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938.魚の串焼き
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広々としたレシュの湖の周辺には、たくさんの冒険者たちの姿があった。
ハルによると、湖の周りは木々も少なくて見通しが良いからと、この階層での休憩場所としての人気がかなり高いらしい。それにもし手ごわい魔物が出てきた場合にも、近くにいる冒険者と連携して対処できるからって理由もあるんだって。
後は単純にここの景色が綺麗だからってのも、俺はあると思うんだけどね。
そう言われて周りを見てみれば、焚火をして肉や魚を焼いている人や今のうちにと武器や防具の手入れをしている人もいるみたいだ。
「この辺りで良いかな」
ハルがそう声をあげたのは、階段を下りてすぐの場所よりは人が少ないかなという場所だった。ちょっとのんびりできそうで良い場所だな。
「アキト、用意はしてきたんだけど…一緒に釣りをしない?」
にっこり笑顔でそう誘ってくれたハルに、俺は即座に手をあげて元気にやりたいっ!と答えた。
ハルが用意してくれた釣り竿と練り餌を使って意気揚々と挑戦した俺にとって人生初の釣りは、結論から言うと全っ然っ!うまくいかなかった。
なんか…釣りってこんなに難しいんだなって逆に驚いたよ。釣りが趣味って人って実はかなりすごい技術を持ってるんじゃない?
あ、でもね、何度か餌に食いついてはくれたんだよ。まあ自分では全然気づけなくて、ハルに教えてもらってやっとこれが食いついてる状態なの?って感じだったけど。
でも残念ながら、俺がうまく手繰り寄せられなかったせいであっさり逃げられたんだ。
幸いにも釣りに挑戦している間に魔物の襲撃は無かったんだけど、それにも関わらず残念ながら俺の釣果はゼロだった。
ビギナーズラックって釣りには適応されないんだな。釣れなさすぎてそんな事をついつい考えてしまった。
ちなみに頼れるハルが三匹も釣りあげてくれたから、二人揃って何も釣れないっていう寂しすぎる事態だけは無事に避けられたんだけどね。
「ハル、役に立てなくてごめんね…」
「そんな事ないよ。二人でのんびり釣りが出来て嬉しかった」
ニコッと笑ったハルは、そう言いながらいそいそと釣り竿を回収してくれた。
「そろそろ昼食の時間だし…折角ならこの魚、ここで焼いて食べてみようか?」
三匹いれば二人で食べればちょうど良い量だよと優しく言ってくれるハルに、俺はこくりと頷いてありがとうと答えた。
もし次の機会があれば、次こそはちゃんと釣りあげて今度は俺がご馳走しよう。そう密かに決意しながら、俺はハルと一緒に焚火の準備を始めた。
最近は常備することにしている小枝を、二人して魔導収納鞄から取り出していく。ささっと積み上げれば、それだけで準備完了だ。
「あー…なあ、兄ちゃんら」
不意に俺達に向かってそう声をかけてきたのは、近くに座って休憩していた一人の冒険者だった。ソロなのか、どうやら連れの人はいないようだ。
腕の届く範囲に置いてある巨大な斧がよく似合う、見るからに強そうな男性だった。
「はい」
「どうかしたか?」
すぐに返事をした俺とハルに、その男性は言い難そうにしながらも続けた。
「すまん、二人の会話が聞こえちまったんだが…えっとな?その魚を焼く気なら、内臓は取ってから焼いた方が良いぞ?」
「え…このまま焼くのは駄目なんですか?」
「火を通せば問題なく食べられると、図鑑で見た事があるんだが…」
ハルは魚をまじまじと見つめながら、不思議そうに首を傾げている。
「いやー、確かに図鑑とかにはそう書かれてるんだがよ。そのまま焼くと苦味が身にまわって美味くなくなるんだ」
もちろん毒とかってわけじゃないから食べる事はできるんだが…と教えてくれたその男性に、俺たちは思わず顔を見合わせた。
「教えてくれてありがとうございます」
もしこの人に教えて貰えずに串焼きみたいにして焼いてたら、食べられはするるけど美味しくなくなってたって事だよね。我慢して食べきるとは思うけど、どうせなら美味しく食べたいに決まっている。
「わざわざ教えてくれて助かったよ。本当にありがとう」
二人してお礼を言えば、男性は明らかにホッとした顔で笑ってくれた。
「いやいや、余計な事じゃなかったなら良かった」
「全然余計じゃないです!」
「ああ、せっかくなら美味いものが食べたいからな」
俺達の言葉に肩の力を抜いたその男性は、だよなと少しくだけた様子で笑ってくれた。
「でも、じゃあどうしようか…?俺、魚は捌けないんだけど…」
「うーん、俺もさすがに捌くのは無理だな。残念だが、鞄の中の肉でも焼くか」
これは持って帰ってラスに調理して貰おうと続けたハルに頷こうとしていると、男性が控え目にもう一度声をかけてきた。
「あーもし兄ちゃんら二人さえ良ければ、俺が捌いてやろうか?」
「良いのか?」
「良いんですか?」
「ああ。俺は魚を捌くのは得意だぞ」
にやりと笑ってそう言ってくれた男性に、俺とハルはお願いしますと揃って頭を下げた。
ハルによると、湖の周りは木々も少なくて見通しが良いからと、この階層での休憩場所としての人気がかなり高いらしい。それにもし手ごわい魔物が出てきた場合にも、近くにいる冒険者と連携して対処できるからって理由もあるんだって。
後は単純にここの景色が綺麗だからってのも、俺はあると思うんだけどね。
そう言われて周りを見てみれば、焚火をして肉や魚を焼いている人や今のうちにと武器や防具の手入れをしている人もいるみたいだ。
「この辺りで良いかな」
ハルがそう声をあげたのは、階段を下りてすぐの場所よりは人が少ないかなという場所だった。ちょっとのんびりできそうで良い場所だな。
「アキト、用意はしてきたんだけど…一緒に釣りをしない?」
にっこり笑顔でそう誘ってくれたハルに、俺は即座に手をあげて元気にやりたいっ!と答えた。
ハルが用意してくれた釣り竿と練り餌を使って意気揚々と挑戦した俺にとって人生初の釣りは、結論から言うと全っ然っ!うまくいかなかった。
なんか…釣りってこんなに難しいんだなって逆に驚いたよ。釣りが趣味って人って実はかなりすごい技術を持ってるんじゃない?
あ、でもね、何度か餌に食いついてはくれたんだよ。まあ自分では全然気づけなくて、ハルに教えてもらってやっとこれが食いついてる状態なの?って感じだったけど。
でも残念ながら、俺がうまく手繰り寄せられなかったせいであっさり逃げられたんだ。
幸いにも釣りに挑戦している間に魔物の襲撃は無かったんだけど、それにも関わらず残念ながら俺の釣果はゼロだった。
ビギナーズラックって釣りには適応されないんだな。釣れなさすぎてそんな事をついつい考えてしまった。
ちなみに頼れるハルが三匹も釣りあげてくれたから、二人揃って何も釣れないっていう寂しすぎる事態だけは無事に避けられたんだけどね。
「ハル、役に立てなくてごめんね…」
「そんな事ないよ。二人でのんびり釣りが出来て嬉しかった」
ニコッと笑ったハルは、そう言いながらいそいそと釣り竿を回収してくれた。
「そろそろ昼食の時間だし…折角ならこの魚、ここで焼いて食べてみようか?」
三匹いれば二人で食べればちょうど良い量だよと優しく言ってくれるハルに、俺はこくりと頷いてありがとうと答えた。
もし次の機会があれば、次こそはちゃんと釣りあげて今度は俺がご馳走しよう。そう密かに決意しながら、俺はハルと一緒に焚火の準備を始めた。
最近は常備することにしている小枝を、二人して魔導収納鞄から取り出していく。ささっと積み上げれば、それだけで準備完了だ。
「あー…なあ、兄ちゃんら」
不意に俺達に向かってそう声をかけてきたのは、近くに座って休憩していた一人の冒険者だった。ソロなのか、どうやら連れの人はいないようだ。
腕の届く範囲に置いてある巨大な斧がよく似合う、見るからに強そうな男性だった。
「はい」
「どうかしたか?」
すぐに返事をした俺とハルに、その男性は言い難そうにしながらも続けた。
「すまん、二人の会話が聞こえちまったんだが…えっとな?その魚を焼く気なら、内臓は取ってから焼いた方が良いぞ?」
「え…このまま焼くのは駄目なんですか?」
「火を通せば問題なく食べられると、図鑑で見た事があるんだが…」
ハルは魚をまじまじと見つめながら、不思議そうに首を傾げている。
「いやー、確かに図鑑とかにはそう書かれてるんだがよ。そのまま焼くと苦味が身にまわって美味くなくなるんだ」
もちろん毒とかってわけじゃないから食べる事はできるんだが…と教えてくれたその男性に、俺たちは思わず顔を見合わせた。
「教えてくれてありがとうございます」
もしこの人に教えて貰えずに串焼きみたいにして焼いてたら、食べられはするるけど美味しくなくなってたって事だよね。我慢して食べきるとは思うけど、どうせなら美味しく食べたいに決まっている。
「わざわざ教えてくれて助かったよ。本当にありがとう」
二人してお礼を言えば、男性は明らかにホッとした顔で笑ってくれた。
「いやいや、余計な事じゃなかったなら良かった」
「全然余計じゃないです!」
「ああ、せっかくなら美味いものが食べたいからな」
俺達の言葉に肩の力を抜いたその男性は、だよなと少しくだけた様子で笑ってくれた。
「でも、じゃあどうしようか…?俺、魚は捌けないんだけど…」
「うーん、俺もさすがに捌くのは無理だな。残念だが、鞄の中の肉でも焼くか」
これは持って帰ってラスに調理して貰おうと続けたハルに頷こうとしていると、男性が控え目にもう一度声をかけてきた。
「あーもし兄ちゃんら二人さえ良ければ、俺が捌いてやろうか?」
「良いのか?」
「良いんですか?」
「ああ。俺は魚を捌くのは得意だぞ」
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