生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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946.夜の街道は

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 ダンジョンに向かう時にも通った領都に繋がる街道は、暗くなってきた事で驚くほど様子が一変していた。

 まず一番驚いたのは、行き交う人の数かな。

 見える範囲には数人の人しかいないし、その人たちもみんな、急ぎ足で街を目指してるんだ。

 辺境領では危険な夜を避けるために早めに街へ帰る。さっきもハルとサイクさんにそう教えてもらったばかりなんだけど、いざ夜になってしまうとこんなに人通りが少ないとは想像してなかったな。

 次に気になったのは、森から感じる異様な存在感だ。

 夜の森が真っ暗なだけなら、俺もすっかり慣れてしまったから別に驚かない。この世界では、街の外に街灯なんて滅多にないからね。

 でもその暗い森から、聞いた事もない何かの鳴き声がうっすらと聞こえて来るなら話は違ってくる。しかもね、これは狼系だなーとかこれは多分鳥の声ーとかそういう判別すらできないような恐怖心を煽ってくる声なんだ。

 更に遠くの方では戦闘中なのかなって音や声も聞こえてくるから、警戒せずにはいられない。

「今日は…荒れてるみたいだな。すぐに危険はなさそうだが…」

 サイクさんの言葉に、ハルもコクリと頷いた。

「ああ、少なくともすぐにこちらに来そうなのはいないね。このまままっすぐ街を目指そうか」
「うん」

 いざという時のために魔力を練りながら、俺は前を歩くサイクさんの背中を追って歩き出した。

 雲が分厚いのか星が見えないだけで、こんなに暗く感じるんだな。目印のためなのか街道の真ん中にぽつぽつと光る石を配置してくれてあるのが、とてもありがたい。

「ハルは気配探知が得意なのか?」
「まあ…そうだな。得意だと思う。サイクさんは?」
「あー、俺のは気配探知というより勘だな」

 気配探知が得意な奴がパーティーにいると、他は覚えないんだよなと苦笑を洩らしている。

「咄嗟の判断は勘の方が強かったりもするよな」
「確かにな。それに何度も救われてきた」

 そう言ってサイクさんが笑った瞬間、遠くの方でピィーっと甲高い音が二度鳴った。何の音だろうと考えるよりも先に身構えると、ハルとサイクさんも一瞬で武器を抜き放ち構えていた。

 遠くから聞こえていた何かの鳴き声も、虫の声すらぴたりと止まったのが余計に不気味だ。

「…警告笛だな」
「アキト、今のは冒険者の出した警告音なんだ」

 回数によって意味が変わってくると、二人は森を睨んだまま教えてくれた。

「二回なら魔物の予想外の移動…来るっ!」

 サイクさんがそう叫んだ瞬間、真っ暗な森を突き破るようにして飛び出してきたのは巨大な鳥の魔物だった。

 猛禽類のような鋭い爪をしたその魔鳥は、殺意を剥き出しにして一番前に立つサイクさんへと飛び掛かった。

 ガキンッと重い音がして斧と爪が交差する。力の均衡は同じぐらいなのか、サイクさんは一歩も引かずに爪を抑え込んでいる。

「…っ!ルダリオン!A級魔物だ」

 ハルが叫ぶようにしてそう教えてくれる。

「なんでこんな所に…って誰かが逃がしたんだよなっ!っと!」

 強引に交差していた爪を振り払うと、サイクさんはそのまま思いっきり斧を振り上げて切りつけた。バサッとすごい音がして、ルダリオンは一瞬で空へと舞い上がる。

「ちっ…避けやがったか」

 さっきの一瞬のやりとりでサイクさんの攻撃力を理解したのか、ルダリオンは下りてくる気配を見せない。かと言って俺達を見逃すつもりも無いみたいだ。

「こいつは厄介だな。遠距離攻撃が出来ないときついか…」

 投げナイフ程度じゃ届かないしなと困り顔で続けたサイクさんに、ハルが尋ねた。

「落とすことができれば、仕留められるのか?」
「もちろんだまかせろ!…お前、遠距離攻撃も出来んのか?」

 ハルはにっこりと笑顔で答えた。

「俺には無理だけど、こっちにはアキトがいる」

 信頼しか無いその言葉に、俺は不覚にもぐっと来てしまった。ハルの期待に応えられるように、俺にできる全力で頑張るよ。
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