上 下
948 / 1,112

947.空を飛ぶ魔物

しおりを挟む
 ああいう大型の空を飛ぶ魔物は、基本的に翼の付け根のあたりに魔力を集める場所があるんだ。ハルは落ち着いた声でそう教えてくれた。

「羽の力だけで飛んでるわけじゃなくて、あの巨体を魔力を使って浮かせているって言えば分かりやすいかな。羽ばたいた瞬間に、一瞬だけ光ってるんだけど…分かる?」

 こんな事態でも分かりやすいハルの説明を聞いて、こちらを睨みながら飛び続ける魔鳥をじっと観察してみた。

 あ、うん。確かに一瞬だけ淡く光ってる場所がある。

「うん、あの左側の羽の付け根の淡く光ってる場所で合ってる?」
「ああ、そこだ。魔力を集める場所に攻撃を与えられれば、あの巨体を浮かせ続ける事はできなくなるんだ」

 ちなみにルダリオンなら、アキトの得意な土魔法が一番相性が良いよ。ちゃんとそこまで教えてくれたハルに、俺は分かったありがとうとすぐに頷いた。

 ちらりと視線を向ければ、油断なく魔鳥を見据えていたサイクさんもちらりとこちらを見た。パチリと目が合う。

 本当に出来るのかとか、落とす自信はあるのかとか。聞きたい事は色々あると思うんだ。だって俺とサイクさんは今日知り会ったばかりだし。でもサイクさんはそういう言葉を一切言わなかった。

 ただ無言ですっと斧を構ると、いつでも攻撃できる体勢になって待機してくれている。ハルだけじゃない。サイクさんだって、今日出会ったばかりの俺を信じてまかせてくれてるんだ。

 二人の期待に答えたい。

 高ぶる気持ちを何とか抑え込んでして、俺は練り上げていた魔力を使ってつぶてを作った。

 もっと大きく、もっと鋭く。

 練り上げた魔力をさらに研ぎすまして作り上げたつぶては、まるでハリのように細く尖った形状になった。

 初めて作った形だけど、使っている魔力の密度は高いから普段よりも硬度はある筈。

「羽ばたきなおした瞬間、一瞬だけ動きが止まる。そこを狙って」

 すっと剣を構えたハルの言葉にこくりと頷いて、俺はすーっと息を吸いながら狙いを定めた。

 うん、いける。

 危険だと判断したのかルダリオンは更に高度をあげたけど、俺は構わずつぶてを放った。

 シュッと音を立てて放たれたつぶては、ルダリオンの左の翼の付け根に突き刺さった。途端に上がる恐ろしい鳴き声に、サイクさんは怯むでもなくニヤリと笑った。

「アキト、良い腕だな」
「ありがとうございます!」

 叫び返しながらもう一度魔力を練る。もう出番は無いかもしれないけど、こうしておくとすぐに魔法が発動できるから便利なんだよね。

「ハル、爪の牽制を頼んで良いか?」
「ああ、とどめは頼む」

 不規則に羽ばたきながら下りてきたルダリオンは、地面に落ちてからも戦意を失わなかった。器用に片脚で立ち上がり、もう片足の爪をかざして襲い掛かってくる。

 地面に落とされたのがよほど悔しかったのか、それともここにいる三人で一番弱いのが俺だからかな?

 理由は分からないけど、狙われているのは明らかに俺だった。

「アキトを狙うとは…」

 あ、ハルの怒りのスイッチが入りました。流れるようにルダリオンと切り結んだハルは、そのまま相手の勢いを上手く使ってゴロリと地面に転がしてみせた。

 サイクさんはその一瞬の隙を見逃さずに一気に距離を詰めると、そのまま巨大な斧を頭上にまで振り上げた。あの斧をあんな高さに持ち上げるって、どんな腕力してるんだろう。

 ギュワァァッと一鳴きしたルダリオンは、そのまま動かなくなった。

「さすがだな」
「いや、アキトがいなかったらそもそも攻撃が届いてねぇし、ハルがいなけりゃここまで楽にとどめはさせてねぇ」

 だからすごいってのはこっちの台詞だと、サイクさんは楽し気に笑みを浮かべた。

「…待ってくれ、何か来る…魔物ではなさそうだが…」

 不意にそう声をあげたハルに、俺とサイクさんは驚きつつも警戒態勢に戻った。魔物じゃないって言ってたけど、さっきのルダリオンに驚いた動物とかが暴走してるとかかな。

 そんな事を考えていると、遠くから徐々に近づいてくる声が聞こえてきた。

「うわー頼むから誰も死んでませんように!あと街に飛び込んでませんように!!被害がでていませんようにー!!!」

 あ、これ魔物でも動物でもなく人だね。しかも多分この人、ルダリオンに逃げられて警告のための笛をならした人だと思う。
しおりを挟む
感想 318

あなたにおすすめの小説

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?

トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!? 実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。 ※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。 こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

処理中です...