生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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944.サイクさんとハルの攻防

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 差し出しされたカラフルなナドナの果実をまじまじと見つめたまま、サイクさんは何故かぴたりと動きを止めてしまった。

「あれ?固まっちゃった…?」
「サイクさん?大丈夫か?」

 ハルも心配そうにそう声をかけてるけど、サイクさんはまだぴくりとも動かずにフリーズしたままだ。ちなみに瞬きひとつしない目は、俺の手の平の上にあるナドナの果実に釘付けだよ。

 あれ、好物だって言ってたけど、もしかして迷惑だったのかな?

 すこしだけ不安になってきた所で、サイクさんはハッと我に返った様子で顔をあげた。

「いやいや、貴重な品なんだから、さすがに貰うのは駄目だ…!」
「え、貰ってください」
「だが、正直に言えば…欲しい!ものすごく欲しい!だから頼む、買い取らせてくれ!いくらで買ったんだ?」
「いえ、これは自分で採取したやつなので…」

 別に市場とかお店で勇気を出して買った、お高いやつとかってわけじゃないからね。例えそうだとしても、サイクさんに売りつけようとは思わないけどさ。

 だから値段はつけられないと続けようとしたんだけど、それよりも先にサイクさんが口を開いた。

「そうなのか、なら値段はアキトの好きに設定してくれて良い。相場の倍でも十倍でも払ってみせるぞ?」

 え、もらってって言ってるのに、なんで値段をつりあげようとするんですか?

「こう見えて俺は冒険者の中でも儲かってる方だからな?」

 こういう時の金は一切惜しまないなんて言い放つサイクさんを、どうすれば説得できるのかが俺には分からない。困ってしまった俺は、さっとハルに目を向けた。困った時のハル頼みだ。

 まかせてと笑顔を見せてくれたハルは、サイクさんに向き直った。

「対価はもう貰ったから、貰ってくれ」
「対価…?」
「ああ、俺達はサイクさんが声をかけてくれなければ、せっかく釣った魚を無駄にしてたんだぞ?」

 しかも図鑑には乗ってない情報を教えてもらったと、ハルはそう続けた。

「だがその分は、さっき魚串を貰ったので終わった筈だろう?」
「じゃあ他の人からはそうそう貰えない、ムレングのダンジョンの情報の方でどうだ?」

 その対価にしようかとハルが言えば、サイクさんはすぐさまお前たちならファーガスから情報を得られるだろうと返す。

 え、これもうどうすれば良いんだろう。ハルにも説得できないなら、俺には絶対に無理だろうし。もしかして適当に値段をつけるしかないって事なのかな?

 100グルとか言ったら、怒られるだろうか。

 そんな事を真剣に考えていると、不意にハルがじゃあと声をあげた。

「このナドナの果実は俺達三人の今日の出逢いの記念に贈る…ってのはどうだ?」

 またすぐに反論するんだろうなと聞いていたんだけど、サイクさんはぐうっと唸り声をあげるだけだった。

「……その理由で来られたら、拒否したらハルとアキトに出逢いたくなかったって意味になるじゃねぇか」

 あ、そういうものなんだ。

「そうだね。もしそうなったら…残念だけど、受け入れるよ?」

 もう勝利を確信した笑顔のハルに、サイクさんはハァとひとつ息を吐いた。

「分かった。俺の負けだ。アキト、ハル、ありがたく頂くよ」
「はいっ!」

 そっと差し出された大きな手の平に、そっとナドナの果実をのせる。

「久しぶりだし、大事に食べるよ。ありがとな」
「そうしてください」
「どういたしまして」

 ナドナの果実を大事そうに鞄の中にしまい込むと、サイクさんはよしと声をあげた。

「それじゃあダンジョンの話でもするか。こうなったら、ファーガスも知らない情報をいっぱい詰め込んでやる」

 そんな前置きから始まったサイクさんの話は、とっても面白かった。

 一切攻撃して来ない上に気づけばふわりと消えてしまう、そんな珍しい魔物に遭遇した時の話。
 時間帯によって色と効能がガラリと変わる、そんな不思議な植物を見つけた時の話。
 何故かダンジョン内に無造作に転がっている、ダンジョン産の魔道具の当たりはずれの話。

 そういうワクワクする話を、いっぱいしてくれたんだ。

 これはたぶん、俺達がムレングのダンジョンに潜るつもりは無いって断言したからなんだろうな。もしそうじゃなかったら攻略方法とか注意点とか、そういう難しい話になってたのかもしれない。

 そういう話も知識としては重要なんだろうなとは分かってるんだけど、でも俺はワクワクするサイクさんの冒険譚の方が気になる。
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