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976.【ハル視点】魔石の騒ぎ
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サイクさんとミルゴさんに再会したのは、俺が早朝訓練に参加し始めてから数日が経った日だった。
もう一度サイクさんに会いたいとは思っていたんだが、別にわざわざ連絡を取って早朝訓練に来ないかと誘ったわけでは無い。
ある朝、訓練場まで行くと、ただ自主的に訓練に参加しにきた二人がいたというだけの再会だ。
どうやらサイクさんとミルゴさんは、パーティーの休暇中にはたまにここに顔を出しているらしい。勘や身体をなまらせないためにここに来ては、衛兵や騎士を練習相手に訓練に励むそうだ。
だが今回はすこしだけ理由が違うらしい。あのルダリオンの一件で鍛えなおしたいと言い出したミルゴさんに、引っ張られてやってきたんだとサイクさんは苦笑を浮かべた。
そのサイクさんが、今は若い衛兵にぐいぐいと距離を詰め寄られている。
「あの、数日前に!A級魔物の魔石を衛兵詰め所に置いて行った方ですよね?俺の勘違いじゃないですよね!!」
まるで縋るようにして尋ねた衛兵のあまりの必死さに、サイクさんは戸惑いながら答えた。
「あ、ああ、そうだが。あれは置いていったというか…衛兵への寄付だって言ったよな?」
周りから大注目を浴びるなか、サイクさんは冷静にそう答えた。この状況で怯まずに返事が出来るのはさすがだな。
「そうなんですけどぉぉぉ!名前も名乗らず置いていくから裏があるんじゃないかって大騒ぎなんですよぉぉぉ!」
「馬鹿野郎!お前が確認不足だっただけだろうが!」
あ、慌てて近づいていった年上の男性に思いっきり怒られたな。
「でも、先輩!」
「お前はもう黙ってろ!…すまないな、兄さんら。寄付を頂いたのは助かるんだが、一応名前と職業を聞かないと俺達もほいほい受け取れないんだ」
「ああ、そういう手続きが必要だったのか…それはすまなかった」
「いやいや、A級魔物の魔石に夢中になって、必要な事を聞かなかったこいつが悪いんだ」
先輩衛兵はさすがに慣れた様子でサイクさんと会話を始めた。
「兄さんらは…服装からして冒険者だよな?」
「ああ、二人とも冒険者だ。俺はサイク、こっちはミルゴだ」
サイクさんからそう紹介されたミルゴさんは、よろしくーと何故か周囲で立ち止まって見守っている人達にまで笑顔を振りまいている。まあその明るい笑顔に、周りも肩の力を抜いたのが分かったから意味はあるんだろうが。
少なくとも名まえと職業は分かったが、それでもまだ色々と確認したい事はあるんだろう。先輩衛兵が口を開こうとした瞬間、隣にいたファーガス兄さんが動いた。
「その二人はムレングのダンジョンを攻略中パーティーの冒険者で、私の友人たちだ」
「ファーガス様!」
「あのムレングの…!?」
周りにいた人達は、一部の例外を覗いてほぼ全員が驚きの表情を浮かべている。最先端のダンジョン攻略者たちが、こんな所にいるとは思わないよな。
約一名、ウィル兄だけがちいさな声でファグ兄に友人なんていたのと呟いている。やっぱりウィル兄もそう思うよなと、心の中で同意を返した。
ムレングダンジョンの攻略パーティーで、かつファーガス兄さんの友人なら強いんだろうという謎の理論で、尊敬の眼差しが二人に集まっている。
「あー待って待って、俺はただ解体しただけだからー!そんな目で見られても困る」
居心地の悪そうな表情をしたミルゴさんは、俺はあの魔物との戦闘には関わってないからと、まるで逃げるようにそう言葉にした。
「…もし問題がなければ教えて欲しいんだが…あの魔石は、一体何の魔物のものなんだ?」
魔石の種類すらまだ判明してなかったのか。それは慎重にもなるよな。
鑑定はレベルが低いとはじかれる事もある。だがレベルが高い人は、衛兵隊に所属なんて滅多にしないからな。これが普通に手に入れたものなら冒険者ギルドか商業ギルドに鑑定を頼めるんだが、今回は詳細が不明だったから頼むに頼めなかったんだろう。
「ああ、あれはルダリオンの魔石だ」
「ルダリオン…!道理で質が良いわけだ」
納得顔の先輩衛兵の言葉に、ファーガス兄さんはちらりとこちらを見た。俺とアキトの名前を出して良いかという確認だな。別に隠したいような話しでも無いし、アキトに変なちょっかいを出す奴が減るなら問題は無い。
俺はコクリと小さく頷いた。
「その魔石の件については、先ほど報告書を出したんだが…そこにいるサイクと、私の弟ハロルド、そしてその伴侶候補であるアキトが倒したものを、ミルゴが解体したと聞いている」
さも調査の結果分かった事だと告げるあたり、ファーガス兄さんもやり手だよな。偶然判明しただけなんだが。
もう一度サイクさんに会いたいとは思っていたんだが、別にわざわざ連絡を取って早朝訓練に来ないかと誘ったわけでは無い。
ある朝、訓練場まで行くと、ただ自主的に訓練に参加しにきた二人がいたというだけの再会だ。
どうやらサイクさんとミルゴさんは、パーティーの休暇中にはたまにここに顔を出しているらしい。勘や身体をなまらせないためにここに来ては、衛兵や騎士を練習相手に訓練に励むそうだ。
だが今回はすこしだけ理由が違うらしい。あのルダリオンの一件で鍛えなおしたいと言い出したミルゴさんに、引っ張られてやってきたんだとサイクさんは苦笑を浮かべた。
そのサイクさんが、今は若い衛兵にぐいぐいと距離を詰め寄られている。
「あの、数日前に!A級魔物の魔石を衛兵詰め所に置いて行った方ですよね?俺の勘違いじゃないですよね!!」
まるで縋るようにして尋ねた衛兵のあまりの必死さに、サイクさんは戸惑いながら答えた。
「あ、ああ、そうだが。あれは置いていったというか…衛兵への寄付だって言ったよな?」
周りから大注目を浴びるなか、サイクさんは冷静にそう答えた。この状況で怯まずに返事が出来るのはさすがだな。
「そうなんですけどぉぉぉ!名前も名乗らず置いていくから裏があるんじゃないかって大騒ぎなんですよぉぉぉ!」
「馬鹿野郎!お前が確認不足だっただけだろうが!」
あ、慌てて近づいていった年上の男性に思いっきり怒られたな。
「でも、先輩!」
「お前はもう黙ってろ!…すまないな、兄さんら。寄付を頂いたのは助かるんだが、一応名前と職業を聞かないと俺達もほいほい受け取れないんだ」
「ああ、そういう手続きが必要だったのか…それはすまなかった」
「いやいや、A級魔物の魔石に夢中になって、必要な事を聞かなかったこいつが悪いんだ」
先輩衛兵はさすがに慣れた様子でサイクさんと会話を始めた。
「兄さんらは…服装からして冒険者だよな?」
「ああ、二人とも冒険者だ。俺はサイク、こっちはミルゴだ」
サイクさんからそう紹介されたミルゴさんは、よろしくーと何故か周囲で立ち止まって見守っている人達にまで笑顔を振りまいている。まあその明るい笑顔に、周りも肩の力を抜いたのが分かったから意味はあるんだろうが。
少なくとも名まえと職業は分かったが、それでもまだ色々と確認したい事はあるんだろう。先輩衛兵が口を開こうとした瞬間、隣にいたファーガス兄さんが動いた。
「その二人はムレングのダンジョンを攻略中パーティーの冒険者で、私の友人たちだ」
「ファーガス様!」
「あのムレングの…!?」
周りにいた人達は、一部の例外を覗いてほぼ全員が驚きの表情を浮かべている。最先端のダンジョン攻略者たちが、こんな所にいるとは思わないよな。
約一名、ウィル兄だけがちいさな声でファグ兄に友人なんていたのと呟いている。やっぱりウィル兄もそう思うよなと、心の中で同意を返した。
ムレングダンジョンの攻略パーティーで、かつファーガス兄さんの友人なら強いんだろうという謎の理論で、尊敬の眼差しが二人に集まっている。
「あー待って待って、俺はただ解体しただけだからー!そんな目で見られても困る」
居心地の悪そうな表情をしたミルゴさんは、俺はあの魔物との戦闘には関わってないからと、まるで逃げるようにそう言葉にした。
「…もし問題がなければ教えて欲しいんだが…あの魔石は、一体何の魔物のものなんだ?」
魔石の種類すらまだ判明してなかったのか。それは慎重にもなるよな。
鑑定はレベルが低いとはじかれる事もある。だがレベルが高い人は、衛兵隊に所属なんて滅多にしないからな。これが普通に手に入れたものなら冒険者ギルドか商業ギルドに鑑定を頼めるんだが、今回は詳細が不明だったから頼むに頼めなかったんだろう。
「ああ、あれはルダリオンの魔石だ」
「ルダリオン…!道理で質が良いわけだ」
納得顔の先輩衛兵の言葉に、ファーガス兄さんはちらりとこちらを見た。俺とアキトの名前を出して良いかという確認だな。別に隠したいような話しでも無いし、アキトに変なちょっかいを出す奴が減るなら問題は無い。
俺はコクリと小さく頷いた。
「その魔石の件については、先ほど報告書を出したんだが…そこにいるサイクと、私の弟ハロルド、そしてその伴侶候補であるアキトが倒したものを、ミルゴが解体したと聞いている」
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