931 / 1,179
930.【ハル視点】枯れない花を
しおりを挟む
滞在六日目の昨日は、アキトと一緒に二人で街へとでかけた。
せっかく二人きりでのデートだからと色々な所に立ち寄ったりもしたが、今回の外出の一番の目的はケンさんとレイさんのあの木彫りのお店だった。
「二人に依頼をしに行きたいんだ」
そう切り出した俺に、アキトはワクワクした様子で尋ねてきた。
「え、何を頼むの?」
「まあ依頼人は俺じゃないんだけどね」
「え、じゃあ誰の依頼?」
不思議そうに首を傾げる仕草が、可愛い。
「父と兄二人だね」
「え、ケイリーさんとファーガスさんと…ウィリアムさんも?」
アキトはどうしてそんな事になったのと言いたげに、まじまじと俺を見つめてきた。そんな目で見られたら、説明せずにはいられないな。
「きっかけは、俺があの二人が作っている木彫りの話をした事なんだ」
話をした時、最初にその場にいたのは父さんと、ファーガス兄さんだった。
「あ、もちろん、ケンさんがアキトと同郷だとは言ってないよ?ただたまたま見かけた木彫りがすごかった事と、店主とアキトの気があって友人になったんだって教えたんだ」
いくら俺の家族が異世界人を保護する側だとしても、勝手にケンさんの秘密を伝えるわけにはいかないからな。
「まあ、その友人は問題が無さそうな相手なのかって、まず問い詰められたけどね」
アキトが心配だってあまりにも言うから、大通りの店の店主だよと話したんだと俺は続けた。
「大通りなら大丈夫だな」
「ああ、それなら安心だ」
父とファーガス兄さんはそう言ってふうと息を吐いてから、アキトに友人ができた事を心から喜んでいた。まあもしアキトが友人の近くにいたいなら辺境に移住すれば良いなんて事も言ってはいたんだが、それは別に伝えなくて良いか。アキトは絶対にレーブンのいるトライプールに帰るというだろうから。
「それでね、俺がすごいとまで言う木彫りはどんな物だって聞かれたから、本物のような枯れない花があるんだと言ったんだ」
そこの作品には彩色もされていて今までに見た事のない新しい木彫りなんだと、俺は言葉を尽くして二人にそう説明した。
それは花の種類も注文できるだろうか?と最初にそう言い出したのは、父だった。
注文を受けて作っていると言っていたから可能だと思うと答えれば、ファーガス兄さんもすかさず俺も注文したいと言い出した。
「あれ?でもウィリアムさんはその場にはいなかったんでしょ?」
そう、最初は父とファーガス兄さんしかいなかった。
「それがね…すぐにファーガス兄さんが部屋から飛び出して、連れて帰ってきたんだ」
「え…」
ファーガス兄さんいわく、ここで仲間外れにしたら後が怖いからだそうだ。ウィル兄さんとキースを呼んでくるんだと思って待っていると、小脇に抱えて帰ってきたのにはさすがに俺と父も驚いた。
キースは不思議そうにきょとん顔で無抵抗に運ばれてきていたし、ウィル兄に至ってはは何故かヒーヒーと笑い続けながら運ばれてきていた。
なんでも有無を言わさずに部下の前でいきなり抱え上げられたらしく、予想外の行動に固まる部下の姿と、急ぎの用事だと真顔で言うファーガス兄さんの顔の対比が面白くて笑いが止まらなくなったらしい。
そこで部下に示しがつかないとか言い出さないあたりが、ウィル兄さんらしい所だな。
「そこからはもう三人でどの花にするかの相談が始まってね。あ、キースは花を贈る相手がいないからとりあえず今回は依頼はしないらしいよ」
ただ贈られたものを後で見せて貰って、もし気に入ったら自分も頼みたいと話していた。
「というわけで、贈り物の依頼をしに行きたいんだ」
「そういう事なら喜んで」
そんな会話をしてから、俺達はケンさんとレイさんのお店へと足を運んだ。
俺達の顔を見るなり来てくれたのかと嬉しそうに喜んでくれていた二人は、俺が切り出した依頼の話に驚いた様子でさっと顔色を変えた。
まさか辺境では伝説とも言える領主様その人から、依頼が来るとは思ってなかったそうだ。
「え、どうしようレイ!」
真っ青なケンさんの顔色を見て、もしかして余計な依頼だったかと少しだけ心配になった。
「どうしようって名誉な事だから受けるに決まってるだろう、ケン!」
「そうだよね!ハルさん、依頼受けます!」
どうやら慌てていただけで、困らせてしまったわけではないようだ。あわあわと焦りつつも依頼を受けてくれた二人に、俺はそっと紙を差し出して尋ねた。
「えーと…まず、依頼の期日や報酬はそれで大丈夫か?」
事前に製作した書面には、くわしい依頼の内容や期日、報酬まできちんと記載されている。
「うん、納期もだいぶ余裕を見てくれてるし三つならこの期日で大丈夫…って、待って。ちょっと待って。この報酬はちょっと多すぎない?」
「そんな値段なのか…ってこれは多い!ハルさん、これは多いよ!」
二人は揃って、うちこんな値段を取るような高級店じゃないよと慌てている。きっとそういう反応をされるだろうなとは思っていたんだが、ここは受けとってもらわないと困る。
「そう言われるかもしれないとは思っていたんだが…うちの家族が伴侶への贈り物にするものにつけた値段だと思って受け取ってくれ」
絶対に後から文句は言わないからと続ければ、レイさんは期待が重いと少し困り顔だ。ケンさんはそんなレイさんの隣で、逆に気合が入ったと笑っていた。
「それにしても…まさか領主様一家に、うちの木彫りを贈り物に使って頂ける日が来るとはな…」
ぽつりとそうつぶやいたレイさんは、俺も全力で彩色するとケンさんに向かって宣言した。
「うん、信頼してるよ、レイ」
「まかせてくれ、ケン」
今回は三点だけの依頼だが、俺もいつかアキトに贈りたいな。どの花が良いだろうと考えながら、俺は幸せそうに笑いあうレイさんとケンさんの姿を眺めた。
せっかく二人きりでのデートだからと色々な所に立ち寄ったりもしたが、今回の外出の一番の目的はケンさんとレイさんのあの木彫りのお店だった。
「二人に依頼をしに行きたいんだ」
そう切り出した俺に、アキトはワクワクした様子で尋ねてきた。
「え、何を頼むの?」
「まあ依頼人は俺じゃないんだけどね」
「え、じゃあ誰の依頼?」
不思議そうに首を傾げる仕草が、可愛い。
「父と兄二人だね」
「え、ケイリーさんとファーガスさんと…ウィリアムさんも?」
アキトはどうしてそんな事になったのと言いたげに、まじまじと俺を見つめてきた。そんな目で見られたら、説明せずにはいられないな。
「きっかけは、俺があの二人が作っている木彫りの話をした事なんだ」
話をした時、最初にその場にいたのは父さんと、ファーガス兄さんだった。
「あ、もちろん、ケンさんがアキトと同郷だとは言ってないよ?ただたまたま見かけた木彫りがすごかった事と、店主とアキトの気があって友人になったんだって教えたんだ」
いくら俺の家族が異世界人を保護する側だとしても、勝手にケンさんの秘密を伝えるわけにはいかないからな。
「まあ、その友人は問題が無さそうな相手なのかって、まず問い詰められたけどね」
アキトが心配だってあまりにも言うから、大通りの店の店主だよと話したんだと俺は続けた。
「大通りなら大丈夫だな」
「ああ、それなら安心だ」
父とファーガス兄さんはそう言ってふうと息を吐いてから、アキトに友人ができた事を心から喜んでいた。まあもしアキトが友人の近くにいたいなら辺境に移住すれば良いなんて事も言ってはいたんだが、それは別に伝えなくて良いか。アキトは絶対にレーブンのいるトライプールに帰るというだろうから。
「それでね、俺がすごいとまで言う木彫りはどんな物だって聞かれたから、本物のような枯れない花があるんだと言ったんだ」
そこの作品には彩色もされていて今までに見た事のない新しい木彫りなんだと、俺は言葉を尽くして二人にそう説明した。
それは花の種類も注文できるだろうか?と最初にそう言い出したのは、父だった。
注文を受けて作っていると言っていたから可能だと思うと答えれば、ファーガス兄さんもすかさず俺も注文したいと言い出した。
「あれ?でもウィリアムさんはその場にはいなかったんでしょ?」
そう、最初は父とファーガス兄さんしかいなかった。
「それがね…すぐにファーガス兄さんが部屋から飛び出して、連れて帰ってきたんだ」
「え…」
ファーガス兄さんいわく、ここで仲間外れにしたら後が怖いからだそうだ。ウィル兄さんとキースを呼んでくるんだと思って待っていると、小脇に抱えて帰ってきたのにはさすがに俺と父も驚いた。
キースは不思議そうにきょとん顔で無抵抗に運ばれてきていたし、ウィル兄に至ってはは何故かヒーヒーと笑い続けながら運ばれてきていた。
なんでも有無を言わさずに部下の前でいきなり抱え上げられたらしく、予想外の行動に固まる部下の姿と、急ぎの用事だと真顔で言うファーガス兄さんの顔の対比が面白くて笑いが止まらなくなったらしい。
そこで部下に示しがつかないとか言い出さないあたりが、ウィル兄さんらしい所だな。
「そこからはもう三人でどの花にするかの相談が始まってね。あ、キースは花を贈る相手がいないからとりあえず今回は依頼はしないらしいよ」
ただ贈られたものを後で見せて貰って、もし気に入ったら自分も頼みたいと話していた。
「というわけで、贈り物の依頼をしに行きたいんだ」
「そういう事なら喜んで」
そんな会話をしてから、俺達はケンさんとレイさんのお店へと足を運んだ。
俺達の顔を見るなり来てくれたのかと嬉しそうに喜んでくれていた二人は、俺が切り出した依頼の話に驚いた様子でさっと顔色を変えた。
まさか辺境では伝説とも言える領主様その人から、依頼が来るとは思ってなかったそうだ。
「え、どうしようレイ!」
真っ青なケンさんの顔色を見て、もしかして余計な依頼だったかと少しだけ心配になった。
「どうしようって名誉な事だから受けるに決まってるだろう、ケン!」
「そうだよね!ハルさん、依頼受けます!」
どうやら慌てていただけで、困らせてしまったわけではないようだ。あわあわと焦りつつも依頼を受けてくれた二人に、俺はそっと紙を差し出して尋ねた。
「えーと…まず、依頼の期日や報酬はそれで大丈夫か?」
事前に製作した書面には、くわしい依頼の内容や期日、報酬まできちんと記載されている。
「うん、納期もだいぶ余裕を見てくれてるし三つならこの期日で大丈夫…って、待って。ちょっと待って。この報酬はちょっと多すぎない?」
「そんな値段なのか…ってこれは多い!ハルさん、これは多いよ!」
二人は揃って、うちこんな値段を取るような高級店じゃないよと慌てている。きっとそういう反応をされるだろうなとは思っていたんだが、ここは受けとってもらわないと困る。
「そう言われるかもしれないとは思っていたんだが…うちの家族が伴侶への贈り物にするものにつけた値段だと思って受け取ってくれ」
絶対に後から文句は言わないからと続ければ、レイさんは期待が重いと少し困り顔だ。ケンさんはそんなレイさんの隣で、逆に気合が入ったと笑っていた。
「それにしても…まさか領主様一家に、うちの木彫りを贈り物に使って頂ける日が来るとはな…」
ぽつりとそうつぶやいたレイさんは、俺も全力で彩色するとケンさんに向かって宣言した。
「うん、信頼してるよ、レイ」
「まかせてくれ、ケン」
今回は三点だけの依頼だが、俺もいつかアキトに贈りたいな。どの花が良いだろうと考えながら、俺は幸せそうに笑いあうレイさんとケンさんの姿を眺めた。
665
お気に入りに追加
4,204
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。

公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる