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922.説得
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さすがにグレースさんの言動に慣れているのか、俺以外の皆は慌てた様子で口を開いた。
「グレースの気持ちは分かる。分かるが…さすがにその理由が王家に通用しないのも分かるだろう?」
「そうですよ、母上」
「息子の伴侶候補を、王家よりも優先しますと言うのはさすがにまずいよ」
「む…じゃあ他の理由を考えるか…」
グレースさんは真剣な表情でぽつりとそう呟いた。
「いや、そこは通用する理由を考えるんじゃなくて、王都にさっと行ってすぐに帰ってきたら良いんじゃないか?」
ハルの提案に、グレースさん以外の全員がハッと顔をあげた。
「それだ!」
「一度行って戻ってくれば良いんだ!」
「うんうん、ハルは天才だな!」
素晴らしい提案だとファーガスさんに頭を撫でられたハルは、困り顔でやめてくださいと答えている。
表情は困り顔だけど、別に撫でられるのが嫌だってわけじゃないんだろうな。耳が赤くて照れてるんだなーって分かるから。弟っぽさが表にでてるハルも可愛いな。
「グレース、王都までさっと行って帰ってくる――でどうだ?アキトくんはまだしばらくは滞在してくれる予定なんだし、ここは王家の顔を立ててくれないか?」
ケイリーさんが申し訳なさそうにしながらもそう尋ねたけど、グレースさんは少し考えてからやっぱり嫌だと首を振った。
「何故だい?」
「だって、まだアキトの魔法披露を見てない!せめてそれを見るまでは絶対に行かないから!」
あーなるほど。グレースさんが気にしてたのは、そこなのか。
「私だってアキトの魔法を皆と一緒に見たいんだ!」
力強い言葉からして、グレースさんはどうやら俺の魔法の披露をすごくすごーく楽しみにしてくれていたみたいだ。あまり期待されすぎるとハードルが上がっちゃうんじゃないかと心配になるけど、でもそう言ってもらえた事は嬉しい。
「アキトくんの魔法披露さえみんなと一緒に見ることが出来れば行くのか?」
「うん、それからなら…まぁ…」
本当はアキトと色々したい事があるから行きたくはないんだが――とぶつぶつ言いながら、グレースさんは小さく頷いた。
えっと、これはもしかしたら今すぐ魔法を披露して欲しいって言われるやつかな。もしそうなったらもちろん全力で頑張るけどと、俺はこっそりと覚悟を決めた。
「いや、しかし魔法披露を皆で見るような時間は無いだろう?」
冷静にそう口を挟んだのはファーガスさんだ。マチルダさんも確かに難しいだろうなと頷いている。
「うん、時間が無いよねぇ」
ウィリアムさんが呟けば、ジルさんも難しい顔で黙ってひとつ頷いた。
「携帯式転移魔法陣まで持ってきているんだから…さすがに無理だよな」
ああ、そっか。いますぐ移動しないと、すぐに来いって言われてその手段も目の前にあるのに、自分の意思で来ないってバレちゃうのか。
「皆と一緒に見たいのに…?」
しょんぼりと肩を落としたグレースさんに、俺は慌ててハイッと手をあげてから口を開いた。
「あの!グレースさん!」
「ん?どうした、アキト?」
「俺、グレースさんが帰ってくるまで、誰に頼まれても魔法の披露は絶対にしません!」
え、と驚いた顔で固まったのは、グレースさん以外の全員だ。グレースさんだけが、キラキラと分かりやすく目を輝かせながら俺を見つめている。
「本当だな!?」
「はい、きちんとお約束します!」
「もしハルから頼まれても…断ってくれるんだな?」
「はい!――えっと、ハルは頼まないと思いますけど…」
思わずそうハルのフォローをしてしまったけれど、グレースさんは気にした様子もなく続けた。
「よし、そうと決まれば、私は今すぐに王都に行ってくる!」
ニコニコ笑顔のグレースさんは、さっと立ち上がると部屋の隅に控えていた執事さんに視線を向けた。
「結論が出たから、あのアロという騎士を呼んでくれるか?」
「かしこまりました」
すぐに案内されて戻ってきた騎士様に、グレースさんはにっこりと艶やかに笑いかけた。
「家族と相談をする時間を頂き、ありがとう。すぐにでも王都に向かいたいと思います」
「ハッ、快諾して頂きありがとうございます」
ピシッと敬礼をした騎士様は、いそいそと床に転移魔法陣を設置した。巨大な布の真ん中に魔法陣が刺繍されているみたいだ。
「それでは、行ってまいります!」
「いってらっしゃい、気をつけて」
「ええ、こちらの事は頼みましたよ」
丁寧な口調で挨拶をしたグレースさんは、ケイリーさんに小さくハグをしてから魔法陣に足を踏み入れた。
途端にグレースさんの姿は一瞬でかき消え、次の瞬間には魔法陣が刺繍された布がボッと青い炎に包まれた。
「え…燃えちゃった…?」
「いや、これは悪用防止の対策なんだ。燃えるのが正しいんだよ」
「グレースさんは無事に着いたって事?」
「ああ、もちろん」
グレースさんが帰ってきたら、魔法の披露か。その時は精一杯頑張ろう。
「グレースの気持ちは分かる。分かるが…さすがにその理由が王家に通用しないのも分かるだろう?」
「そうですよ、母上」
「息子の伴侶候補を、王家よりも優先しますと言うのはさすがにまずいよ」
「む…じゃあ他の理由を考えるか…」
グレースさんは真剣な表情でぽつりとそう呟いた。
「いや、そこは通用する理由を考えるんじゃなくて、王都にさっと行ってすぐに帰ってきたら良いんじゃないか?」
ハルの提案に、グレースさん以外の全員がハッと顔をあげた。
「それだ!」
「一度行って戻ってくれば良いんだ!」
「うんうん、ハルは天才だな!」
素晴らしい提案だとファーガスさんに頭を撫でられたハルは、困り顔でやめてくださいと答えている。
表情は困り顔だけど、別に撫でられるのが嫌だってわけじゃないんだろうな。耳が赤くて照れてるんだなーって分かるから。弟っぽさが表にでてるハルも可愛いな。
「グレース、王都までさっと行って帰ってくる――でどうだ?アキトくんはまだしばらくは滞在してくれる予定なんだし、ここは王家の顔を立ててくれないか?」
ケイリーさんが申し訳なさそうにしながらもそう尋ねたけど、グレースさんは少し考えてからやっぱり嫌だと首を振った。
「何故だい?」
「だって、まだアキトの魔法披露を見てない!せめてそれを見るまでは絶対に行かないから!」
あーなるほど。グレースさんが気にしてたのは、そこなのか。
「私だってアキトの魔法を皆と一緒に見たいんだ!」
力強い言葉からして、グレースさんはどうやら俺の魔法の披露をすごくすごーく楽しみにしてくれていたみたいだ。あまり期待されすぎるとハードルが上がっちゃうんじゃないかと心配になるけど、でもそう言ってもらえた事は嬉しい。
「アキトくんの魔法披露さえみんなと一緒に見ることが出来れば行くのか?」
「うん、それからなら…まぁ…」
本当はアキトと色々したい事があるから行きたくはないんだが――とぶつぶつ言いながら、グレースさんは小さく頷いた。
えっと、これはもしかしたら今すぐ魔法を披露して欲しいって言われるやつかな。もしそうなったらもちろん全力で頑張るけどと、俺はこっそりと覚悟を決めた。
「いや、しかし魔法披露を皆で見るような時間は無いだろう?」
冷静にそう口を挟んだのはファーガスさんだ。マチルダさんも確かに難しいだろうなと頷いている。
「うん、時間が無いよねぇ」
ウィリアムさんが呟けば、ジルさんも難しい顔で黙ってひとつ頷いた。
「携帯式転移魔法陣まで持ってきているんだから…さすがに無理だよな」
ああ、そっか。いますぐ移動しないと、すぐに来いって言われてその手段も目の前にあるのに、自分の意思で来ないってバレちゃうのか。
「皆と一緒に見たいのに…?」
しょんぼりと肩を落としたグレースさんに、俺は慌ててハイッと手をあげてから口を開いた。
「あの!グレースさん!」
「ん?どうした、アキト?」
「俺、グレースさんが帰ってくるまで、誰に頼まれても魔法の披露は絶対にしません!」
え、と驚いた顔で固まったのは、グレースさん以外の全員だ。グレースさんだけが、キラキラと分かりやすく目を輝かせながら俺を見つめている。
「本当だな!?」
「はい、きちんとお約束します!」
「もしハルから頼まれても…断ってくれるんだな?」
「はい!――えっと、ハルは頼まないと思いますけど…」
思わずそうハルのフォローをしてしまったけれど、グレースさんは気にした様子もなく続けた。
「よし、そうと決まれば、私は今すぐに王都に行ってくる!」
ニコニコ笑顔のグレースさんは、さっと立ち上がると部屋の隅に控えていた執事さんに視線を向けた。
「結論が出たから、あのアロという騎士を呼んでくれるか?」
「かしこまりました」
すぐに案内されて戻ってきた騎士様に、グレースさんはにっこりと艶やかに笑いかけた。
「家族と相談をする時間を頂き、ありがとう。すぐにでも王都に向かいたいと思います」
「ハッ、快諾して頂きありがとうございます」
ピシッと敬礼をした騎士様は、いそいそと床に転移魔法陣を設置した。巨大な布の真ん中に魔法陣が刺繍されているみたいだ。
「それでは、行ってまいります!」
「いってらっしゃい、気をつけて」
「ええ、こちらの事は頼みましたよ」
丁寧な口調で挨拶をしたグレースさんは、ケイリーさんに小さくハグをしてから魔法陣に足を踏み入れた。
途端にグレースさんの姿は一瞬でかき消え、次の瞬間には魔法陣が刺繍された布がボッと青い炎に包まれた。
「え…燃えちゃった…?」
「いや、これは悪用防止の対策なんだ。燃えるのが正しいんだよ」
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「ああ、もちろん」
グレースさんが帰ってきたら、魔法の披露か。その時は精一杯頑張ろう。
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