生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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933.【ハル視点】ダンジョン

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 すぐに帰ってくるからと宣言してでかけていった母さんは、一週間が過ぎた今もまだ残念ながら帰って来ていない。

「うーん…思っていたよりも…かなり帰りが遅いな」

 重々しく響いた父さんの言葉に、すぐにファーガス兄さんがこくりと頷いた。

「本当に緊急で対処が必要な事態ならうちにも連絡が入るから、魔物の出現や襲撃を受けたなどでは無いんだろうが…」
「うん、今の所どちらの情報も入ってきてないね。何があって呼び出されたのかも気になってるけど…」

 さすがに王家の情報は入り難いんだよなーとウィル兄さんは、さらりとそう続けた。ウィル兄さんが本気で探れば何とかなるかもしれないが、別に王家に敵対したいわけじゃないからな。

「そうだよな…ううん…心配だな」

 父さんは眉間にぎゅっとしわを寄せて、ぽつりとそう呟いた。

「ああ、確かに心配だな…」
「うん、心配だー」
「しんぱいです」
「ああ、そうだな。心配だ」

 ファーガス兄さんとウィル兄さんの言葉に、キースと俺も一緒になって同意する。アキトだけは本気で心配そうな顔で、俺達をじっと見つめている。

 ああ、いつまでもアキトにこんな顔をさせておくわけにはいかないな。そう思って皆に目くばせをすれば、全員揃ってこくりと頷いてくれた。

「「「「「王都で暴れないか心配だ」」」」」

 綺麗に揃った父さんと俺達兄弟の声に、アキトはびっくり顔であれ?と首を傾げている。

「えっと…グレースさんが心配なんじゃないんですか?」
「グレースなら、王都で何が起きていたとしても必ず生きてここに帰ってくるからな」

 そう言いきった父さんの言葉には、母さんへの深い信頼と愛情がこめられている。実際に母はかなりの強さだしなと、息子である俺達も頷くしかない。


「ここで遠い王都の事を心配していても、仕方ないか」
「ああ、どうせなるようにしかならないしねー」
「うん、きっと大丈夫だよ!」

 俺達は自分に言い聞かせるかのようにそう言い合った。



「アキトくん、今日の予定はどうなってるんだい?」

 話が一段落した所で投げかけられた父さんからの質問に、アキトはさっと俺に視線を向けた。

 アキトから頼るような視線を向けてもらえた。ただそれだけの事で嬉しくなる自分が、すこし面白い。

「えっと…まだ何も決まってない…よね?」
「ああ、辺境でしたいなって言ってた事は、だいたい出来たからな…」
「うん」

 まだ予定は無いですと言うだけでも良いのに、真剣に悩み始めたアキトの姿に自然と笑みが浮かんでしまう。真面目なアキトらしい反応だな。

「予定が決まっていないなら、ダンジョンに行くのはどうだろう?」

 不意に父さんはそう言うと、俺をちらりと見た。反対するか?と言いたげな顔だな。

「ダンジョン…」

 領都ウェルマールの近くには、いくつかのダンジョンが存在している。

 だからこそ魔物が溢れて行き着く暇もなく襲い掛かってくる、魔物の暴走スタンピードが起きやすい場所なんだからな。

「…父さんが言ってるのは、どこのダンジョンの事だ?」
「そうだな…最初はオ・アレシュのダンジョンが良いと思うんだが」

 なるほどと俺は笑って頷いた。

「ああ、あの湖を見せたいのか」
「えっと…?」

 ダンジョンって危険だって言ってなかった?そう言いたげなアキトに、俺は慌てて謝った。

「ああ、ごめん、アキト。ダンジョンの危険性を覚えて欲しくて、つい怖がらせるような話ばかりしたかもしれない」
「そうなんだ?」
「ダンジョンの危険度っていうのはまちまちだからね」

 父さんがそう説明すれば、アキトはへぇーと声をあげた。

「オ・アレシュのダンジョンは20階層までしかない小規模なものなんだ。そこの14階層目には湖があって、景色も良いし魚が取れる場所なんだよ」

 以前ラスが作ってくれた料理に使われていた魚も、オ・アレシュのダンジョン産だと続ければ、アキトはキラキラと目を輝かせた。

「それはぜひ行ってみたい!」

 喜ぶアキトの後ろで自慢げな表情を浮かべている父さんには少しだけ苛立ったが、オ・アレシュのダンジョン行きは確かに良い提案だったから文句も言えない。

 できることなら自分が提案してアキトにこの表情をさせたかったなんて事を考えながら、俺はそれを悟らせない笑顔を作ってアキトを見つめていた。

 父と兄たちからは呆れ顔で見つめられていたから、たぶん俺の考えてる事は筒抜けなんだろうな。
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