生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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925.たくましい人々

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 三人からの感謝の言葉をたくさん受け取った俺とハルは、部屋に戻ると手早く用意をしてそのまま領主城を出発した。

 このままハルと一緒に初のダンジョン探索だ。

「みんなでダンジョンも楽しそうだけど、ハルと二人でってのも嬉しいな」

 思わずそう本音を洩らせば、ハルは俺はどちらかと言うと二人きりの方がより嬉しいかなと笑って答えてくれた。家族をとても大事にしているハルだけど、俺と二人きりの方が嬉しいって言ってくれるんだ。正直、かなり嬉しい。

 領主城前の森をサクサクと通り抜けた俺達は、たくさんの人で賑わっている大通りもスルーして、そのまま街の入口にあたる大門を目指した。



 あっという間に辿り着いた大門前で、俺はぽかんと口を開いて上を見上げている。

「はー近くで見てもやっぱりおっきいね」
「ああ、ここの門の大きさは、確かに他の街とは違うからなかなか見慣れないかもな」
「あの開いてる扉も、他の街よりも厳つくて格好良いね」

 どうやら大門の扉にも辺境の名産であるあの黒い木、ヴァコクが使われているみたいだ。頑丈そうな存在感のある扉に、ついつい視線が行ってしまう。

「アキトの気に入ったなら良かった」

 ふわりと笑ったハルにそっと促されて、俺は門の方へと足を進めた。

 転移でこの街の中に直接来ちゃったから、そういえばこの大門をくぐるのは初めてなんだよね。あちこちにウロウロと視線を動かしながら、俺はトライプールよりも巨大なその門へと近づいていく。

 門を通る時って、何故かドキドキするんだよね。別に悪い事はしてないんだけど、なんでだろう。

 そんな事を考えながら周りを観察していると、不意に見覚えのある人が立っている事に気が付いた。

 あ、あの人って…一緒に階段を上った衛兵さんだよね。たしか、根性があるって褒めてくれた人だと思う。

 正解かどうかをハルに聞く事もせずにまじまじと見つめていると、俺の視線に気が付いたのかその衛兵さんがさっとこちらを見た。

 目が合った途端、衛兵さんは俺とハルに向かってニッと口元だけの笑みを浮かべた。

「ああ、あの人がいたのか」
「うん、こないだの人だよね」

 そんな会話を交わしながらも小さく手を振れば、さらに衛兵さんの笑みが深くなった。きっと手を振り返す代わりに、笑ってくれてるんだろうな。

 見張りお疲れ様ですと思いながら、俺はハルと一緒に大門を抜けた。



――辺境の門の外は一体どうなってるんだろう?

 あの本を読みながら色々と想像はしてたんだけど、本で読むのと実際に見るのとではやっぱり全然違うんだね。

 門から一歩外に出た俺が一番最初に興味を引かれたのは、かなりの広さが確保されている幅広の街道だった。

 他の街の街道も馬車がギリギリ二台すれ違えるぐらいの幅はあったけど、ここは馬車三台は余裕ですれ違えるんじゃないかな。しかも街道の両脇には地面が剥き出しになったスペースが設けられていて、その向こう側に鬱蒼とした森が広がっている。

 このスペースってわざと作ってるんだよねと思わずじっと見つめていると、俺の視線に気づいたハルがすぐに説明してくれた。

「これはね、魔物の不意打ち防止でこうしてあるんだ」

 昔は街道の横がすぐに森だったらしいんだけど、どんどん改良されて現在の形に落ち着いたそうだ。まあ辺境の生活の知恵だよと、ハルは笑って続けた。



 ダンジョンを目指しての移動中、森の中で動いている魔物は何体か見かけたけど、ほとんどの魔物は俺達の近くにまでは寄ってこなかった。

 唯一の例外は、見るからに獰猛そうな熊のような魔物だった。長い爪と鋭い牙を見せつけるように俺達を威嚇しながら、森の中から突然現れたんだ。

 ハルが説明してくれた不意打ち防止のスペースのおかげで、攻撃まではされなかったんだけどね。

「セルシュベアだ!」

 ハルの声に身構えようとしたけれど、それよりも先にちょうど前を歩いていた冒険者達が瞬殺してしまったのにはかなり驚いた。

 しかも『お、ちょうどベア系の爪素材が欲しかったんだよなー』『俺は牙が欲しいな』なんて嬉しそうに喋りながらだったんだよ。

 さっくりと倒してから、俺達に向かって獲物奪っちゃったか?と心配そうに聞いてくれるぐらいの余裕っぷりだったよ。

 呆然とする俺の隣に立っていたハルが問題ないよと笑顔で答えれば、なら良かったとすぐさま解体まで始まった。

 さらにそこに通りがかった冒険者の護衛をつれた商人らしき人が、肉を売ってくれないかって普通に交渉し始めたのにも驚いた。なんでもこの熊のお肉はすごく美味しくて、この商人さんの好物なんだって。すぐに値段が決められてやりとりが始まったんだよ。

 辺境領ってみんなたくましくて、俺の予想以上にすごい場所なのかもしれない。
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