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931.【ハル視点】断りの理由
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アキトも毎日楽しそうに過ごしていたし、やりたいと言っていた事も順調にこなせている。なかなかに充実した一週間だったと思う。
ただアキトの魔法のお披露目がまだできていないのだけが、すこし残念だ。
アキトはすごいんだぞと自慢したい気持ちが、ずっとくすぶっている状態だ。理由は母グレースに急用ができたからだ。
あれは滞在四日目の朝の事だった。
ちょうど全員揃って朝食を食べていたら、王立騎士団の鎧に身を包んだ騎士が執事長によって案内されてきた。
「失礼いたします。王立騎士団の騎士団員アロと申します」
そう名乗ったアロさんは、ピシッと敬礼をしてみせた。
すかさず立ち上がったファーガス兄さん、それにウィル兄さんとジルさんも流れるように敬礼を返す。
騎士団員同士の正式な場での挨拶としては、敬礼には敬礼で返すのが常識だ。
俺もトライプールの騎士団員ではあるが、今の挨拶はあくまで王立騎士団員からウェルマール辺境騎士団員への挨拶だ。だから俺は目礼だけで終わらせた。
「おくつろぎの所をお邪魔して申し訳ありません。マールクロア王国王家より、ケイリー・ウェルマール様へのお手紙をお届けに参りました」
アロさんはその場にいた全員の視線を浴びながら、堂々とそう口上を述べた。
驚いて顔が強張っているファーガス兄さんの威圧にも負けないとは、アロさんはなかなか見どころのある騎士のようだ。
「王都からはるばるの移動ご苦労。手紙を受け取ろう」
父の答えに、執事長はすかさず手紙を受け取って手渡した。
しんと静まりかえった部屋の中、手紙を開く音だけがやけに大きく響いている。
ささっと手紙に目を通した父はふうと一つ息を吐いてから、その場にいた全員に向かって安心させるようにうっすらと笑みを浮かべた。
「こちらの手紙の内容は、グレースに至急王都へと来て欲しいというものだった」
父が説明した手紙の内容に、アキトはぎゅっと拳を握った。あまりにも不安そうなその表情に、俺は慌ててアキトの耳元に唇を寄せた。
「元々母は王妃様とかなり懇意にしているから、こうして呼び出しがかかる事は別に珍しい事ではないよ」
心配しなくても大丈夫と続ければ、アキトは声には出さずにありがとうと口を動かした。ニコっ笑いかければ、アキトもすぐに笑顔を返してくれる。
不安が減ったなら良かった。
「…それはいつまでに向かえと、期日を設けられていますか?」
穏やかにおしとやかに話す母には違和感を覚えてしまうが、ここには王立騎士団の騎士がいるんだから仕方ない。よそ行きの表情で微笑みながらの質問に、父はさっともう一度手紙に視線を落とした。
「期日ははっきりとは書かれていなかったが…アロ殿、期日については聞いているか?」
「聞いておりません。ですが、グレース・ウェルマール様にお使い頂くための、携帯式転移魔法陣を持参しております」
携帯式転移魔法陣とは、それを使えば一瞬で王都まで辿り着ける、持ち運べる転移魔法陣だ。
「そこまでするとは…それほどまで急ぎなのだろうか?」
心配そうに尋ねた父に、騎士は詳細は聞いておりませんがおそらくはそうだと思われますと返した。
「すこし家族だけで相談がしたいのですが…」
母さんは目線を伏せて、申し訳なさそうにそう続けた。なんだか、嫌な予感がするのは俺だけだろうか。
「ハッ、それでは私は部屋から出ております」
すぐさまそう答えた騎士アロさんに、すかさず執事長がお疲れでしょうからこちらで軽食などをと言いながら近づいていく。
ありがとうございますとお礼を言いながら部屋から出ていった瞬間、父さんは明らかに困り顔で母を見つめた。
「グレース…まさか…」
「今回は私は呼び出しには応じないぞ!」
いつも通りの口調でそう言いきった母に、その場にいた全員がえっと声を洩らした。
「待ってくれ…母上、それはさすがに…」
「一般的に考えて、何よりも優先すべき招待だろう?」
あー、ウィル兄、一般的に考えてという言葉はさすがに余計じゃないだろうか。王家の方々もうちの家族も誰も気にはしないだろうが、可愛そうにアキトが戸惑っているじゃないか。
「グレース、まずは王都行きを断る理由を教えてくれ」
平行線を辿りそうなやりとりに、一番落ち着いて対処できていたのは父だった。さすがに母の唐突な行動に慣れているな。
「理由なんて決まってるだろう?せっかくアキトが来てくれてるのに、今辺境を離れろって言われて、はいなんて言えるか!」
まさかの理由に俺は絶句して固まった。
ただアキトの魔法のお披露目がまだできていないのだけが、すこし残念だ。
アキトはすごいんだぞと自慢したい気持ちが、ずっとくすぶっている状態だ。理由は母グレースに急用ができたからだ。
あれは滞在四日目の朝の事だった。
ちょうど全員揃って朝食を食べていたら、王立騎士団の鎧に身を包んだ騎士が執事長によって案内されてきた。
「失礼いたします。王立騎士団の騎士団員アロと申します」
そう名乗ったアロさんは、ピシッと敬礼をしてみせた。
すかさず立ち上がったファーガス兄さん、それにウィル兄さんとジルさんも流れるように敬礼を返す。
騎士団員同士の正式な場での挨拶としては、敬礼には敬礼で返すのが常識だ。
俺もトライプールの騎士団員ではあるが、今の挨拶はあくまで王立騎士団員からウェルマール辺境騎士団員への挨拶だ。だから俺は目礼だけで終わらせた。
「おくつろぎの所をお邪魔して申し訳ありません。マールクロア王国王家より、ケイリー・ウェルマール様へのお手紙をお届けに参りました」
アロさんはその場にいた全員の視線を浴びながら、堂々とそう口上を述べた。
驚いて顔が強張っているファーガス兄さんの威圧にも負けないとは、アロさんはなかなか見どころのある騎士のようだ。
「王都からはるばるの移動ご苦労。手紙を受け取ろう」
父の答えに、執事長はすかさず手紙を受け取って手渡した。
しんと静まりかえった部屋の中、手紙を開く音だけがやけに大きく響いている。
ささっと手紙に目を通した父はふうと一つ息を吐いてから、その場にいた全員に向かって安心させるようにうっすらと笑みを浮かべた。
「こちらの手紙の内容は、グレースに至急王都へと来て欲しいというものだった」
父が説明した手紙の内容に、アキトはぎゅっと拳を握った。あまりにも不安そうなその表情に、俺は慌ててアキトの耳元に唇を寄せた。
「元々母は王妃様とかなり懇意にしているから、こうして呼び出しがかかる事は別に珍しい事ではないよ」
心配しなくても大丈夫と続ければ、アキトは声には出さずにありがとうと口を動かした。ニコっ笑いかければ、アキトもすぐに笑顔を返してくれる。
不安が減ったなら良かった。
「…それはいつまでに向かえと、期日を設けられていますか?」
穏やかにおしとやかに話す母には違和感を覚えてしまうが、ここには王立騎士団の騎士がいるんだから仕方ない。よそ行きの表情で微笑みながらの質問に、父はさっともう一度手紙に視線を落とした。
「期日ははっきりとは書かれていなかったが…アロ殿、期日については聞いているか?」
「聞いておりません。ですが、グレース・ウェルマール様にお使い頂くための、携帯式転移魔法陣を持参しております」
携帯式転移魔法陣とは、それを使えば一瞬で王都まで辿り着ける、持ち運べる転移魔法陣だ。
「そこまでするとは…それほどまで急ぎなのだろうか?」
心配そうに尋ねた父に、騎士は詳細は聞いておりませんがおそらくはそうだと思われますと返した。
「すこし家族だけで相談がしたいのですが…」
母さんは目線を伏せて、申し訳なさそうにそう続けた。なんだか、嫌な予感がするのは俺だけだろうか。
「ハッ、それでは私は部屋から出ております」
すぐさまそう答えた騎士アロさんに、すかさず執事長がお疲れでしょうからこちらで軽食などをと言いながら近づいていく。
ありがとうございますとお礼を言いながら部屋から出ていった瞬間、父さんは明らかに困り顔で母を見つめた。
「グレース…まさか…」
「今回は私は呼び出しには応じないぞ!」
いつも通りの口調でそう言いきった母に、その場にいた全員がえっと声を洩らした。
「待ってくれ…母上、それはさすがに…」
「一般的に考えて、何よりも優先すべき招待だろう?」
あー、ウィル兄、一般的に考えてという言葉はさすがに余計じゃないだろうか。王家の方々もうちの家族も誰も気にはしないだろうが、可愛そうにアキトが戸惑っているじゃないか。
「グレース、まずは王都行きを断る理由を教えてくれ」
平行線を辿りそうなやりとりに、一番落ち着いて対処できていたのは父だった。さすがに母の唐突な行動に慣れているな。
「理由なんて決まってるだろう?せっかくアキトが来てくれてるのに、今辺境を離れろって言われて、はいなんて言えるか!」
まさかの理由に俺は絶句して固まった。
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