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961.【ハル視点】帰宅後の大騒ぎ
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「もうだいぶ遅くなったから、すこし急ごうか」
そう声をかければ、アキトはすこし不思議そうにしながらもすぐに歩く速度をあげてくれた。こんな事を言うのは初めてだからきっと理由が気になっただろうに、疑問を口に出しもせずに素直に従ってくれるのはありがたい。
時間さえあるならもちろん理由をしっかりと説明するんだが、今はその時間すら惜しい。
なんだかひどく嫌な予感がするんだよなー―主に俺の家族が暴走しそうという方向性で。
アキトと二人揃って大急ぎで領主城へと駆け込めば、入口で待機していた使用人たちにさっと囲まれた。
「おかえりなさいませ、ハロルド様、アキト様」
「ああ、ただいま」
「ただいま帰りました」
ぐるりと回りを見回してみたが、すくなくとも捜索隊を出そうとしてはいないようだし、殺気だった家族の姿も無いな。良かった、どうやらギリギリで間に合ったようだ。
「ご無事で何よりです」
「ああ、ありがとう」
皆はどうしてる?と俺が尋ねようとした瞬間、メイドに連れられた家族がすごい勢いでこちらへ向かってきているのが見えた。
「アキト、ハル!」
あっという間に、今度は駆け寄ってきた家族に取り囲まれてしまった。あの一瞬で距離を取って壁際に控えている使用人たちは、賞賛に値するな。
この後の展開を予想して、俺はとっさにアキトの腰に手を回して抱き寄せた。支えないと大変な事になるからな。決してアキトを抱き寄せたかっただけでは無い。
「ああ、無事だったか!」
「ハル、アキトくん、二人とも帰って来るのが遅いぞ!」
叫ぶように口にしたファーガス兄さんと父さんは、ホッと息を吐きながらアキトと俺に抱き着いてきた。うん、やっぱりこうなるよな。
「二人とも、おかえりなさい」
「はー良かったー」
心配してくれていたのだろう涙目のキースと、苦笑を浮かべたウィリアム兄さんもそう声をかけながら抱き着いてくる。最後に近づいてきたマティさんとジルさんも、他の四人よりは控え目ではあったがぎゅっと抱き着いてきた。
「何があったのかと思ったよ」
「ご無事で何よりです、お二人とも」
こんな風に全員に抱きしめられると少し苦しいんだが、さすがに心配してくれている家族にやめろとは言い難い。ちなみにアキトは驚いた様子で目をパチパチと瞬いていたけれど、心配されていたんだと理解した瞬間、幸せそうに微笑んだ。
その笑顔でまた全員の抱擁が強くなったのには、もう笑うしかないな。
みんなは満足するまで抱き着いてから、そっと離れていった。
まだ不思議そうなアキトに、兄さん達は帰りが遅いアキトと俺を本気で心配していたんだと説明を始めた。
「ありがとうございます!」
ニコニコ笑顔のアキトに、父さんが続ける。
「ここは危険と隣り合わせの辺境領だ。しかも行先が難易度は低いとは言ってもダンジョン。さらに夜は危険だと知っているハルが一緒にいるというのに、夜になってもまだ帰って来る気配が無い。そんな条件が三つも揃えば、心配するに決まっているだろう?」
ちらちらと俺を見ているのは、アキトに抱き着いた事に怒らないかという様子伺いだろうな。アキトがこれだけ嬉しそうなのに俺が文句を言うわけが無いだろう。
「それに大きな魔物が街道に出たと報告も上がって来ていたから、今から迎えに行くかと話し合っていたところなんだ」
そうか、ルダリオンの目撃情報ももう報告が上がっていたのか。この言い方からして、倒された事はまだ知られていないみたいだ。
「もし帰ってくるのがもう少し遅かったら、過剰戦力と言われた全員揃って迎えに行くつもりだったよ」
「騎士団や衛兵も連れていくつもりだったけどねー」
まあそうだろうな。ここにいる全員が、本気で戦う時のための全身装備だから、俺の予想は外れていなかったという事になる。
それにしても母がここにいなくて、良かったかもしれない。もし母がここにいたらもうとっくに俺達を探しに出てるだろうし、何ならルダリオンとの戦闘に飛び入り参加していただろうから。
「それについてはすまないとしか言えないな」
「何か予想外でもあったのか」
父さんの質問に、俺はあったなと苦笑を浮かべて頷いた。
さてどう説明すればみんなが慌てずに済むだろうかと考えを巡らせていると、アキトが使用人の中に混ざっているラスを見つめているのに気が付いた。いつの間に来たのかは気づかなかったが、おそらくアキトを心配して見に来たんだろうな。
微笑ましくラスとアキトの視線でのやりとりを眺めていると、不意にアキトが口を開いた。
「あの、お土産があるんですけど…」
「お土産?アキトくんは律儀だねー」
ウィリアム兄さんは呆れ半分、嬉しさ半分といった感じの笑顔でそう答えている。
いや、今日は土産なんて買ってない。採った魚も食べつくしてしまった。そんな状況でアキトが出そうとするお土産なんて、一つしかないだろう。
嘘だろうと大きく目を見開いた俺の前で、アキトは朗らかに告げた。
「あの、これ、美味しいって聞いたので!」
前置きをしてから取り出したルダリオンの肉に、その場にいた全員の視線が集中する。
「…アキト…」
「えと……もしかして駄目だった…?」
「いや、駄目では無いんだが…うん、説明よりも先に肉を見せると、みんなも混乱するかなと思って…ね」
俺の言葉に、アキトは慌てた様子でみんなに視線を向けた。
「アキトくん、ハル、まず一点だけ良いか?」
皆を代表して、重々しい声でそう尋ねてきたのはファーガス兄さんだ。
「「はい」」
「これは報告のあった大きな魔物だな。二人とも怪我は?」
「「ありません」」
「よし、詳しい説明をしてもらおうか」
その後はみんな揃って別室へ移動して、アキトと俺への質問責めが始まった。逃げる隙なんてあるわけがない。
勢いに圧倒されているようでアキトは静かだったから、俺は今日の出来事を順序立てて説明していく。サイクさんと知り会った事から、三人でルダリオンを倒した事まで、きっちりと報告をした。
ちなみにアキトが魔法を使った事を知ったファーガス兄さんが、サイクだけずるいと拗ねたように言い出すなんて予想外の事態もあった。まあ伴侶であるマティさんにさらりと宥められて、機嫌はすぐに直っていたけどな。
マティさんには後でお礼を言っておこう。
そう声をかければ、アキトはすこし不思議そうにしながらもすぐに歩く速度をあげてくれた。こんな事を言うのは初めてだからきっと理由が気になっただろうに、疑問を口に出しもせずに素直に従ってくれるのはありがたい。
時間さえあるならもちろん理由をしっかりと説明するんだが、今はその時間すら惜しい。
なんだかひどく嫌な予感がするんだよなー―主に俺の家族が暴走しそうという方向性で。
アキトと二人揃って大急ぎで領主城へと駆け込めば、入口で待機していた使用人たちにさっと囲まれた。
「おかえりなさいませ、ハロルド様、アキト様」
「ああ、ただいま」
「ただいま帰りました」
ぐるりと回りを見回してみたが、すくなくとも捜索隊を出そうとしてはいないようだし、殺気だった家族の姿も無いな。良かった、どうやらギリギリで間に合ったようだ。
「ご無事で何よりです」
「ああ、ありがとう」
皆はどうしてる?と俺が尋ねようとした瞬間、メイドに連れられた家族がすごい勢いでこちらへ向かってきているのが見えた。
「アキト、ハル!」
あっという間に、今度は駆け寄ってきた家族に取り囲まれてしまった。あの一瞬で距離を取って壁際に控えている使用人たちは、賞賛に値するな。
この後の展開を予想して、俺はとっさにアキトの腰に手を回して抱き寄せた。支えないと大変な事になるからな。決してアキトを抱き寄せたかっただけでは無い。
「ああ、無事だったか!」
「ハル、アキトくん、二人とも帰って来るのが遅いぞ!」
叫ぶように口にしたファーガス兄さんと父さんは、ホッと息を吐きながらアキトと俺に抱き着いてきた。うん、やっぱりこうなるよな。
「二人とも、おかえりなさい」
「はー良かったー」
心配してくれていたのだろう涙目のキースと、苦笑を浮かべたウィリアム兄さんもそう声をかけながら抱き着いてくる。最後に近づいてきたマティさんとジルさんも、他の四人よりは控え目ではあったがぎゅっと抱き着いてきた。
「何があったのかと思ったよ」
「ご無事で何よりです、お二人とも」
こんな風に全員に抱きしめられると少し苦しいんだが、さすがに心配してくれている家族にやめろとは言い難い。ちなみにアキトは驚いた様子で目をパチパチと瞬いていたけれど、心配されていたんだと理解した瞬間、幸せそうに微笑んだ。
その笑顔でまた全員の抱擁が強くなったのには、もう笑うしかないな。
みんなは満足するまで抱き着いてから、そっと離れていった。
まだ不思議そうなアキトに、兄さん達は帰りが遅いアキトと俺を本気で心配していたんだと説明を始めた。
「ありがとうございます!」
ニコニコ笑顔のアキトに、父さんが続ける。
「ここは危険と隣り合わせの辺境領だ。しかも行先が難易度は低いとは言ってもダンジョン。さらに夜は危険だと知っているハルが一緒にいるというのに、夜になってもまだ帰って来る気配が無い。そんな条件が三つも揃えば、心配するに決まっているだろう?」
ちらちらと俺を見ているのは、アキトに抱き着いた事に怒らないかという様子伺いだろうな。アキトがこれだけ嬉しそうなのに俺が文句を言うわけが無いだろう。
「それに大きな魔物が街道に出たと報告も上がって来ていたから、今から迎えに行くかと話し合っていたところなんだ」
そうか、ルダリオンの目撃情報ももう報告が上がっていたのか。この言い方からして、倒された事はまだ知られていないみたいだ。
「もし帰ってくるのがもう少し遅かったら、過剰戦力と言われた全員揃って迎えに行くつもりだったよ」
「騎士団や衛兵も連れていくつもりだったけどねー」
まあそうだろうな。ここにいる全員が、本気で戦う時のための全身装備だから、俺の予想は外れていなかったという事になる。
それにしても母がここにいなくて、良かったかもしれない。もし母がここにいたらもうとっくに俺達を探しに出てるだろうし、何ならルダリオンとの戦闘に飛び入り参加していただろうから。
「それについてはすまないとしか言えないな」
「何か予想外でもあったのか」
父さんの質問に、俺はあったなと苦笑を浮かべて頷いた。
さてどう説明すればみんなが慌てずに済むだろうかと考えを巡らせていると、アキトが使用人の中に混ざっているラスを見つめているのに気が付いた。いつの間に来たのかは気づかなかったが、おそらくアキトを心配して見に来たんだろうな。
微笑ましくラスとアキトの視線でのやりとりを眺めていると、不意にアキトが口を開いた。
「あの、お土産があるんですけど…」
「お土産?アキトくんは律儀だねー」
ウィリアム兄さんは呆れ半分、嬉しさ半分といった感じの笑顔でそう答えている。
いや、今日は土産なんて買ってない。採った魚も食べつくしてしまった。そんな状況でアキトが出そうとするお土産なんて、一つしかないだろう。
嘘だろうと大きく目を見開いた俺の前で、アキトは朗らかに告げた。
「あの、これ、美味しいって聞いたので!」
前置きをしてから取り出したルダリオンの肉に、その場にいた全員の視線が集中する。
「…アキト…」
「えと……もしかして駄目だった…?」
「いや、駄目では無いんだが…うん、説明よりも先に肉を見せると、みんなも混乱するかなと思って…ね」
俺の言葉に、アキトは慌てた様子でみんなに視線を向けた。
「アキトくん、ハル、まず一点だけ良いか?」
皆を代表して、重々しい声でそう尋ねてきたのはファーガス兄さんだ。
「「はい」」
「これは報告のあった大きな魔物だな。二人とも怪我は?」
「「ありません」」
「よし、詳しい説明をしてもらおうか」
その後はみんな揃って別室へ移動して、アキトと俺への質問責めが始まった。逃げる隙なんてあるわけがない。
勢いに圧倒されているようでアキトは静かだったから、俺は今日の出来事を順序立てて説明していく。サイクさんと知り会った事から、三人でルダリオンを倒した事まで、きっちりと報告をした。
ちなみにアキトが魔法を使った事を知ったファーガス兄さんが、サイクだけずるいと拗ねたように言い出すなんて予想外の事態もあった。まあ伴侶であるマティさんにさらりと宥められて、機嫌はすぐに直っていたけどな。
マティさんには後でお礼を言っておこう。
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