生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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928.【ハル視点】滞在からの三日間

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 俺達がここウェルマールの領主城に滞在し始めてから、あっという間に数日が過ぎた。

 一日目は俺の家族との顔合わせに、親睦を深めるための食事会。

 二日目にはアキトと二人で、ウェルマ市場に足を伸ばし屋台飯を堪能した。

 その市場でアキトと同郷のケンさんと、その伴侶候補であるレイさんと出逢えたのは、俺にとっても嬉しい誤算だった。

 元の世界の話ができる友人というのは、きっとアキトにとっても大事な存在になるだろう。そこはレイさんも同じ気持ちだったようで、いつでも会いにきてくれと言ってくれたのも助かった。

 あの二人とは、トライプールに戻ったとしてもきちんと連絡を取り続けよう。



 滞在三日目には、執事長とメイド長に領主城の中を案内してもらう事になった。

 今日は何をしようかとアキトと相談している所に、控え目ながらも熱心に誘われたからだ。アキトは案内してもらえるならぜひと即答したんだが、その瞬間二人からまさか断りませんよねと?言いたげに目線を向けられたのには笑ってしまった。

 アキトが乗り気なのに俺の一存で断ったりはしないから、そんな目で見ないでくれ。

 あれこれと色々な事を質問するアキトに、二人は嬉しそうにニコニコと笑いながら答えを返している。真剣に案内を聞いていないと出てこないような質問ばかりだからな。

 それにしてもこの二人が強引に予定に割りこんでくるのは珍しいなと思っていたんだが、どうやら二人はいざという時のための脱出経路をアキトに教え込みたかったらしい。

 使用人の一存で開示できる情報では無いから、きっと父と母の指示なんだろう。

 さらりと会話の中に混ぜ込まれている大事な情報に、俺も一緒になって耳を澄ませた。もしかしたら、しばらく帰っていない間に、脱出経路が変わっている可能性もあるからな。
 
「そういえば、ハロルド様はここの壁をよじのぼられた事がありましたね」

 不意にそんな事を言ったのは執事長ボルトだった。

「え、よじのぼったの?」

 そう口にしたアキトは、驚き顔でまじまじと俺を見ている。

「あそこの岩に手を乗せれば上まで行けると、ファーガス様が伝えたんですよ」
「あー…あったな…」

 さすがにはっきりとは覚えていないが、ファーガス兄さんから自慢げに言われて壁を登ろうとしたのはぼんやりと覚えている。

「まだ幼いながらも上手に登っていかれましたが、一番上まで行ったら今度は降りれなくなったんですよね」

 メイド長のリモはさらりとそう続けた。うーん、そこは全く覚えていないな。

「そうだったか?」
「ええ、私は万が一のためにと近くにあった布を広げていましたから、よく覚えています」

 干したばかりだったシーツを目いっぱい広げていたんですよと、メイド長は楽し気に笑っている。

 リモは見た目こそ普通の人にしか見えないが、エルフの血を引いている。だから俺が幼い頃から、見た目は全く変わっていないんだよな。

 別に隠しているわけじゃないから、この屋敷で働いている人はみんな知っている事実だ。

 だがそれを知らないアキトからすれば、何故俺の幼い頃を知っているんだと不思議に思うかもしれない。

 そう思ってアキトに視線を向けたけれど、アキトはそうなんですかとニコニコと嬉しそうに笑って話を聞いていた。

 気にしていないなら、無理に説明はしなくても良いか。

 その日、俺はアキトと一緒に領主城の中を歩き回った。



 四日目には、アキトならそろそろ外で身体を動かしたいんじゃないかという俺の提案で、領主城の森へと採取に向かう事にした。

「さすがハル。俺の事よく分かってるよね」

 そんな風に笑って言ってくれるアキトに癒されながら、久しぶりに採取目的で領主城前の森へと足を踏み入れた。

 相変わらずここは様々な素材が豊富に取れる、豊かな森だな。

 珍しい薬草や見た事のない木の実に、ワクワクしてはしゃぐアキトの姿はたまらなく可愛かった。

 まさかあのトライプールで何度か見つけた黒曜キノコを、またしてもアキトが見つけてしまうとは思っていなかったんだがな。この森では滅多に採れない筈なのに、発見してしまったと笑うアキトはやっぱり運が良いと思う。

「ちょうどファーガス兄さんが探してるって言ってたよ」

 そう告げれば、アキトはえっと声をあげた。

「そうなの?」
「ああ、市場で見かけて質が良ければ買ってきて欲しいと言われていたんだ」
「へーそうなの?じゃあこれ貰ってもらおう」

 アキトは嬉しそうにそう言うと、ささっと魔道収納鞄を使って採取をした。

 満足するまで採取を終えた俺達は、城に帰るなりすぐにファーガス兄さんに会いに行く事に決めた。

「ファーガスさん喜んでくれるかな?」
「ああ、あんなに上物の黒曜キノコだからね。きっと喜ぶよ」

 そう保証して会いに行ったファーガス兄さんは、執務用の机の腕にどどんと取り出された黒曜キノコに息を呑んだ。

「こんなに質が良いものをどこで…?」

 その店を教えてくれと言いたげにひたと向けられた兄の視線に、俺はゆるりと首を振った。

 まさかそれが採取した物だとは、想像できないのも無理は無い。

「今日森で見つけたので、貰ってください」

 そう笑顔で言いきったアキトに、ファーガス兄さんは何度も口をパクパクさせていた。その表情は駄目だ。思いっきり笑ってしまいそうだからやめてくれ。

「これは貰うわけにはいかない」
「え…なんでですか…?」

 分かりやすく肩を落としながら寂し気にそう答えたアキトに、ファーガス兄さんはたじたじしながらも答えた。

「個人的なものではなく騎士団の武器に使うから、貰うわけにはいかないんだ。だが品はとても良いから…ぜひ買い取らせて欲しい」

 慌てた様子で説得する兄と、でも贈り物にしたくて取ってきたのでと一歩も譲らないアキトのやりとりはなかなかに見ものだった。

「アキト、騎士団の物なら素材の値段をはっきりさせたいだろうから…買い取らせてあげたら良いと思うよ」

 俺がそう口添えをしたら、アキトは残念そうにしながらも納得して何とか頷いてくれた。ファーガス兄さんからは、もっと早く口添えをしてくれと視線だけで怒られてしまったんだが。
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