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923.今日の予定は

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 グレースさんが帰ってきたら、精一杯魔法の披露を頑張ろう。

 俺がそう決意したのが、ちょうど一週間前。

 すぐに帰ってくるからと宣言してでかけていったグレースさんは、一週間が過ぎた今もまだ残念ながら帰って来てない。

「うーん…思っていたよりも…かなり帰りが遅いな」

 重々しく響いたケイリーさんの言葉に、すぐにファーガスさんがこくりと頷いた。

「本当に緊急で対処が必要な事態ならうちにも連絡が入るから、魔物の出現や襲撃を受けたなどでは無いんだろうが…」
「うん、今の所どちらの情報も入ってきてないね。何があって呼び出されたのかも気になってるけど…」

 さすがに王家の情報は入り難いんだよなーとウィリアムさんは、さらりとそう続けた。王家の情報も入り難いだけで入手できないわけじゃなのか…。

「そうだよな…ううん…心配だな」

 ケイリーさんは眉間にぎゅっとしわを寄せて、ぽつりとそう呟いた。大事な伴侶であるグレースさんだもんね、そりゃあ心配にもなるよね。

「ああ、確かに心配だな…」
「うん、心配だー」
「しんぱいです」
「ああ、そうだな。心配だ」

 ファーガスさんとウィリアムさんの言葉に、キースくんとハルも一緒になって同意している。

 いやもちろん俺も心配はしてるんだけどさ、グレースさんならどんな事態でも何とかできそうって思ってしまうのは何でだろうな。

 そんな事をぼんやりと考えていると、ケイリーさんと四兄弟が声を重ねて呟いた。――王都で暴れないか心配だと。

 あ、あれ?俺の思っている心配の方向性と違うね?

「えっと…グレースさんが心配なんじゃないんですか?」
「グレースなら、王都で何が起きていたとしても必ず生きてここに帰ってくるからな」

 そう言いきったケイリーさんの言葉には、グレースさんへの深い信頼と愛情があった。

「ここで遠い王都の事を心配していても、仕方ないか」
「ああ、どうせなるようにしかならないしねー」
「うん、きっと大丈夫だよ!」

 気持ちを切り替えたのかそう言って笑うハルの兄弟たちは、やっぱりハルに似てるなーと思う。すごく前向きな所とかがね。



「アキトくん、今日の予定はどうなってるんだい?」

 話が一段落した所でに投げかけられたケイリーさんの質問に、俺は思わずハルに視線を向けた。

「えっと…まだ何も決まってない…よね?」
「ああ、辺境でしたいなって言ってた事は、だいたい出来たからな…」
「うん」

 それじゃあ何をしたい?って聞かれても、咄嗟にこれだという予定は出てこない。そろそろギルドの依頼を受けて街の外にも出てみたいって言ったら、危険だって怒られるだろうか。

 そんな事を考えていた俺に、ケイリーさんは笑顔で続けた。

「予定が決まっていないなら、ダンジョンに行くのはどうだろう?」
「ダンジョン…」

 領都ウェルマールの近くには、いくつかのダンジョンが存在している。

 だからこそ魔物が溢れて行き着く暇もなく襲い掛かってくる、魔物の暴走スタンピードが起きやすい場所だったんだよね。

 それは辺境領に来る前にハルに聞いてちゃんと勉強したから、俺も知ってる。

 でも、ダンジョンって、こんなに気軽にお勧めされるような場所だったっけ?一人や二人で入る場所じゃないとか、危険と隣り合わせの場所だとか色々怖い話を聞いたんだけど。

「…父さんが言ってるのは、どこのダンジョンの事だ?」

 ダンジョンは危険だからと断るのかと思っていたハルも、すぐに拒否するわけでもなくそう尋ねた。

「そうだな…最初はオ・アレシュのダンジョンが良いと思うんだが」
「ああ、あの湖を見せたいのか」

 ハルはオ・アレシュのダンジョンなら良いかもなと何故か乗り気だ。

「えっと…?」
「ああ、ごめん、アキト。ダンジョンの危険性を覚えて欲しくて、つい怖がらせるような話ばかりしたかもしれない」

 ハルの説明によると、オ・アレシュのダンジョンは20階層までしかない小規模なものらしい。14階層目には湖があって、景色も良いし魚が取れる場所なんだって。

 以前ラスさんが作ってくれた料理に使われていた魚も、オ・アレシュのダンジョン産らしい。

「それはぜひ行ってみたい!」

 魚も大好きな俺が、食いつかないわけが無いよね。
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