練を取り仕切る立場のファーガス兄さんだ。そのすぐ後ろにはウィル兄と俺、そしてその後ろに集まってきた騎士達がゾロゾロと続いている。
今の俺の所属はウェルマール騎士団じゃないんだから、ここにいてはいけないような気もするんだが兄達に引っ張られてここに落ち着いてしまったんだよな。
ちなみにあの時近くにいたサイクさんとミルゴさんはと言えば、集団が出来る頃に二人揃ってすっと気配を消していなくなった。さすがに一流の冒険者は、逃げ足も一流らしい。
どうやら今は衛兵たちの所に混ざっているようで、目を輝かせた新人衛兵と何か話しているのが視界の端に見えた。
もう少しで森を切り拓いて作られた訓練場が見えてくるかという頃、何故か向かい側から早朝訓練の参加者らしき人たちの集団がすごい勢いで駆け寄ってきた。
「ファーガス様!」
必死の顔をした騎士と衛兵、冒険者の混合隊がこちらに向かってく光景は、かなりの迫力があった。
普通の人なら逃げ出すぐらいの圧力だったが、ファーガス兄さんの反応はあくまでも落ち着いたものだった。
「どうした?一体なにがあった?」
一番先頭を走っていた騎士は、さっと立ち止まるとすかさず敬礼をしながら答えた。
「はっ!参加者があまりにも少なすぎたため、魔物の襲撃事件でも起こったのかと考え、訓練場手前で引き返して参りました」
「ああ、なるほど。そういうことか」
咄嗟にそう判断をして、職業も年齢もバラバラの人たちをまとめあげて動く。それは一刻を争う事態には、とても素晴らしい行動だ。
だが、だれでも出来ることではない。
名前も顔も俺は知らない人だから、おそらく隊長格ではない。それなのに動けたんだから、この騎士はすごいな。
その行動に感心したのは、俺だけではなかったようだ。
「素晴らしい判断だ。共に動いてくれた、皆の行動にも心からの感謝を」
そう口にしたファーガス兄さんは、うっすらと笑みを浮かべて満足そうに頷いた。
あー、家族以外の前でこういう笑顔を見せるのは、すこし珍しいな。何人かの新人らしき騎士が固まっているのが目についた。
長い間騎士をしているとマティさん相手に笑顔の対応をしている姿を知ることになるから、すこし驚くぐらいで済むんだろうな。
「魔物の襲撃事件では無いが――すこしだけ問題があってな。だが、もう解決した」
引き返してきた一団に向かってそう告げたファーガス兄さんは、さあ行こうかとその場にいた全員に声をかけた。
引き返してきた人たちは列の先頭をファーガス兄さんに譲ろうとしたが、本人があっさりと断ってしまった。
「この人数でこんな狭い場所で部隊を組み直すのは無理だろう」
ちらりと周りを見てみれば確かにとか合理的だとか対応に感心している声が多いようだが、これはただ面倒なだけだろうな。
ちらりと視線を向ければ、ウィル兄も苦笑している。やっぱりウィル兄も同じ意見みたいだ。
好意的に受け取られているからまぁ良いかとウィル兄と視線で確認し合って、俺たちは何も言わずに前を行く人の背中を追って訓練場へと足を踏み入れた。
整列とまではいかないがなんとなく一塊になった参加者たちを見て、ファーガス兄さんは一段高くなった台の上に上がった。
ざわめきが自然と収まり、しんと静まり返る。こんなにたくさんの人がいるのが、まるで嘘のような静けさだ。
「参加者の諸君、おはよう。今朝もたくさんの人が集まってくれた事を嬉しく思う」
皆はただ静かにファーガス兄さんを見つめている。
「ここにいるのは皆が同士だ。全員が強くなりたいと願い、だからこそここにいる。職業も階級も年齢も、ここでは一切関係はない。ただ強くなるために!同士と力を合わせて訓練に励んでくれ。以上だ」
相変わらずファーガス兄さんは話が短いな。まぁあまり長々と話されるよりは良いだろうし、周りもやる気になってきたと騒いでいるから良いか。
「ハルは今日も打ち込みかなー?」
「ああ、打ち込みだな。まだコツが掴めなくてちょっと苦戦してる」
ウィル兄が相手だからとすこしばかりの愚痴をこばした瞬間、真後ろから声が聞こえてきた。
「なんだ、なら俺のやり方教えるか?」
「サイクさん、良いんですか?」
「…その反応、やっぱりバレてたのか…」
しっかり気配消してたのにと呟くサイクさんに、人相手なら気配は消したら逆効果だと答えれば大きく目を見開かれてしまった。
「そうなのか?」
「あ、はい。俺や母は小動物程度の気配を目指してますね」
「そうか…良い事聞いた!よし、いまのを対価に攻撃力をあげるコツ教えてやるよ!」
「あ、ありがとうございます」
慌ててお礼を言えば、サイクさんはハルならできるさと軽く断言してくれた。
「そっかーサイクはハルさんと打ち込みかー俺はどうするかなー久しぶりに対複数で盾の練習したいんだけどな」
どっかに飛び込んでみるかななんて明るく笑ったミルゴさんに、ウィル兄さんが目を輝かせた。
「それなら俺と来ない?」
「ん?あんたは?」
「ハルの兄だよー二人目のね」
「あーえっと…ウィリアム…さん?って失礼か?領主一家だもんな!あ、ハルもハル様って呼ぶべき?あ、でもおれファーガスはファーガスって呼び捨てにしてた…」
不敬罪でつかまる?とブツブツ呟いているミルゴさんに、俺は笑いながら声をかけた。
「やめてくれ。さんもいらない」
「おれも普通に呼んでほしいなー」
「わかった!じゃあハルはハルで!兄ちゃんはとりあえずウィリアムさん呼びにするわ!」
「改めて、ミルゴさん一緒に訓練しない?うちの隊員総出で攻撃しよっか?」
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