965 / 1,179
964.ジルさんのお誘い
しおりを挟む
数日前から始まったハルの早朝訓練への参加。
出来る事なら見にいきたいなーとは俺もずっと思ってたんだ。でもあんなに真剣な顔をして強くなりたいって言ってるハルに、気軽に訓練の見学に行きたいなんてとても言えなかった。ハルの邪魔には、なりたくないからね。
それならいっそ俺も訓練に参加させてもらえば良いんじゃないか。そうも考えたけど、それも今はまだ無理なんだよね。
だって王都に行ったグレースさんが、まだ辺境領に帰って来てないから。
俺の魔法を披露するのはグレースさんも帰ってからって約束だからね。
あ、ちなみにあまりにも帰って来るのが遅いと心配したケイリーさんが、数日前に魔道具を使ってグレースさんに手紙を送ったんだ。そしたら、すぐに返事は返ってきたんだ。
もう少しかかりそうだってそれだけを書いてある手紙だったけど、ケイリーさんいわくグレースさんの直筆の文字だから少なくとも元気なのは確かだと笑ってた。
その手紙を俺も見せてもらったけど、びっくりするぐらい綺麗な文字だったよ。
「グレースは字も美しいんだよな」
幸せそうに微笑みながら大事に手紙をしまいこむケイリーさんを見て、さすがハルのお父さんだなーとしみじみと実感してしまった。
訓練が見たいとも言えず、自分が参加する事もできない。
そんな状況だからさすがに見にいくのは無理だよねと諦めかけた時、声をかけてくれたのが今俺の隣を歩いているジルさんだった。
あの日は目が覚めてしまったからと部屋を出たら、待機してくれていたメイドさんからお茶をいかがですかと声をかけてもらったんだ。
それで応接室で本を読みながらお茶を楽しんでいるところに、偶然ジルさんが来たんだよね。
「あれ、ジルさん訓練の時間なんじゃ…?」
ジルさんも騎士団に所属してるはずだからと尋ねてみれば、ジルさんはあっさりと答えてくれた。
「ああ、あれは全員参加というわけでは無いんですよ」
「そうなんですか?」
「ええ、日中の訓練にはもちろん全員参加のものもありますが…早朝訓練への参加は自由ですね」
参加条件はもっと強くなりたいという意思がある事、かつ絶対に自分の受け持つ仕事に悪影響を与えない事らしい。
早朝訓練に参加したせいで仕事の手を抜いたりしたら、罰として数回は参加させて貰えなくなったりもするんだって。
ちなみにその辺りの判断は、全てファーガスさんが行っているそうだ。
「じゃあファーガスさんはいつも参加してるんですか?」
「ええ、そうですね」
「えっと…じゃあウィリアムさんは?」
「ウィルは気が向けば参加するぐらいで、常に参加してるわけでは無いですよ」
そうなんだ。
ジルさんによると、早朝訓練はウェルマール騎士団が主体になって行ってはいるが、騎士団員では無い人の参加も随時受け入れているらしい。
何が強くなるきっかけになるか分からないからって、昔からの伝統なんだって。だから衛兵や冒険者、それに一般の領民の中からも、訓練に参加する人はいるそうだ。
うーん、やっぱりこの領ってすごい場所だね。
「ある程度早朝訓練については分かりましたか?」
「はい、説明ありがとうございます」
「では、アキトさん。率直に尋ねますが、早朝訓練を見てみたくは無いですか?」
「ぜひ見たいです!」
元気に答えた俺に、ジルさんは嬉しそうに笑ってくれた。
「でも、良いんですか?ジルさんは忙しいのに…」
騎士団の事に、他の部署の書類仕事、文官時代の仕事までしてるジルさんは、本当に忙しそうなんだよね。俺のために無理をしてくれるつもりなら申し訳ないなと思ってそう聞いてみたんだけど、ジルさんの返事は意外なものだった。
「おそらくハルさんが参加をし始めた数日前から、ウィルも毎日参加しているんです」
そうなんですかと頷いてみれば、ジルさんは恥ずかしそうにうっすらと頬を染めて続けたんだ。
「私も久しぶりに、本気で訓練に励むウィルの姿が見たいなと…そう思ったんですよ」
照れながらもそう教えてくれたジルさんのあまりに可愛らしい姿に、なんでここにウィルさんがいないんだろうなんて考えてしまった。いつも真面目でしっかりしてるジルさんの照れ笑いって、破壊力がすごいんだな。
「ただ折角なら、一緒にどうだろうと思って誘いに来ました」
「そういう事なら、ぜひご一緒したいです!」
出来る事なら見にいきたいなーとは俺もずっと思ってたんだ。でもあんなに真剣な顔をして強くなりたいって言ってるハルに、気軽に訓練の見学に行きたいなんてとても言えなかった。ハルの邪魔には、なりたくないからね。
それならいっそ俺も訓練に参加させてもらえば良いんじゃないか。そうも考えたけど、それも今はまだ無理なんだよね。
だって王都に行ったグレースさんが、まだ辺境領に帰って来てないから。
俺の魔法を披露するのはグレースさんも帰ってからって約束だからね。
あ、ちなみにあまりにも帰って来るのが遅いと心配したケイリーさんが、数日前に魔道具を使ってグレースさんに手紙を送ったんだ。そしたら、すぐに返事は返ってきたんだ。
もう少しかかりそうだってそれだけを書いてある手紙だったけど、ケイリーさんいわくグレースさんの直筆の文字だから少なくとも元気なのは確かだと笑ってた。
その手紙を俺も見せてもらったけど、びっくりするぐらい綺麗な文字だったよ。
「グレースは字も美しいんだよな」
幸せそうに微笑みながら大事に手紙をしまいこむケイリーさんを見て、さすがハルのお父さんだなーとしみじみと実感してしまった。
訓練が見たいとも言えず、自分が参加する事もできない。
そんな状況だからさすがに見にいくのは無理だよねと諦めかけた時、声をかけてくれたのが今俺の隣を歩いているジルさんだった。
あの日は目が覚めてしまったからと部屋を出たら、待機してくれていたメイドさんからお茶をいかがですかと声をかけてもらったんだ。
それで応接室で本を読みながらお茶を楽しんでいるところに、偶然ジルさんが来たんだよね。
「あれ、ジルさん訓練の時間なんじゃ…?」
ジルさんも騎士団に所属してるはずだからと尋ねてみれば、ジルさんはあっさりと答えてくれた。
「ああ、あれは全員参加というわけでは無いんですよ」
「そうなんですか?」
「ええ、日中の訓練にはもちろん全員参加のものもありますが…早朝訓練への参加は自由ですね」
参加条件はもっと強くなりたいという意思がある事、かつ絶対に自分の受け持つ仕事に悪影響を与えない事らしい。
早朝訓練に参加したせいで仕事の手を抜いたりしたら、罰として数回は参加させて貰えなくなったりもするんだって。
ちなみにその辺りの判断は、全てファーガスさんが行っているそうだ。
「じゃあファーガスさんはいつも参加してるんですか?」
「ええ、そうですね」
「えっと…じゃあウィリアムさんは?」
「ウィルは気が向けば参加するぐらいで、常に参加してるわけでは無いですよ」
そうなんだ。
ジルさんによると、早朝訓練はウェルマール騎士団が主体になって行ってはいるが、騎士団員では無い人の参加も随時受け入れているらしい。
何が強くなるきっかけになるか分からないからって、昔からの伝統なんだって。だから衛兵や冒険者、それに一般の領民の中からも、訓練に参加する人はいるそうだ。
うーん、やっぱりこの領ってすごい場所だね。
「ある程度早朝訓練については分かりましたか?」
「はい、説明ありがとうございます」
「では、アキトさん。率直に尋ねますが、早朝訓練を見てみたくは無いですか?」
「ぜひ見たいです!」
元気に答えた俺に、ジルさんは嬉しそうに笑ってくれた。
「でも、良いんですか?ジルさんは忙しいのに…」
騎士団の事に、他の部署の書類仕事、文官時代の仕事までしてるジルさんは、本当に忙しそうなんだよね。俺のために無理をしてくれるつもりなら申し訳ないなと思ってそう聞いてみたんだけど、ジルさんの返事は意外なものだった。
「おそらくハルさんが参加をし始めた数日前から、ウィルも毎日参加しているんです」
そうなんですかと頷いてみれば、ジルさんは恥ずかしそうにうっすらと頬を染めて続けたんだ。
「私も久しぶりに、本気で訓練に励むウィルの姿が見たいなと…そう思ったんですよ」
照れながらもそう教えてくれたジルさんのあまりに可愛らしい姿に、なんでここにウィルさんがいないんだろうなんて考えてしまった。いつも真面目でしっかりしてるジルさんの照れ笑いって、破壊力がすごいんだな。
「ただ折角なら、一緒にどうだろうと思って誘いに来ました」
「そういう事なら、ぜひご一緒したいです!」
755
お気に入りに追加
4,204
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる