935 / 1,103
934.【ハル視点】アキトの機転
しおりを挟む
オ・アレシュのダンジョンは、この街の壁を出てしばらく街道沿いを歩くだけで着くぐらいの極めて近い位置に存在している。
そう告げれば、アキトは驚いた様子を隠さなかった。
他の場所のダンジョンはもっと山深い場所や、森の奥にあったりするからな。もし街から遠い場所にあれば、俺達も楽だったのかもしれない。
「そこに行くまでの道はどのぐらい危険なの?」
冷静にまず初めにそう尋ねてくるアキトは、すっかり一人前の冒険者だな。
「途中で魔物に遭遇する可能性はあるんだが、街道沿いの魔物は優先的に倒されているからそれほど危険な道というわけでもないよ」
むしろ街道から反れて森に入るよりは安全だからと、冒険者になりたてのうちはオ・アレシュのダンジョンで鍛えるというのがこの辺りの常識だ。そう伝えればアキトはまたしてもキラキラと目を輝かせた。
「ダンジョン…!」
これはすごく興味がありますって顔だな。
「せっかくだし、アキトが気になるなら、これからすぐに向かおうか?」
笑顔でそう提案してみれば、アキトはすぐさま頷いた。そうと決まれば用意でもするかと考えていると、不意にウィル兄さんがはーいと元気に手をあげた。
「ねえ、そのダンジョン探索、俺も一緒に行きたいなー?」
今日は仕事が休みなんだけど、残念ながらジルは仕事だから退屈なんだよねーと、本当につまらなさそうな顔で続ける。
「ふむ…それなら、私も急ぎの書類仕事は既に終わったから、同行したいな」
楽しそうだなと呟いたファーガス兄さんも、私も一緒に行きたいと主張し始めてしまった。
「それは良いな」
背後から聞こえてきた声にアキトと揃って振り返れば、そこでは父さんが笑顔を浮かべていた。
兄さん達はともかく、父さんまで来るのか?しかもオ・アレシュのダンジョンに?
「久しぶりにダンジョンに行くのも楽しそうだ」
「まさか全員で来るつもりですか?」
わざと呆れ顔で尋ねてみたが、全員揃ってコクコクと頷かれてしまった。オ・アレシュのダンジョンを提案したのは父さんだし、アキトと二人きりが良いから来るなとも言い難いな。
アキトを気に入っているからこその申し出だと分かるから、拒否もし難い。対応に悩んでいる間に、アキトが不思議そうに口を開いた。
「あー…あの…一緒にダンジョンに入ったら、もちろん途中で魔物と戦う事になりますよね?」
「ああ、そうだね」
「大丈夫だ。オ・アレシュのダンジョンの中には、そこまで強い魔物は出ない」
「そうそう。ハルがいれば20階層まで余裕で潜れるのに、俺達も行くなら過剰戦力なぐらいだよ」
トライプール周辺に出る魔物とそう変わらないからと優しく教えているウィル兄さんに、アキトはそうじゃないんですとゆるりと首を振った。
「皆さんと一緒にダンジョンに行くのは楽しそうですが…俺が魔法を使うのを見てしまったら、それは魔法披露にはあたらないんでしょうか?」
既に俺の魔法を知ってるハルはさすがに例外だと思うんですけどとそう付け加えたアキトに、父と兄達は全員揃ってぐっと黙り込んだ。
あーうん、そうだな。それは間違いなく魔法の披露にあたるだろう。
アキトと一緒にダンジョンデートと浮かれていたせいで、俺も全く気づいていなかった。
「…はぁ…うん、そうだな」
しばらく経ってから、ぽつりとそう呟いたのは父さんだ。
「ああ、母ならきっと、それは魔法披露だと言うだろうな」
ファーガス兄さんは、いや、きっとじゃなくて確実に言うなと疲れた様子で続けた。
「アキトくん、教えてくれてありがとう!危ない所だったよー」
ウィル兄さんは、助かったとしきりにお礼を言っている。俺以外の皆も、誰一人として気づいていなかったらみたいだ。
もしアキトの機転がなかったら、危ない所だったな。
「アキト、母との約束を気にかけてくれてありがとう」
多分母は怒るよりも拗ねると思うから気づいてくれて良かったと、俺はそっとアキトの頭を撫でた。いやこれは褒めたくてというよりも、ただ撫でたかっただけなんだが。
「いや、拗ねたグレースもそれはもう可愛いんだぞ?普段と違ってすこしこどもっぽくなってたまらない可愛さがあるんだ」
さらりとそう惚気た父さんは、だがと言葉を続けた。
「許してもらえるまでが非常ーに長いんだ…本当にありがとう、アキトくん」
「い、いえ…」
アキトの言葉のおかげで助かった助かったと言い合う皆の姿に、アキトは苦笑しながら何度も頷いていた。
そう告げれば、アキトは驚いた様子を隠さなかった。
他の場所のダンジョンはもっと山深い場所や、森の奥にあったりするからな。もし街から遠い場所にあれば、俺達も楽だったのかもしれない。
「そこに行くまでの道はどのぐらい危険なの?」
冷静にまず初めにそう尋ねてくるアキトは、すっかり一人前の冒険者だな。
「途中で魔物に遭遇する可能性はあるんだが、街道沿いの魔物は優先的に倒されているからそれほど危険な道というわけでもないよ」
むしろ街道から反れて森に入るよりは安全だからと、冒険者になりたてのうちはオ・アレシュのダンジョンで鍛えるというのがこの辺りの常識だ。そう伝えればアキトはまたしてもキラキラと目を輝かせた。
「ダンジョン…!」
これはすごく興味がありますって顔だな。
「せっかくだし、アキトが気になるなら、これからすぐに向かおうか?」
笑顔でそう提案してみれば、アキトはすぐさま頷いた。そうと決まれば用意でもするかと考えていると、不意にウィル兄さんがはーいと元気に手をあげた。
「ねえ、そのダンジョン探索、俺も一緒に行きたいなー?」
今日は仕事が休みなんだけど、残念ながらジルは仕事だから退屈なんだよねーと、本当につまらなさそうな顔で続ける。
「ふむ…それなら、私も急ぎの書類仕事は既に終わったから、同行したいな」
楽しそうだなと呟いたファーガス兄さんも、私も一緒に行きたいと主張し始めてしまった。
「それは良いな」
背後から聞こえてきた声にアキトと揃って振り返れば、そこでは父さんが笑顔を浮かべていた。
兄さん達はともかく、父さんまで来るのか?しかもオ・アレシュのダンジョンに?
「久しぶりにダンジョンに行くのも楽しそうだ」
「まさか全員で来るつもりですか?」
わざと呆れ顔で尋ねてみたが、全員揃ってコクコクと頷かれてしまった。オ・アレシュのダンジョンを提案したのは父さんだし、アキトと二人きりが良いから来るなとも言い難いな。
アキトを気に入っているからこその申し出だと分かるから、拒否もし難い。対応に悩んでいる間に、アキトが不思議そうに口を開いた。
「あー…あの…一緒にダンジョンに入ったら、もちろん途中で魔物と戦う事になりますよね?」
「ああ、そうだね」
「大丈夫だ。オ・アレシュのダンジョンの中には、そこまで強い魔物は出ない」
「そうそう。ハルがいれば20階層まで余裕で潜れるのに、俺達も行くなら過剰戦力なぐらいだよ」
トライプール周辺に出る魔物とそう変わらないからと優しく教えているウィル兄さんに、アキトはそうじゃないんですとゆるりと首を振った。
「皆さんと一緒にダンジョンに行くのは楽しそうですが…俺が魔法を使うのを見てしまったら、それは魔法披露にはあたらないんでしょうか?」
既に俺の魔法を知ってるハルはさすがに例外だと思うんですけどとそう付け加えたアキトに、父と兄達は全員揃ってぐっと黙り込んだ。
あーうん、そうだな。それは間違いなく魔法の披露にあたるだろう。
アキトと一緒にダンジョンデートと浮かれていたせいで、俺も全く気づいていなかった。
「…はぁ…うん、そうだな」
しばらく経ってから、ぽつりとそう呟いたのは父さんだ。
「ああ、母ならきっと、それは魔法披露だと言うだろうな」
ファーガス兄さんは、いや、きっとじゃなくて確実に言うなと疲れた様子で続けた。
「アキトくん、教えてくれてありがとう!危ない所だったよー」
ウィル兄さんは、助かったとしきりにお礼を言っている。俺以外の皆も、誰一人として気づいていなかったらみたいだ。
もしアキトの機転がなかったら、危ない所だったな。
「アキト、母との約束を気にかけてくれてありがとう」
多分母は怒るよりも拗ねると思うから気づいてくれて良かったと、俺はそっとアキトの頭を撫でた。いやこれは褒めたくてというよりも、ただ撫でたかっただけなんだが。
「いや、拗ねたグレースもそれはもう可愛いんだぞ?普段と違ってすこしこどもっぽくなってたまらない可愛さがあるんだ」
さらりとそう惚気た父さんは、だがと言葉を続けた。
「許してもらえるまでが非常ーに長いんだ…本当にありがとう、アキトくん」
「い、いえ…」
アキトの言葉のおかげで助かった助かったと言い合う皆の姿に、アキトは苦笑しながら何度も頷いていた。
624
お気に入りに追加
4,148
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる