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960.【ハル視点】賑やかなミルゴさん
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俺達のいる場所へと一直線に近づいて来たその人は、茂みを突っ切るようにして真っ暗な森から飛び出してきた。
「無事か!?」
そう叫びながら駆けこんで来たのは、鍛え上げられた肉体が見事な男性だった。
服装からして冒険者だと思うんだが、まるでトライプールの初心者冒険者みたいな装備を身に着けている事に引っかかった。この辺りではあまり見ないような軽装だ。
もし警告笛を吹いたのが目の前の男性だと仮定すれば、こんな装備でルダリオンと戦ったという事になる。そんなことが有り得るのか?
ああ、だが背中に背負っている盾は、材質からしてこの辺りでも滅多に手に入らないような一級品だな。あの盾とその他の装備の釣り合いがとれていないのはやはり少し気にはなるが、あの盾だけならルダリオンと戦闘は可能かもしれない。
そんなことをぼんやりと考えながら観察していると、男性は不思議そうにキョロキョロと視線を動かした。戦闘中の所へ飛び込んだつもりが、何故か全員から見つめられているんだからその反応も無理は無い。
「ルダリオン…倒してる…な…?」
倒れたままのルダリオンに気づくなり、その男性は困り顔でそう呟いた。
「はー…よりによってミルゴ、お前かよ」
「あれ、サイク…なんでここに?」
いや釣り帰りに決まってるかと、男性は自己完結して苦笑を浮かべた。サイクさんが釣り好きな事を知っているという事は、知り合いなのか。
「ああ、正解だ」
「…知り合いか?」
まだ警戒を解ききらない状態でそう尋ねれば、サイクさんは苦笑しながらすぐに頷いた。
「ああ。うちのパーティーの盾使い、ミルゴだ」
なるほど。サイクさんのパーティーの盾使いがこの人か。どうやら危険人物では無さそうだと判断した俺は、ホッと肩の力を抜いた。
「これ…どうしたんだ?」
「ああ、アキトが落としてくれて、ハルが転がしてくれて、俺がとどめをさした」
俺達を紹介するかのように手で示しつつ、サイクさんは笑顔で説明してくれた。
「まじかよ、うわー良かったーもし街に入り込んでたらどうしようってそればっかり考えて全速力で走ってきたんだよ」
「お前な、一人でルダリオンを相手にしたりすんなよ。お前の弓じゃまだどう考えても無理だろ」
「それぐらい分かってるっての。向こうから襲って来たんだから仕方ないだろ!しかも他の冒険者に攻撃しようとするから撒くのも無理だったし」
今日は休日だからと軽装で森に入っていたのもまずかったと、ミルゴさんは肩を落として続けた。もちろん鞄の中に装備は揃えているらしいが、それに着替える隙が無かったそうだ。
まあそんな状況で装備をつけようとしたら、逆に命に係わるからな。
「しかも盾で攻撃を防ぎ過ぎて、俺に飽きたのか飛んでいっちゃってさ」
すっごい焦ったとミルゴさんは続けた。
うん、さらりと口にしているが、実はかなりすごい事をしているよな。
こんな軽装なのに無傷という事は、つまり一撃も攻撃を食らわなかったという事に他ならない。しかもルダリオンが飽きるほどの攻撃をひたすら受け続けたのに…だ。
あり得ないと思ってしまうほどの偉業だが、それもサイクさんのパーティーメンバーと思えば納得できてしまう。
「あー良かった。もし街に行ってたら、リーダーが倒してはくれるだろうけど…とか被害が出たらどうするかとか、久しぶりに色々考えたわ」
ふうーと息を吐いたミルゴさんは、兄さんらもありがとうなと律儀に俺達にもお礼を告げた。
「俺はミルゴ。見ての通りの前衛盾使いだ」
「俺はハル、前衛剣士だな」
「あ、アキト、後衛の魔法使いです」
軽く自己紹介を終えた俺達は、さきほど倒したばかりのルダリオンに視線を向けた。このままにしておくわけにも行かないし、かといってこんな夜遅くに暗いなかで解体をするのも難しいだろう。
さてどうしようかと思ったんだが、そこはミルゴさんが俺の責任で解体しようかと自主的に名乗り出てくれた。
なんでもミルゴさんは元々解体がかなり得意な人らしく、サイクさんのパーティーでも解体を主に担当しているそうだ。
巻き込んだ罪滅ぼしだと思ってまかせてくれとまで言われれば、拒否もできないな。
せめてもと俺とサイクさんが取り出した魔導具の灯りを頼りに、ミルゴさんは驚くほどの速度でルダリオンを素材の山に変えてくれた。
ちなみに魔石はサイクさんとアキトと俺がお互いに譲り合った結果、誰の物にするか全く決まらず、最終的に衛兵詰所に寄付をするという形に落ち着いた。
余分に余った素材などを寄付される事はよくある筈だが、こんな巨大なルダリオンの魔石を寄付されたら大騒ぎになるんだろうな。まあ戸惑いつつも受け取ってはくれるだろうと、それ以上考えるのはやめる事にした。
俺とアキトは美味しいと評判のルダリオンの肉を受け取れただけで、満足だからな。
街の大門を無事に通り抜けた所で、サイクさんとミルゴさんとは分かれる事になった。このまま衛兵の詰所に言って寄付をしてくれるつもりらしい。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそありがとう」
「俺だけでは無傷で倒しきるのは難しかった…サイクさん、ありがとう」
負けてしまうとまでは言わないが、これほど簡単に倒しきる事はできなかったと断言できる。俺ももっと攻撃力を上げるべきかもしれない。
冷静に分析した結果の言葉だったが、サイクさんは苦笑を浮かべた。
「そんな事ねぇだろう」
「いや、もっと鍛えようと思ったよ」
「まあハルなら無理はしないだろう?好きにしろ」
信頼まじりの言葉に感謝の笑みを返していると、不意にアキトが口を開いた。
「あの、ミルゴさんも解体、ありがとうございました」
「ありがとう、ミルゴさん」
「いやいや、それ言うならこっちこそ倒してくれてありがとな。あと肉もすっごい嬉しい」
分けて貰った分は大事に食べるなとニコニコ笑顔のミルゴさんは、どうやら明るくてノリの良い人みたいだ。
「まあ機会があればまた会えるだろう」
「そうですね」
「それじゃー、二人とも元気でなー!」
「また」
「ああ、また」
笑顔で手を振って分かれた俺達は、そのまま領主城を目指して歩きだした。
「無事か!?」
そう叫びながら駆けこんで来たのは、鍛え上げられた肉体が見事な男性だった。
服装からして冒険者だと思うんだが、まるでトライプールの初心者冒険者みたいな装備を身に着けている事に引っかかった。この辺りではあまり見ないような軽装だ。
もし警告笛を吹いたのが目の前の男性だと仮定すれば、こんな装備でルダリオンと戦ったという事になる。そんなことが有り得るのか?
ああ、だが背中に背負っている盾は、材質からしてこの辺りでも滅多に手に入らないような一級品だな。あの盾とその他の装備の釣り合いがとれていないのはやはり少し気にはなるが、あの盾だけならルダリオンと戦闘は可能かもしれない。
そんなことをぼんやりと考えながら観察していると、男性は不思議そうにキョロキョロと視線を動かした。戦闘中の所へ飛び込んだつもりが、何故か全員から見つめられているんだからその反応も無理は無い。
「ルダリオン…倒してる…な…?」
倒れたままのルダリオンに気づくなり、その男性は困り顔でそう呟いた。
「はー…よりによってミルゴ、お前かよ」
「あれ、サイク…なんでここに?」
いや釣り帰りに決まってるかと、男性は自己完結して苦笑を浮かべた。サイクさんが釣り好きな事を知っているという事は、知り合いなのか。
「ああ、正解だ」
「…知り合いか?」
まだ警戒を解ききらない状態でそう尋ねれば、サイクさんは苦笑しながらすぐに頷いた。
「ああ。うちのパーティーの盾使い、ミルゴだ」
なるほど。サイクさんのパーティーの盾使いがこの人か。どうやら危険人物では無さそうだと判断した俺は、ホッと肩の力を抜いた。
「これ…どうしたんだ?」
「ああ、アキトが落としてくれて、ハルが転がしてくれて、俺がとどめをさした」
俺達を紹介するかのように手で示しつつ、サイクさんは笑顔で説明してくれた。
「まじかよ、うわー良かったーもし街に入り込んでたらどうしようってそればっかり考えて全速力で走ってきたんだよ」
「お前な、一人でルダリオンを相手にしたりすんなよ。お前の弓じゃまだどう考えても無理だろ」
「それぐらい分かってるっての。向こうから襲って来たんだから仕方ないだろ!しかも他の冒険者に攻撃しようとするから撒くのも無理だったし」
今日は休日だからと軽装で森に入っていたのもまずかったと、ミルゴさんは肩を落として続けた。もちろん鞄の中に装備は揃えているらしいが、それに着替える隙が無かったそうだ。
まあそんな状況で装備をつけようとしたら、逆に命に係わるからな。
「しかも盾で攻撃を防ぎ過ぎて、俺に飽きたのか飛んでいっちゃってさ」
すっごい焦ったとミルゴさんは続けた。
うん、さらりと口にしているが、実はかなりすごい事をしているよな。
こんな軽装なのに無傷という事は、つまり一撃も攻撃を食らわなかったという事に他ならない。しかもルダリオンが飽きるほどの攻撃をひたすら受け続けたのに…だ。
あり得ないと思ってしまうほどの偉業だが、それもサイクさんのパーティーメンバーと思えば納得できてしまう。
「あー良かった。もし街に行ってたら、リーダーが倒してはくれるだろうけど…とか被害が出たらどうするかとか、久しぶりに色々考えたわ」
ふうーと息を吐いたミルゴさんは、兄さんらもありがとうなと律儀に俺達にもお礼を告げた。
「俺はミルゴ。見ての通りの前衛盾使いだ」
「俺はハル、前衛剣士だな」
「あ、アキト、後衛の魔法使いです」
軽く自己紹介を終えた俺達は、さきほど倒したばかりのルダリオンに視線を向けた。このままにしておくわけにも行かないし、かといってこんな夜遅くに暗いなかで解体をするのも難しいだろう。
さてどうしようかと思ったんだが、そこはミルゴさんが俺の責任で解体しようかと自主的に名乗り出てくれた。
なんでもミルゴさんは元々解体がかなり得意な人らしく、サイクさんのパーティーでも解体を主に担当しているそうだ。
巻き込んだ罪滅ぼしだと思ってまかせてくれとまで言われれば、拒否もできないな。
せめてもと俺とサイクさんが取り出した魔導具の灯りを頼りに、ミルゴさんは驚くほどの速度でルダリオンを素材の山に変えてくれた。
ちなみに魔石はサイクさんとアキトと俺がお互いに譲り合った結果、誰の物にするか全く決まらず、最終的に衛兵詰所に寄付をするという形に落ち着いた。
余分に余った素材などを寄付される事はよくある筈だが、こんな巨大なルダリオンの魔石を寄付されたら大騒ぎになるんだろうな。まあ戸惑いつつも受け取ってはくれるだろうと、それ以上考えるのはやめる事にした。
俺とアキトは美味しいと評判のルダリオンの肉を受け取れただけで、満足だからな。
街の大門を無事に通り抜けた所で、サイクさんとミルゴさんとは分かれる事になった。このまま衛兵の詰所に言って寄付をしてくれるつもりらしい。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそありがとう」
「俺だけでは無傷で倒しきるのは難しかった…サイクさん、ありがとう」
負けてしまうとまでは言わないが、これほど簡単に倒しきる事はできなかったと断言できる。俺ももっと攻撃力を上げるべきかもしれない。
冷静に分析した結果の言葉だったが、サイクさんは苦笑を浮かべた。
「そんな事ねぇだろう」
「いや、もっと鍛えようと思ったよ」
「まあハルなら無理はしないだろう?好きにしろ」
信頼まじりの言葉に感謝の笑みを返していると、不意にアキトが口を開いた。
「あの、ミルゴさんも解体、ありがとうございました」
「ありがとう、ミルゴさん」
「いやいや、それ言うならこっちこそ倒してくれてありがとな。あと肉もすっごい嬉しい」
分けて貰った分は大事に食べるなとニコニコ笑顔のミルゴさんは、どうやら明るくてノリの良い人みたいだ。
「まあ機会があればまた会えるだろう」
「そうですね」
「それじゃー、二人とも元気でなー!」
「また」
「ああ、また」
笑顔で手を振って分かれた俺達は、そのまま領主城を目指して歩きだした。
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