940 / 1,103
939.サイクさん
しおりを挟む
魚を捌こうかと申し出てくれたその男性は、親切な申し出に素直に喜ぶ俺達の反応にうっすらと笑みを浮かべた。
「俺はサイクっていうんだ、よろしくな」
「俺はアキトです!」
「ハルだ、よろしく」
サイクさんは俺とハルを順番に見つめてから、あれ?と不思議そうに本当に小さな声で呟いた。
「どうかしたのか?」
思わず漏れたって感じの声だったけど、どうやらハルにも聞こえていたみたいだ。
「あー…」
キョロキョロと周りを見て声が聞こえるほどの距離に人がいない事を確認すると、サイクさんはそっと口を開いた。
「間違ってたら悪いんだが…もしかしてハルってファーガスの弟か?」
え、ファーガスさんの事を知ってるの?
「ああ、そうだ。…サイクさんは、ファーガス兄さんを知ってるのか?」
「やっぱりそうか。すまんな、さっきは魚の事ばっかり考えてたからちゃんと兄ちゃんらの顔を見てなかったんだ」
顔立ちも色合いもよく似てると笑ったサイクさんは、なんでもファーガスさんの友人らしい。
「え、ファーガス兄さんにも友人がいたのか…」
その言い方はちょっとひどくない?そう思ったのは俺だけじゃなかったらしく、サイクさんは声をあげて笑い出した。
「あいつを捕まえてそう言えるのはお前ら家族ぐらいだろうな」
「兄とはどこで知り会ったんだ?」
「ああ、俺はムレングのダンジョンを攻略してる冒険者パーティーの一員なんだよ」
ムレングのダンジョン?と繰り返しながらゆるりと首を傾げれば、すぐに気づいてくれたハルが、何階層まであるかまだ判明してない一番深いダンジョンの名前だよと教えてくれた。一番深いダンジョンってムレングのダンジョンって言うのか。覚えておこう。
「ダンジョンの中で何度か会ってるうちに、自然と話すようになってな」
「ああ、ファーガス兄さんはダンジョンの視察にも行ってるからな」
その縁かと納得した様子で頷いたハルは、だが…と言葉を続けた。
「ファーガス兄さんが視察に行くのは、一般の冒険者はそう簡単に辿り着けなぐらい深い階層だろう?」
「まあそうだな」
深い階層まで向かう間にどこかで会うんじゃないのって思ったんだけど、ハルによるとムレングのダンジョンの中には転移魔法陣が一定の階層ごとに設けられているらしい。
もちろん間違えて入らないように魔法陣の場所は厳重に管理されていて、冒険者は自力で踏破した階層にしか飛ぶ事はできないようになってるんだって。
領主様一家は管理する側だから使おうと思えば一番下の転移魔法陣も使えるけど、それはしたくないとファーガスさんは暇さえあればダンジョンを潜っていたらしい。
「え…それってマチルダさんが寂しがらない?」
「あーそれがな…マティさんも一緒に潜ってるから、何も問題は無いんだ…そう、次期領主夫婦が一番危険な場所に行くって事以外はな…」
遠い目をしてそう呟いたハルに、俺とサイクさんは顔を見合わせた。
「あー…うん、マティも一緒にいた事もあったよ」
「だろうな」
「ダンジョン攻略勢の冒険者の間では、ファーガスとマティは次期最強夫婦って呼ばれてるよ」
「そうなのか…」
「ああ」
うつむいてしまったハルはふぅとひとつ息を吐くと、それよりと顔をあげた。無理やり気分を切り替えたんだろうな。
「すまない、話が反れたな。そんなファーガス兄さんとマティさんに何度も会えるサイクさんは確実に強いだろう?何故ここにいるんだ」
「理由は単純だ。今は俺のパーティーは、全員揃って休暇中なんだよ」
予想外の答えだったのか、ハルは不思議そうに答えた。
「休暇?」
「ああ、俺のパーティーのリーダーは効率重視でな」
効率重視なのに休暇をくれるの?と不思議に思ったけど、ハルは納得した様子で頷いていた。
「なるほど。休暇があった方が集中してダンジョンに挑めるという考え方か」
「ああ、良い案だろう?」
すこし自慢げに呟いたサイクさんは、きっと自分のパーティーのリーダーの事を尊敬しているんだろうな。
「不眠不休なんてやってる奴らもいるんだがな。そういうパーティーは、深い階層では長くはもたねぇんだよ」
魔物にやられてしまうとかそういう事だけじゃなくて、リーダーについて行けないと解散したり、もう無理だと逃げ出す人までいるらしい。
そりゃあそんなブラックな仕事場絶対に嫌だよね。しかも自分の命が掛かるような環境だ。
「さっきも言ったが俺は釣りが趣味だからな。ここでのんびり釣りをして休暇を満喫してるんだよ」
「休暇中なのに捌かせて悪いな」
「いやいや、話し相手ができて嬉しいよ。しかも友人の弟とその伴侶候補ときたらな」
あ、サイクさん、俺達の伴侶候補の腕輪に気づいてくれてたんだ。
「俺はサイクっていうんだ、よろしくな」
「俺はアキトです!」
「ハルだ、よろしく」
サイクさんは俺とハルを順番に見つめてから、あれ?と不思議そうに本当に小さな声で呟いた。
「どうかしたのか?」
思わず漏れたって感じの声だったけど、どうやらハルにも聞こえていたみたいだ。
「あー…」
キョロキョロと周りを見て声が聞こえるほどの距離に人がいない事を確認すると、サイクさんはそっと口を開いた。
「間違ってたら悪いんだが…もしかしてハルってファーガスの弟か?」
え、ファーガスさんの事を知ってるの?
「ああ、そうだ。…サイクさんは、ファーガス兄さんを知ってるのか?」
「やっぱりそうか。すまんな、さっきは魚の事ばっかり考えてたからちゃんと兄ちゃんらの顔を見てなかったんだ」
顔立ちも色合いもよく似てると笑ったサイクさんは、なんでもファーガスさんの友人らしい。
「え、ファーガス兄さんにも友人がいたのか…」
その言い方はちょっとひどくない?そう思ったのは俺だけじゃなかったらしく、サイクさんは声をあげて笑い出した。
「あいつを捕まえてそう言えるのはお前ら家族ぐらいだろうな」
「兄とはどこで知り会ったんだ?」
「ああ、俺はムレングのダンジョンを攻略してる冒険者パーティーの一員なんだよ」
ムレングのダンジョン?と繰り返しながらゆるりと首を傾げれば、すぐに気づいてくれたハルが、何階層まであるかまだ判明してない一番深いダンジョンの名前だよと教えてくれた。一番深いダンジョンってムレングのダンジョンって言うのか。覚えておこう。
「ダンジョンの中で何度か会ってるうちに、自然と話すようになってな」
「ああ、ファーガス兄さんはダンジョンの視察にも行ってるからな」
その縁かと納得した様子で頷いたハルは、だが…と言葉を続けた。
「ファーガス兄さんが視察に行くのは、一般の冒険者はそう簡単に辿り着けなぐらい深い階層だろう?」
「まあそうだな」
深い階層まで向かう間にどこかで会うんじゃないのって思ったんだけど、ハルによるとムレングのダンジョンの中には転移魔法陣が一定の階層ごとに設けられているらしい。
もちろん間違えて入らないように魔法陣の場所は厳重に管理されていて、冒険者は自力で踏破した階層にしか飛ぶ事はできないようになってるんだって。
領主様一家は管理する側だから使おうと思えば一番下の転移魔法陣も使えるけど、それはしたくないとファーガスさんは暇さえあればダンジョンを潜っていたらしい。
「え…それってマチルダさんが寂しがらない?」
「あーそれがな…マティさんも一緒に潜ってるから、何も問題は無いんだ…そう、次期領主夫婦が一番危険な場所に行くって事以外はな…」
遠い目をしてそう呟いたハルに、俺とサイクさんは顔を見合わせた。
「あー…うん、マティも一緒にいた事もあったよ」
「だろうな」
「ダンジョン攻略勢の冒険者の間では、ファーガスとマティは次期最強夫婦って呼ばれてるよ」
「そうなのか…」
「ああ」
うつむいてしまったハルはふぅとひとつ息を吐くと、それよりと顔をあげた。無理やり気分を切り替えたんだろうな。
「すまない、話が反れたな。そんなファーガス兄さんとマティさんに何度も会えるサイクさんは確実に強いだろう?何故ここにいるんだ」
「理由は単純だ。今は俺のパーティーは、全員揃って休暇中なんだよ」
予想外の答えだったのか、ハルは不思議そうに答えた。
「休暇?」
「ああ、俺のパーティーのリーダーは効率重視でな」
効率重視なのに休暇をくれるの?と不思議に思ったけど、ハルは納得した様子で頷いていた。
「なるほど。休暇があった方が集中してダンジョンに挑めるという考え方か」
「ああ、良い案だろう?」
すこし自慢げに呟いたサイクさんは、きっと自分のパーティーのリーダーの事を尊敬しているんだろうな。
「不眠不休なんてやってる奴らもいるんだがな。そういうパーティーは、深い階層では長くはもたねぇんだよ」
魔物にやられてしまうとかそういう事だけじゃなくて、リーダーについて行けないと解散したり、もう無理だと逃げ出す人までいるらしい。
そりゃあそんなブラックな仕事場絶対に嫌だよね。しかも自分の命が掛かるような環境だ。
「さっきも言ったが俺は釣りが趣味だからな。ここでのんびり釣りをして休暇を満喫してるんだよ」
「休暇中なのに捌かせて悪いな」
「いやいや、話し相手ができて嬉しいよ。しかも友人の弟とその伴侶候補ときたらな」
あ、サイクさん、俺達の伴侶候補の腕輪に気づいてくれてたんだ。
741
お気に入りに追加
4,148
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる