生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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965.秘密の廊下

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 ジルさんと一緒に見学に行くこと自体はあっさり決まったけど、さすがにこの後すぐに――とはいかなかった。

 まだその日の訓練は始まったばかりだったから、時間帯的には行けなくも無かったんだけどね。

 真剣な表情のジルさんいわく、本気で訓練してる姿を見たいなら絶対にこっそり見にいった方が良いんだって。

「特にウィルは真面目な訓練風景を見られるのを嫌がるので」
「そうなんですか」
「でも、そういう姿も見たいじゃないですか?」
「そうですよね」

 俺もハルのそういう姿は何度でも見たい。そう思って何度も頷いて同意してしまった。

 それにしても、ジルさんって結構クールな人だと思ってたんだけど、こうしてウィリアムさんがいない所で喋るとちょっと印象が変わるな。

 話を聞いてると、ジルさんもウィリアムさんに負けないぐらい、すっごくウィリアムさんの事好きなんだなって伝わってくるんだよね。

「素朴な疑問なんですけど…ウィルさんに直接そう言ってみたりはしないんですか?ウィリアムさんならきっと喜んで見せてくれると思うんですけど…」

 伴侶であるジルさんから格好良い所が見たいなんて言われたら、ウィリアムさんが拒否なんて絶対しないと思うんだよね。むしろ張り切りすぎる可能性ならあるけど。

 俺の投げかけた質問に、ジルさんはうろうろと視線を彷徨わせた。

「…ええ、言えば見せてくれるとは思います」
「ですよね」
「ですが…その前に嫌になるぐらいやっぱりジルは俺の事好きだねとかそんなに見たかったのとか言われるんですよ」

 あーうん、ウィリアムさんなら確かに言いそうだな。なんならジルさんがそんな事を言ってくれたって、周りの人に自慢して回ったりもしそうだ。

「あー、はい。想像できました」
「もちろんそういう所も好きなんですが…さすがに自分の隊の隊員の前でそんな姿は見せたくないんです」

 照れくさそうなジルさんに頷き返して、じゃあこっそり行きましょうと俺は答えた。

「それではいつ決行するか、何時に待ち合わせをするか等、色々と決めていきましょうか?」
「はいっ!」

 その日の朝は、みんなの訓練が終わるまでジルさんとじっくり作戦会議したよ。



 今日がその作戦決行の日。俺はジルさんに案内してもらいながら、領主城の中を歩いていく。

 ウェルマール騎士団の本部は、領主城のある場所から更に森の奥へと進んだ所に建っているんだって。誘ってもらってはいるけど機会が無くて、俺もまだ見に行った事はないんだけどね。

 でも早朝に行われる訓練は、森の中に作られた訓練場で行うものらしい。

 それじゃあ森に向かうのかなと思ったんだけど、ジルさんが選んだのは領主城の建物の中からの見学だった。

「森に潜んで見にいくと、逆に気配に聡い人に気づかれるんです。不審者かと警戒されてしまいますから。でも領主城の建物の中から見学するなら、目立ちません」

 手が空いている使用人さん達が建物の中から見学していたり、自分もと飛び入り参加しに行ったりするから城からの視線は誰も気にしないんだって。

「こちらへどうぞ」

 そう言ってジルさんが案内してくれたドアを開ければ、目の前にあるのは今まで一度も通った事のない細い廊下だった。

 領主城の中にこんな廊下もあったんだって思うぐらいに飾り気が無くて、壁にも一枚の絵すら飾られていない。

 ここは廊下すら豪華だなーって思ってた領主城だから、違和感なだけなんだけどね。他の場所なら別に普通の廊下とも言える。

「狭くてすみません。でも目立たないためには、こちらの方が便利なので」
「いえ、気にしないでください」

 細い廊下を歩きながらジルさんが教えてくれたんだけど、これは本来なら使用人さんが使うための秘密の廊下なんだって。

 俺が使っている家族と来客用の廊下と違って、最短距離で目的地に着くようにと細かいものがいくつも張り巡らされているんだって。

 ただしさっきみたいに入口がドアになっていたり、隠し扉になっていたり、はたまた倉庫の中から倉庫へと繋がっていたりするんだって。

 だからもし知らずに迷い込んだら、そう簡単に目的地には辿り着けないらしい。ダンジョンみたいな廊下だね。

 ちなみにジルさんがこの道についてこんなに詳しいのは、まだウィリアムの伴侶候補になる前から文官として城に出入りしていたからなんだって。

「あ、アキトさん、このドアから一度出ます」

 ジルさんが指差したドアをくぐりぬければ、出口は大きな本棚になっていた。なんだろう、なんだか秘密基地みたいでワクワクする。
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