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967. 訓練の場所は

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「私とメイド長が厳選したオススメの見学場所はこちらです。お二人に気に入って頂けると良いのですが…」

 口では謙遜してそう言ってはいるけど、にっこり笑顔からしてどうやらかなり自信がありそうだ。

 ジルさんと俺の顔を順番に見つめてから、ボルトさんは取り出した大きな鍵束の鍵を使って部屋の扉を開いた。

「どうぞ」

 ここまで来る途中、それはもうたくさんの廊下や部屋を通り抜けてきた。でもそのなかに鍵がかかってる部屋なんて、一つもなかった。

 誰か個人の部屋とかは通らなかったから、さすがにそこには鍵がついてるとは思うけどね。

 でもここは明らかに誰かの部屋じゃない。ドアがすごく大きいんだよね。

 鍵がかけられている理由はなんだろうと不思議に思いつつ、前を行くジルさんの背中を追う。

 辿り着いたそこは、まるで音楽室のような部屋だった。

 譜面台らしきものがいくつもあるし、壁にはバイオリンのような楽器がずらりと並んでいる。

 そんなに楽器に詳しくないから、バイオリンみたいな楽器としか言えないんだけど。

 あ、でもちょっとだけ、俺の世界のバイオリンよりサイズが大きいような気がする。あとバイオリンの弦って何本だったっけ?

 そんな事をぐるぐると考えながらじっと見つめていると、ジルさんがあれはクーリオという珍しい異国の楽器なんですよと教えてくれた。

 へー、あの楽器はクーリオって言うんだ。

 ちなみにクーリオの演奏はかなり難しいそうで、みんな挑戦したけど音が出ずに挫折。家族の中でクーリオを演奏出来るのは、なんとマチルダさんだけらしい。

「よく趣味として演奏していらっしゃいますから、もし興味があれば頼んでみれば良いですよ」
「はい、今度マチルダさんに弾いてもらえるか聞いてみますね」

 そう答えながらなにげなく後ろを振り返った俺は、美しい森にたくさんの小鳥がいる景色が描かれた大きな絵画に気がついた。

「わー、ここの扉は絵なんですね。すごく綺麗だ…」
「扉を作ってから、画家の方に絵を描いて欲しいと依頼したと聞いたことがありますが…?」

 そこで言葉を切ったジルさんがちらりと視線を向ければ、ボルトさんはすかさずええと頷いた。

「扉の裏だとは最後までお伝えしませんでしたが、本当に素晴らしい絵を描いてくださいました」

 ここに森と小鳥を描いて欲しいと頼んだのは、ファーガスさんなんだって。理由は家族で唯一、クーリオを弾けるマチルダさんが、鳥好きだかららしいよ。

 ファーガスさんは、きちんと依頼する時点で動物を描くのがうまい人を選んだらしい。

「ここの小鳥は眠ってますね」

 ジルさんの言葉によくよく見てみると、たしかに小鳥にもいろんな子がいる。

「あ、この子はお花をくわえてますよ」
「可愛らしいですね」

 喧嘩してる小鳥がいたと思えば、それを仲裁しようとしてる小鳥がいたり、大きな果物を美味しそうに啄んでいる集団がいたりもするんだ。

 ついつい夢中になって鑑賞してしまった。

 一通り見て満足したころ、会話が途切れるのを待ってくれていたボルトさんが、すこし離れた所から俺達を手招いた。

「ボルトさん、お待たせしてすみません」
「すみませんでした。私もここにはあまり来ないので…ついつい見てしまいました」

 二人して目的を忘れていた事を謝罪すれば、ボルトさんはいえいえと首を振った

「久しぶりにじっくり観てくれる方たちが来て、絵描きもそれにこの絵もきっと本望でしょう」

 優しく笑ったボルトさんは、こちらですと部屋の奥へと歩き出した。

 ボルトさんが手のひらで指し示したのは、普通の窓よりもかなり高い位置にある風通しのためだという窓だった。

 なんでもクーリオは繊細だから日光に当たると音が変わっちゃうんだって。だからこの部屋は風通しのための高い位置の窓しか作られていないらしい。

「ここの窓なら、あちらからはそうそう気付かれないと思われます」

 訓練の合間に各自休憩をする時は、みんな何気なく建物の方を向くらしい。その視線から隠れるためには、普通に考えてのぞけない高さの窓を使えば良いって事らしい。

「たくさん考えてくださったんですね、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「恐れ入ります」

 でもこれ結構高い位置だけど、どうやって覗くんだろう?

「こちらを、お使いください」

 ボルトさんが魔道収納鞄から取り出したのは、頑丈そうなはしごの階段に椅子がくっついたものだった。

 なんだかプールの監視員さんが座るやつみたいな形だけど、椅子の部分は座り心地の良さそうなソファだ。

「これは」
「今日のために昨日から用意しました」

 さらりと言われた言葉に、俺とジルさんは驚いてしまった。
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