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952.【ハル視点】見慣れないパン
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「あの、ムレングのダンジョンの話とか、もしサイクさんさえ良ければ…話してもらえませんか?」
興味が抑えられなかったらしいアキトの恐る恐るの質問に、サイクさんは面白そうに笑って良いぞと答えた。
「まあでもその前に、まずは鮮度が良いうちにこいつを捌いとくのが一番大事だな」
そう宣言したサイクさんは、自分の腰の魔導収納鞄から木製のまな板や見慣れない形のナイフを取り出した。魚を捌くために作られた専用の物なのか、鋭くとがった刃が特徴的だ。
思わずじっと見つめてしまっていたが、俺達の視線に気づいたサイクさんはふっと笑うと文句を言うでもなく真剣な表情で魚を捌き始めた。
誰に見られていても関係ないから見てて良いぞ。無言のうちにそう許可をもらった気分だ。
サイクさんの手は流れる水のように、迷いなくなめらかに動き出した。一切の無駄の無い動きに、思わず見惚れてしまう。
もしかして本職は冒険者じゃなくて料理人じゃないのか?と聞きたくなってしまうぐらいの熟練の手つきだった。
「すごいな、想像以上の腕前だ」
「うん、見惚れちゃうぐらいの手つきだね」
無意識のうちにぽつりとこぼれた俺の感想に、アキトもうんうんと頷きながら答えてくれた。
聞かせるつもりで言った言葉では無かったが、サイクさんは俺達の言葉を聞くなりハハハと声をあげて笑った。
「二人とも褒めてくれてありがとな。釣りが趣味だとな、必要に迫られて自然と出来るようになるんだよ」
照れくさそうにしながら、サイクさんは今度は巨大な串を魔導収納鞄から取り出した。
「これはな、暇な時に自分で削り出して作ってる、魚を串焼きにするための串なんだ」
「そうなのか、すごいな」
「使わせてもらって良いんですか?」
アキトの質問にああもちろんと答えたサイクさんは、その大きな串を片手に器用に切り身へと刺していった。
「ほら、できたぞ」
大きな葉っぱをお皿代わりにして差し出された魚の串は、全部で六本もあった。
「ありがとう」
「ありがとうございます!」
「おう、あとは塩を振ってこのくらいの距離でじっくり焼けば、それだけで美味いからな。それで、ムレングのダンジョンの話だったよな?」
話は食いながらで良いかと尋ねられたアキトと俺は、もちろんとすぐさま頷いた。
「今日の飯は良いものが手に入ってな」
そう前置きをしたサイクさんは、鞄の中から不思議な形の何かを取り出した。
周りには薄く焼き目のついた層があって、それ以外の場所はふかふかしていそうな真っ白な生地だ。
「あまり見ない形だな」
思わずそう呟いた俺は、まじまじとその変わった形の何かを見つめた。
「ウェルマ市場の裏路地にあるパースパン屋のしょくパンってもんなんだ」
パースパン屋のしょくパン…という事はこの不思議な形をしたものは、パンなのか?
「へぇ、しょくパンか」
「なんだ知らなかったか?最近は辺境領にいくつか、これと同じようなしょくパンを出している店があるんだ」
「全く知らなかったな」
しばらく帰ってきてなかったからと続ければ、サイクさんはなるほどと一つ頷いた。
「この作り方を思いついたやつがな、広く名前と製法を広めたいって作り方を全部公開したんだよ」
「…そうなのか?」
黙っていれば利益になっただろうにと首を傾げる俺に、サイクさんはパン屋の横の繋がりで最近は他の領にも広がってると教えてくれた。
なるほど、いつかトライプールにもこの形のパンを売る店が出るかもしれないって事か。
「せっかくだし、お前らも食ってみるか?」
いつもは売り切れてる事が多いが今日は運良く10枚も手に入ったからなと、サイクさんは笑顔で勧めてくる。
「…正直興味はあるが…良いのか?」
「ああ、うまいもんは皆で食おうぜ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
ああ、そんな事を言い合っている間に、魚の串も香ばしい香りを漂わせ始めているな。
「そろそろ良さそうだな」
そう呟けば、アキトはささっと三枚のお皿を取り出して手渡してくれた。うん、どうやらアキトも俺と同じ事を考えていたようだ。
俺はにこっと笑みを浮かべて、皿に乗せた魚串をアキトに差し出した。言葉にはしなかったが、アキトもにっこりと笑みを返してからサイクさんに向き直った。
「はい、サイクさんの分」
「は?俺の分って…?」
「え、捌いてくれたから一緒に食べると思ってたんですけど…」
違うんですかと首を傾げたアキトに、サイクさんは慌てた様子で答えた。
「い、いいのか?それこそ滅多に釣れない魚だぞ?内臓を取ればめちゃくちゃ美味いし!」
慌てるサイクさんに、俺は笑って答えた。
「うまいもんは皆で食うんだろう?」
さっきサイクさんが言った言葉を繰り返せば、サイクさんはぐっと言葉に詰まった。
興味が抑えられなかったらしいアキトの恐る恐るの質問に、サイクさんは面白そうに笑って良いぞと答えた。
「まあでもその前に、まずは鮮度が良いうちにこいつを捌いとくのが一番大事だな」
そう宣言したサイクさんは、自分の腰の魔導収納鞄から木製のまな板や見慣れない形のナイフを取り出した。魚を捌くために作られた専用の物なのか、鋭くとがった刃が特徴的だ。
思わずじっと見つめてしまっていたが、俺達の視線に気づいたサイクさんはふっと笑うと文句を言うでもなく真剣な表情で魚を捌き始めた。
誰に見られていても関係ないから見てて良いぞ。無言のうちにそう許可をもらった気分だ。
サイクさんの手は流れる水のように、迷いなくなめらかに動き出した。一切の無駄の無い動きに、思わず見惚れてしまう。
もしかして本職は冒険者じゃなくて料理人じゃないのか?と聞きたくなってしまうぐらいの熟練の手つきだった。
「すごいな、想像以上の腕前だ」
「うん、見惚れちゃうぐらいの手つきだね」
無意識のうちにぽつりとこぼれた俺の感想に、アキトもうんうんと頷きながら答えてくれた。
聞かせるつもりで言った言葉では無かったが、サイクさんは俺達の言葉を聞くなりハハハと声をあげて笑った。
「二人とも褒めてくれてありがとな。釣りが趣味だとな、必要に迫られて自然と出来るようになるんだよ」
照れくさそうにしながら、サイクさんは今度は巨大な串を魔導収納鞄から取り出した。
「これはな、暇な時に自分で削り出して作ってる、魚を串焼きにするための串なんだ」
「そうなのか、すごいな」
「使わせてもらって良いんですか?」
アキトの質問にああもちろんと答えたサイクさんは、その大きな串を片手に器用に切り身へと刺していった。
「ほら、できたぞ」
大きな葉っぱをお皿代わりにして差し出された魚の串は、全部で六本もあった。
「ありがとう」
「ありがとうございます!」
「おう、あとは塩を振ってこのくらいの距離でじっくり焼けば、それだけで美味いからな。それで、ムレングのダンジョンの話だったよな?」
話は食いながらで良いかと尋ねられたアキトと俺は、もちろんとすぐさま頷いた。
「今日の飯は良いものが手に入ってな」
そう前置きをしたサイクさんは、鞄の中から不思議な形の何かを取り出した。
周りには薄く焼き目のついた層があって、それ以外の場所はふかふかしていそうな真っ白な生地だ。
「あまり見ない形だな」
思わずそう呟いた俺は、まじまじとその変わった形の何かを見つめた。
「ウェルマ市場の裏路地にあるパースパン屋のしょくパンってもんなんだ」
パースパン屋のしょくパン…という事はこの不思議な形をしたものは、パンなのか?
「へぇ、しょくパンか」
「なんだ知らなかったか?最近は辺境領にいくつか、これと同じようなしょくパンを出している店があるんだ」
「全く知らなかったな」
しばらく帰ってきてなかったからと続ければ、サイクさんはなるほどと一つ頷いた。
「この作り方を思いついたやつがな、広く名前と製法を広めたいって作り方を全部公開したんだよ」
「…そうなのか?」
黙っていれば利益になっただろうにと首を傾げる俺に、サイクさんはパン屋の横の繋がりで最近は他の領にも広がってると教えてくれた。
なるほど、いつかトライプールにもこの形のパンを売る店が出るかもしれないって事か。
「せっかくだし、お前らも食ってみるか?」
いつもは売り切れてる事が多いが今日は運良く10枚も手に入ったからなと、サイクさんは笑顔で勧めてくる。
「…正直興味はあるが…良いのか?」
「ああ、うまいもんは皆で食おうぜ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
ああ、そんな事を言い合っている間に、魚の串も香ばしい香りを漂わせ始めているな。
「そろそろ良さそうだな」
そう呟けば、アキトはささっと三枚のお皿を取り出して手渡してくれた。うん、どうやらアキトも俺と同じ事を考えていたようだ。
俺はにこっと笑みを浮かべて、皿に乗せた魚串をアキトに差し出した。言葉にはしなかったが、アキトもにっこりと笑みを返してからサイクさんに向き直った。
「はい、サイクさんの分」
「は?俺の分って…?」
「え、捌いてくれたから一緒に食べると思ってたんですけど…」
違うんですかと首を傾げたアキトに、サイクさんは慌てた様子で答えた。
「い、いいのか?それこそ滅多に釣れない魚だぞ?内臓を取ればめちゃくちゃ美味いし!」
慌てるサイクさんに、俺は笑って答えた。
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さっきサイクさんが言った言葉を繰り返せば、サイクさんはぐっと言葉に詰まった。
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