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963.早朝の訓練

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 ダンジョン帰りにルダリオンに襲われるという予想外の事件があった後も、俺とハルはのんびりと辺境領生活を楽しんでいる。

 まあハルの家族や使用人さん達があまりに俺とハルの事を心配してくれるから、あれから一度もダンジョンには行けてないんだけどね。

 でも他の場所には、色々とでかけている。

 ジルさんの案内でトライプールには無い本を探しに本屋さんに行ってみたり、ウィリアムさん一押しだという肉串の屋台に行ってみたりもしたよ。

 そうそう。最近になって俺達の毎日のスケジュールの中で変化した事が、一つだけあるんだ。

 それが毎朝辺境領行われているウェルマール騎士団の早朝訓練に、ハルが参加するようになった事なんだ。

 誰かに勧められたからとかそういうのじゃなくて、言い出したのはハル本人だったんだけどね。

「ウェルマール騎士団の早朝訓練に参加したいんだけど良いかな?」

 突然そう切り出された時には、正直に言ってちょっとだけ驚いた。

 だって今までも結構長い間ここに滞在してるのに、ハルがその訓練に参加してた事は一度も無かったからね。

「えっと…ハルがしたいならもちろん良いんだけど…なんで急に?」
「…この前魔鳥ルダリオンを相手にした時、もしアキトと俺二人だけだったらあれほど簡単には倒せなかったと思ったんだ」

 アキトは問題なくルダリオンを落とせるけど、俺がルダリオンにとどめを刺しきれずにきっと長引いて消耗戦になったと思うと、ハルは続けた。

「そんな事無いと思うけど…」

 だってハルだよ?あの時はサイクさんがいたからああなったけど、もしハルと俺だけだったらきっと知恵を搾って何とかして倒してくれたと思う。

 そう告げたんだけど、ハルはゆるりと首を振ったんだ。

「力不足なのは、自分が一番分かってるから…」

 真剣な目をしたハルは、剣の攻撃力をもっとあげるか、もしくは大盾を使えるようになりたいんだとそう続けた。

 本人の強い意志が無いかぎり、むやみに他の事に手を出すのは良くない。サイクさんはそう言ってたけど、きっとこのハルの目をみたらあの人もやめろとは言わないんだろうな。

 そう思うぐらいに真剣な目だった。

「良いかな?」
「うん、頑張ってね」

 俺にはもうハルなら出来るって信じてるって言う事ぐらいしか、できなかった。



 今朝も早朝から起きだしたハルは、ウェルマール騎士団の訓練用だというかっちりとした黒の上下を身に着けていく。

 俺はといえばてきぱきと着替えるハルの背中を、まだ寝起きの頭でぼんやりと眺めている。

 ハルは帰って来るまで寝てて良いよって言ってくれるんだけど、俺が見送りたいから起きたいって我儘を言って起きてるんだ。

 いつもならまだ寝てる時間帯だし眠いのはもちろん眠いんだけど、ご褒美があるから頑張れちゃうんだよね。

 あくびをかみ殺しながらじっと背中を眺めていると、全ての用意を終えたハルはくるりとこちらを振り返った。

「それじゃあ、いってくるね。アキト」

 にっこり笑顔でそう告げたハルに、俺は思わず一瞬だけ息を止めてしまった。

 いや、だってね、ウェルマール騎士団の黒の上下を着たハルは、すっっっっっごく格好良いんだよ。

 装飾とかの無い地味な訓練用の制服なんだけど、もしかしてその服ってハルのために作られたの?と聞きたくなるぐらいすっごく似合ってるんだ。

 これを毎朝見られるとか、すごいご褒美だと思わない?

 うっかり見惚れそうになりながらも、俺はなんとか笑顔でいってらっしゃいと返す事に成功した。

「また後で」
「うん、気をつけてね」

 笑顔で手を振って出ていったハルを見送って、俺はすくりと立ち上がった。

 いつもならこのままハルが帰ってくるまでこの部屋にいるんだけど、今日は違うんだ。用意をしないとと慌てて服を着替えた俺は、ささっと全身に浄化魔法をかける。

 昨日の夜もかけたから必要無いのかもしれないけど、もうすっかり癖になってるんだ。

 これで準備はよしかなと考えたタイミングで、コンコンと控え目にドアがノックされた。

「はい!」

 ドアを開ければ、そこには早朝にも関わらずいつも通りの穏やかな笑みを浮かべたジルさんの姿があった。

「アキトさん、おはようございます」
「おはようございます、ジルさん」
「それでは、行きましょうか?」
「はい、お願いします!」

 今日はハルには内緒で、ジルさんと一緒に訓練を見学に行くんだ。あの制服を着て訓練するハルが見られるなんて、ワクワクするよね。
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