生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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930.【ハル視点】枯れない花を

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 滞在六日目の昨日は、アキトと一緒に二人で街へとでかけた。

 せっかく二人きりでのデートだからと色々な所に立ち寄ったりもしたが、今回の外出の一番の目的はケンさんとレイさんのあの木彫りのお店だった。

「二人に依頼をしに行きたいんだ」

 そう切り出した俺に、アキトはワクワクした様子で尋ねてきた。

「え、何を頼むの?」
「まあ依頼人は俺じゃないんだけどね」
「え、じゃあ誰の依頼?」

 不思議そうに首を傾げる仕草が、可愛い。

「父と兄二人だね」
「え、ケイリーさんとファーガスさんと…ウィリアムさんも?」

 アキトはどうしてそんな事になったのと言いたげに、まじまじと俺を見つめてきた。そんな目で見られたら、説明せずにはいられないな。

「きっかけは、俺があの二人が作っている木彫りの話をした事なんだ」

 話をした時、最初にその場にいたのは父さんと、ファーガス兄さんだった。

「あ、もちろん、ケンさんがアキトと同郷だとは言ってないよ?ただたまたま見かけた木彫りがすごかった事と、店主とアキトの気があって友人になったんだって教えたんだ」

 いくら俺の家族が異世界人を保護する側だとしても、勝手にケンさんの秘密を伝えるわけにはいかないからな。

「まあ、その友人は問題が無さそうな相手なのかって、まず問い詰められたけどね」

 アキトが心配だってあまりにも言うから、大通りの店の店主だよと話したんだと俺は続けた。

「大通りなら大丈夫だな」
「ああ、それなら安心だ」

 父とファーガス兄さんはそう言ってふうと息を吐いてから、アキトに友人ができた事を心から喜んでいた。まあもしアキトが友人の近くにいたいなら辺境に移住すれば良いなんて事も言ってはいたんだが、それは別に伝えなくて良いか。アキトは絶対にレーブンのいるトライプールに帰るというだろうから。

「それでね、俺がすごいとまで言う木彫りはどんな物だって聞かれたから、本物のような枯れない花があるんだと言ったんだ」

 そこの作品には彩色もされていて今までに見た事のない新しい木彫りなんだと、俺は言葉を尽くして二人にそう説明した。

 それは花の種類も注文できるだろうか?と最初にそう言い出したのは、父だった。

 注文を受けて作っていると言っていたから可能だと思うと答えれば、ファーガス兄さんもすかさず俺も注文したいと言い出した。

「あれ?でもウィリアムさんはその場にはいなかったんでしょ?」

 そう、最初は父とファーガス兄さんしかいなかった。

「それがね…すぐにファーガス兄さんが部屋から飛び出して、連れて帰ってきたんだ」
「え…」

 ファーガス兄さんいわく、ここで仲間外れにしたら後が怖いからだそうだ。ウィル兄さんとキースを呼んでくるんだと思って待っていると、小脇に抱えて帰ってきたのにはさすがに俺と父も驚いた。

 キースは不思議そうにきょとん顔で無抵抗に運ばれてきていたし、ウィル兄に至ってはは何故かヒーヒーと笑い続けながら運ばれてきていた。

 なんでも有無を言わさずに部下の前でいきなり抱え上げられたらしく、予想外の行動に固まる部下の姿と、急ぎの用事だと真顔で言うファーガス兄さんの顔の対比が面白くて笑いが止まらなくなったらしい。

 そこで部下に示しがつかないとか言い出さないあたりが、ウィル兄さんらしい所だな。

「そこからはもう三人でどの花にするかの相談が始まってね。あ、キースは花を贈る相手がいないからとりあえず今回は依頼はしないらしいよ」

 ただ贈られたものを後で見せて貰って、もし気に入ったら自分も頼みたいと話していた。

「というわけで、贈り物の依頼をしに行きたいんだ」
「そういう事なら喜んで」

 そんな会話をしてから、俺達はケンさんとレイさんのお店へと足を運んだ。



 俺達の顔を見るなり来てくれたのかと嬉しそうに喜んでくれていた二人は、俺が切り出した依頼の話に驚いた様子でさっと顔色を変えた。

 まさか辺境では伝説とも言える領主様その人から、依頼が来るとは思ってなかったそうだ。

「え、どうしようレイ!」

 真っ青なケンさんの顔色を見て、もしかして余計な依頼だったかと少しだけ心配になった。

「どうしようって名誉な事だから受けるに決まってるだろう、ケン!」
「そうだよね!ハルさん、依頼受けます!」

 どうやら慌てていただけで、困らせてしまったわけではないようだ。あわあわと焦りつつも依頼を受けてくれた二人に、俺はそっと紙を差し出して尋ねた。

「えーと…まず、依頼の期日や報酬はそれで大丈夫か?」

 事前に製作した書面には、くわしい依頼の内容や期日、報酬まできちんと記載されている。

「うん、納期もだいぶ余裕を見てくれてるし三つならこの期日で大丈夫…って、待って。ちょっと待って。この報酬はちょっと多すぎない?」
「そんな値段なのか…ってこれは多い!ハルさん、これは多いよ!」

 二人は揃って、うちこんな値段を取るような高級店じゃないよと慌てている。きっとそういう反応をされるだろうなとは思っていたんだが、ここは受けとってもらわないと困る。

「そう言われるかもしれないとは思っていたんだが…うちの家族が伴侶への贈り物にするものにつけた値段だと思って受け取ってくれ」

 絶対に後から文句は言わないからと続ければ、レイさんは期待が重いと少し困り顔だ。ケンさんはそんなレイさんの隣で、逆に気合が入ったと笑っていた。

「それにしても…まさか領主様一家に、うちの木彫りを贈り物に使って頂ける日が来るとはな…」

 ぽつりとそうつぶやいたレイさんは、俺も全力で彩色するとケンさんに向かって宣言した。

「うん、信頼してるよ、レイ」
「まかせてくれ、ケン」

 今回は三点だけの依頼だが、俺もいつかアキトに贈りたいな。どの花が良いだろうと考えながら、俺は幸せそうに笑いあうレイさんとケンさんの姿を眺めた。
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