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924.オ・アレシュのダンジョン

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 オ・アレシュのダンジョンは、この街の壁を出てしばらく街道沿いを歩くだけで着くぐらいの距離に存在しているらしい。

 なんか想像以上に街から近い距離にあるんだね。もっと山の奥とか森の奥とかに行かないと、入口は無いと勝手に思い込んでたよ。

 ああ、だから魔物の氾濫が起きた時が危ないのか。

 ハルによると途中で魔物に遭遇する可能性はあるらしいけど、街道沿いの魔物は優先的に倒されているからそれほど危険な道というわけでもないらしい。

 むしろ街道から反れて森に入るよりは安全だからと、冒険者になりたてのうちはオ・アレシュのダンジョンで鍛えるというのがこの辺りの普通らしい。

「ダンジョン…!」
「せっかくだし、アキトが気になるなら、これからすぐに向かおうか?」

 そうニコニコ笑顔で優しく提案してくれたハルに、俺はすぐさま頷いた。

 わーい、初のダンジョンだーとワクワクしながら立ち上がろうとした所で、不意にウィリアムさんがはーいと元気に手をあげた。

「ねえ、そのダンジョン探索、俺も一緒に行きたいなー?」

 今日は仕事が休みなんだけど、残念ながらジルは仕事だから退屈なんだよねーと、本当につまらなさそうな顔で続けた。

「ふむ…それなら、私も急ぎの書類仕事は既に終わったから、同行したいな」

 楽しそうだなと呟いたファーガスさんも、私も一緒に行きたいと主張し始める。もう急ぎの書類仕事が終わってるとか…仕事が早いな。

「それは良いな」

 後ろから聞こえてきた声に、え?と振り返れば、そこではケイリーさんが笑顔を浮かべていた。

 え、ケイリーさんも来るの?あの本の主人公が?一緒にダンジョンに?

「久しぶりにダンジョンに行くのも楽しそうだ」
「まさか全員で来るつもりですか?」

 呆れ顔のハルは、でも来るなとは言わなかった。
 
 うーん、ケイリーさんと、ファーガスさん、それにウィリアムさんも一緒に、オ・アレシュのダンジョン探索か。

 あの本の中でたくさん読み込んだケイリーさんの戦い方は、できれば近くで見てみたいと思う。ファン心理ってやつだよね。

 それにファーガスさんとウィリアムさんも、絶対に二人とも強いもんな。

 一緒に行ったらきっと楽しいだろうし勉強にもなるんだろうなーとは思うんだけど、心配な事がひとつだけあるんだよね。

「あー…あの…一緒にダンジョンに入ったら、もちろん途中で魔物と戦う事になりますよね?」
「ああ、そうだね」
「大丈夫だ。オ・アレシュのダンジョンの中には、そこまで強い魔物は出ない」
「そうそう。ハルがいれば20階層まで余裕で潜れるのに、俺達も行くなら過剰戦力なぐらいだよ」

 トライプール周辺に出る魔物とそう変わらないからと優しく教えてくれるウィリアムさんに、俺はそうじゃないんですとゆるりと首を振った。

「皆さんと一緒にダンジョンに行くのは楽しそうですが…俺が魔法を使うのを見てしまったら、それは魔法披露にはあたらないんでしょうか?」

 既に俺の魔法を知ってるハルはさすがに例外だと思うんですけどとそう付け加えれば、全員揃ってぐっと黙り込んだ。

 もしただの俺の考えすぎなら良いんだけど、一緒にダンジョン探索するのも魔法披露だってグレースさんが受け止めたら、約束を破った事になっちゃうからね。

「…はぁ…うん、そうだな」

 しばらく経ってから、ぽつりとそう呟いたのはケイリーさんだ。 

「ああ、母ならきっと、それは魔法披露だと言うだろうな」

 ファーガスさんは、いや、きっとじゃなくて確実に言うなと疲れた様子で続けた。

「アキトくん、教えてくれてありがとう!危ない所だったよー」

 ウィリアムさんは、助かったとしきりにお礼を言ってくる。

 うん、やっぱり一緒にダンジョンに行くのは、グレースさん的には駄目な感じか。念のためぐらいの気持ちだったけど、確認してみて良かった。

「アキト、母との約束を気にかけてくれてありがとう」

 多分母は怒るよりも拗ねると思うから気づいてくれて良かったと、ハルは優しく笑みを浮かべて俺の頭を撫でてくれた。グレースさん、拗ねるんだ。

「いや、拗ねたグレースもそれはもう可愛いんだぞ?普段と違ってすこしこどもっぽくなってたまらない可愛さがあるんだ」

 さらりとそう惚気てみせたケイリーさんは、だがと言葉を続けた。

「許してもらえるまでが非常ーに長いんだ…本当にありがとう、アキトくん」
「い、いえ…」

 俺の言葉のおかげで助かった助かったと言い合う皆に、俺は苦笑しながら頷く事しかできなかった。
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