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977.【ハル視点】周囲の反応

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 ここにいるのは、ウェルマール騎士団の騎士たちや辺境を守る衛兵、そしてこの辺りを拠点に活動している冒険者達が主だ。

 つまり俺達領主一家の顔や名前を知っている人の確率が、街中よりも高い場所という事になる。

 そんな場所で突然名前を呼ばれれば、当然だが一気に俺に視線が集まってくる。

 ファーガス兄さんの後ろに立っていたし、兄さんと目線を合わせて合図もしていたからすぐにどこにいるかバレるのは仕方ない。

 こうなるのもある程度予想はできていたが、隣にいるウィル兄がニヤニヤと笑っているのが少し面白くないな。

「あ、やっぱりハルさんって、今日も早朝訓練出るんだな」
「本当だ。ハロルド様、今日こそ俺と手合わせしてくれないかなー」
「いや、お前の強さで、ハルと手合わせとか瞬殺されるぞ?」

 あの辺りは、おそらく数日前から早朝訓練に参加していた奴らだろう。手合わせは誰でも歓迎なんだが、今はそれに返事を返している場合じゃないな。

「帰ってきてるって話しは本当だったのか」
「今日訓練出てきてよかったー久しぶりにハルさんの剣が見れるー」

 あっちの集団は、早朝訓練で出くわすのは初めてみたいだ。

「え、待って…?アキト様って…あのハロルド様と一緒に市場デートしてた人!?」
「は!?ハロルド様が通報してくれた屋台摘発にいった時に会釈してくれたあの可愛らしい人?」

 嘘だろうと言いたげな表情で騒いでいるのは、俺達が市場に行った日に巡回に回っていた騎士か衛兵なんだろうな。

 まあ可愛いという言葉は仕方ない。アキトは間違いなく可愛いからな。そこに文句は言わない。

「ハロルド様の伴侶候補が、ルダリオンとの戦闘に参加してたのか?」
「え、サイクさんとハロルド様が二人で倒したってだけだろ?」

 だが、それはちょっと聞き捨てならないな。ジロリとそちらを睨んでアキトを侮辱するなと口にしようとしたが、それよりも先にサイクさんが動いた。

「もしアキトがいなかったら、あのルダリオンを無傷では狩れていない。勝手に人の実力を推測してあれこれ言うのはやめるんだな」

 驚くほど冷たい声でそう告げたサイクさんに、後ろからファーガス兄さんも声をかける。

「そうだな。強くなりたいと願う者がその考え方では、それ以上の成長は無理だろう」

 うわぁ…これ、サイクさんよりも数段ひどく怒ってるな、真顔のファーガス兄さんは、意識していないだろう威圧が外に漏れてしまっている。

 止めるつもりはさらさら無いが。

「し、失礼しました!」
「申し訳ありませんっ!」

 サッと頭を下げて謝罪する二人に、ウィル兄がニコニコ笑顔で声をかける。

「二人とも良かったねーもしここにアキトくんがいたら、口頭注意ぐらいでは終わらせられない所だったよ」

 父も母もそれに俺達兄弟に伴侶たちも、全員がアキトくんの事を家族と認めたんだ。この意味は分かるよね?

 そう続けたウィル兄は、ファーガス兄さんとは違いわざと威圧を出してるな、これ。

「ハル、これで良いか?」
「ああ、問題は無いよ」

 サイクさんとファーガス兄さん、そしてウィル兄の言葉で、牽制は十分だろうと頷けば軽口を叩いた男達はホッと息を吐いた。

「もし次があったら、全力で叩きのめすけどね」

 安心した所でもう一度そう釘を刺せば、その二人はビクッと身体を揺らした。そんなに怖がらなくても、威圧もしていないのに失礼な。

「なあ、ハル。さっき言ってたのって、もしかしてルダリオン相手の話しだったのか?」

 近くで事の成り行きを見守っていたクーヒルは、まるで何事も無かったかのようにそう尋ねてきた。こそこそとうちの隊長すごいとか、いやこのタイミングで声かけるとか命知らずかとか聞こえてるんだが良いんだろうか。

「ああ、そうだよ」
「そうか…それはまあ強い相手だな」

 気になってたけど納得言ったわと笑ったクーヒルは、今度はサイクさんとミルゴさんに声をかけに言った。

「はじめましてー俺は衛兵の隊長やってるクーヒルっていうんだ」
「ああ、俺は斧使いのサイクだ」
「俺はミルゴ!盾使いだよ」

 パッと切り替えて話しだした二人とクーヒルのやりとりに、すこしずつ周りの空気もほぐれてくる。

 これを狙ってやってるんだろうから、クーヒルも二人もすごいなと素直にそう思う。

「ああ、みんなそろそろ移動しないと開始時刻に間に合わなくなるぞ」

 ファーガス兄さんの声かけに、その場にいた人達は一人また一人と歩き出した。
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