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958.【ハル視点】魔鳥ルダリオン
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ダンジョンに向かう時にも通った領都に繋がる街道は、暗くなってきた事で様子が一変していた。
まず行き交う人の数が極端に少ない。
他の領の街道なら、今頃は街の外に出ていた旅人や領民、冒険者たちで混み合う時間帯なんだが、ここでは違う。
見える範囲にいるのは、明らかに戦闘が得意な冒険者や衛兵数人程度だし、その人たちも全員が急ぎ足で街を目指している。
アキトは興味深そうにそんなまばらな人の流れを観察している。
次に気になるのは、おそらく異様な存在感を放つ森だろう。
夜になると、何故か森に出てくる魔物の強さはさらにぐんと上がる。いや正確には夜の魔物と比べて弱い魔物が巣から出てこなくなる、だろうか。
魔物は何も人だけを狙うわけじゃない。魔物同士でも争いは起きる。おそらくそれを回避するために、弱いやつは出てこなくなるんだろう。
真っ暗な森からは、魔物や動物の鳴き声がうっすらと聞こえてくる。威嚇しあっているのか、なんとも言えない不快な声だ。
遠くから聞こえてくるのは鳴き声だけじゃない。武器同士がぶつかり合う音や、回り込めといった指示の声も聞こえてくる。
今も戦闘中なパーティーがいるんだろう。
「今日は…荒れてるみたいだな。すぐに危険はなさそうだが…」
サイクさんの言葉に、俺は気配を探りながらコクリと頷いた。
「ああ、少なくともすぐにこちらに来そうなのはいないね。このまままっすぐ街を目指そうか」
「うん」
もしここにいるのがこちらの世界に来たばかりの頃のアキトなら、周りを気にしつつも普通に歩いて街を目指そうとしただろう。
でもいまのアキトは違う。
いざという時のために魔力を練りながら、真剣な表情で前を歩くサイクさんの背中を追って歩き出した。
冒険者としての成長を誇らしく感じながら、俺もアキトの隣に並んだ。
それにしても今日は、この時間帯にしてはやけに暗いな。雲が分厚いのか星が見えないせいで、さらに暗く感じてしまう。
もし街道の真ん中に光石が埋め込まれていなかったら、もっと暗かっただろう。この案を出してくれた文官時代のジルさんに感謝しながら、街道を歩く。
「ハルは気配探知が得意なのか?」
「まあ…そうだな。得意だと思う。サイクさんは?」
「あー、俺のは気配探知というより勘だな」
気配探知が得意な奴がパーティーにいると、他は覚えないんだよなと苦笑を洩らしている。
「咄嗟の判断は勘の方が強かったりもするよな」
さらりとそう答えながら、さっきのダンジョンでの反応の速さはそれでかと密かに納得した。
「確かにな。それに何度も救われてきた」
そう言ってサイクさんが笑った瞬間、遠くの方でピィーっと甲高い音が二度鳴った。さっと身構えたアキトを視界の端に捉えながら、サイクさんと俺は一瞬で武器を抜き放ち構える。
遠くから聞こえていた何かの鳴き声も、虫の声すらぴたりと止まったのが余計に不気味だ。
「…警告笛だな」
まだ距離があることを確認してから、俺はアキトに声をかけた。
「アキト、今のは冒険者の出した警告音なんだ」
回数によって意味が変わってくると、俺とサイクさんは森を睨んだまま説明を続ける。
「二回なら魔物の予想外の移動…来るっ!」
サイクさんがそう叫んだ瞬間、真っ暗な森を突き破るようにして飛び出してきたのは巨大な鳥の魔物だった。
猛禽類のような鋭い爪をしたその魔鳥は、殺意を剥き出しにして一番前に立つサイクさんへと飛び掛かった。
ガキンッと重い音がして斧と爪が交差する。力の均衡は同じぐらいなのか、サイクさんは一歩も引かずに爪を抑え込んでいる。
「…っ!ルダリオン!A級魔物だ」
「なんでこんな所に…って誰かが逃がしたんだよなっ!っと!」
強引に交差していた爪を振り払うと、サイクさんはそのまま思いっきり斧を振り上げて切りつけた。バサッと大きな音がして、ルダリオンは一瞬で空へと舞い上がる。
「ちっ…避けやがったか」
さっきの一瞬のやりとりでサイクさんの攻撃力を理解したのか、ルダリオンは下りてくる気配を見せない。かと言って俺達を見逃すつもりも無いようだ。
「こいつは厄介だな。遠距離攻撃が出来ないときついか…」
投げナイフ程度じゃ届かないしなと困り顔で続けたサイクさんに、俺は尋ねた。
「落とすことができれば、仕留められるのか?」
「もちろんだまかせろ!…お前、遠距離攻撃も出来んのか?」
きっと出来ることが多い、自分のパーティーメンバーを思い浮かべているんだろうな。
残念ながらこの距離で届くような遠距離攻撃は、俺には不可能だ。
だが…と俺はにっこりと笑顔で答えた。
「俺には無理だけど、こっちにはアキトがいる」
アキトなら間違いなく落とせる。
ちらりと視線を向けてみれば、急に指名されたアキトは真剣な表情でルダリオンを見つめていた。
まず行き交う人の数が極端に少ない。
他の領の街道なら、今頃は街の外に出ていた旅人や領民、冒険者たちで混み合う時間帯なんだが、ここでは違う。
見える範囲にいるのは、明らかに戦闘が得意な冒険者や衛兵数人程度だし、その人たちも全員が急ぎ足で街を目指している。
アキトは興味深そうにそんなまばらな人の流れを観察している。
次に気になるのは、おそらく異様な存在感を放つ森だろう。
夜になると、何故か森に出てくる魔物の強さはさらにぐんと上がる。いや正確には夜の魔物と比べて弱い魔物が巣から出てこなくなる、だろうか。
魔物は何も人だけを狙うわけじゃない。魔物同士でも争いは起きる。おそらくそれを回避するために、弱いやつは出てこなくなるんだろう。
真っ暗な森からは、魔物や動物の鳴き声がうっすらと聞こえてくる。威嚇しあっているのか、なんとも言えない不快な声だ。
遠くから聞こえてくるのは鳴き声だけじゃない。武器同士がぶつかり合う音や、回り込めといった指示の声も聞こえてくる。
今も戦闘中なパーティーがいるんだろう。
「今日は…荒れてるみたいだな。すぐに危険はなさそうだが…」
サイクさんの言葉に、俺は気配を探りながらコクリと頷いた。
「ああ、少なくともすぐにこちらに来そうなのはいないね。このまままっすぐ街を目指そうか」
「うん」
もしここにいるのがこちらの世界に来たばかりの頃のアキトなら、周りを気にしつつも普通に歩いて街を目指そうとしただろう。
でもいまのアキトは違う。
いざという時のために魔力を練りながら、真剣な表情で前を歩くサイクさんの背中を追って歩き出した。
冒険者としての成長を誇らしく感じながら、俺もアキトの隣に並んだ。
それにしても今日は、この時間帯にしてはやけに暗いな。雲が分厚いのか星が見えないせいで、さらに暗く感じてしまう。
もし街道の真ん中に光石が埋め込まれていなかったら、もっと暗かっただろう。この案を出してくれた文官時代のジルさんに感謝しながら、街道を歩く。
「ハルは気配探知が得意なのか?」
「まあ…そうだな。得意だと思う。サイクさんは?」
「あー、俺のは気配探知というより勘だな」
気配探知が得意な奴がパーティーにいると、他は覚えないんだよなと苦笑を洩らしている。
「咄嗟の判断は勘の方が強かったりもするよな」
さらりとそう答えながら、さっきのダンジョンでの反応の速さはそれでかと密かに納得した。
「確かにな。それに何度も救われてきた」
そう言ってサイクさんが笑った瞬間、遠くの方でピィーっと甲高い音が二度鳴った。さっと身構えたアキトを視界の端に捉えながら、サイクさんと俺は一瞬で武器を抜き放ち構える。
遠くから聞こえていた何かの鳴き声も、虫の声すらぴたりと止まったのが余計に不気味だ。
「…警告笛だな」
まだ距離があることを確認してから、俺はアキトに声をかけた。
「アキト、今のは冒険者の出した警告音なんだ」
回数によって意味が変わってくると、俺とサイクさんは森を睨んだまま説明を続ける。
「二回なら魔物の予想外の移動…来るっ!」
サイクさんがそう叫んだ瞬間、真っ暗な森を突き破るようにして飛び出してきたのは巨大な鳥の魔物だった。
猛禽類のような鋭い爪をしたその魔鳥は、殺意を剥き出しにして一番前に立つサイクさんへと飛び掛かった。
ガキンッと重い音がして斧と爪が交差する。力の均衡は同じぐらいなのか、サイクさんは一歩も引かずに爪を抑え込んでいる。
「…っ!ルダリオン!A級魔物だ」
「なんでこんな所に…って誰かが逃がしたんだよなっ!っと!」
強引に交差していた爪を振り払うと、サイクさんはそのまま思いっきり斧を振り上げて切りつけた。バサッと大きな音がして、ルダリオンは一瞬で空へと舞い上がる。
「ちっ…避けやがったか」
さっきの一瞬のやりとりでサイクさんの攻撃力を理解したのか、ルダリオンは下りてくる気配を見せない。かと言って俺達を見逃すつもりも無いようだ。
「こいつは厄介だな。遠距離攻撃が出来ないときついか…」
投げナイフ程度じゃ届かないしなと困り顔で続けたサイクさんに、俺は尋ねた。
「落とすことができれば、仕留められるのか?」
「もちろんだまかせろ!…お前、遠距離攻撃も出来んのか?」
きっと出来ることが多い、自分のパーティーメンバーを思い浮かべているんだろうな。
残念ながらこの距離で届くような遠距離攻撃は、俺には不可能だ。
だが…と俺はにっこりと笑顔で答えた。
「俺には無理だけど、こっちにはアキトがいる」
アキトなら間違いなく落とせる。
ちらりと視線を向けてみれば、急に指名されたアキトは真剣な表情でルダリオンを見つめていた。
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