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921.王都からの使い

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 そんなこんなでかなり充実した一週間を送った俺だけど、残念ながらハルの家族の皆と約束した魔法のお披露目はまだできていない。

 というのもハルのお母さんグレースさんにまさかの急用が出来てしまって、現在は外出中だからだ。

 グレースさんがいなくても披露できるよね?と思うかもしれないけど、約束しちゃったからなぁ。



 あれは滞在四日目の朝の事だった。

 ちょうどハルの家族の皆と一緒に朝食を食べていたら、明らかに高級そうな見慣れない鎧に身を包んだ騎士さんが案内されてきたんだよね。

 その人は王立騎士団の騎士団員アロだと名乗ってから、ピシッと敬礼をしてみせた。

 すかさず立ち上がったファーガスさん、それにウィリアムさんとジルさんは流れるように敬礼を返す。

 ああ、そうか皆はウェルマール騎士団所属の人だから、敬礼には敬礼で返すのか。ケイリーさんがしなかったのは騎士団所属じゃなくて領主様だから?

「おくつろぎの所をお邪魔して申し訳ありません。マールクロア王国王家より、ケイリー・ウェルマール様へのお手紙をお届けに参りました」

 騎士の男性はその場にいた全員の視線を浴びながらも、堂々とそう口上を述べた。

 え、王家からの手紙?と慌てたのは俺だけのようで、周りの皆は表情一つ動かさなかった。

「王都からはるばるの移動ご苦労。手紙を受け取ろう」

 ケイリーさんの答えに、執事長さんがすかさず手紙を受け取って手渡した。

 しんと静まりかえった部屋の中、手紙を開く音だけがやけに大きく響いている。

 ささっと手紙に目を通したケイリーさんはふうと一つ息を吐いてから、その場にいた全員に向かって安心させるようにうっすらと笑みを浮かべた。

 それだけで非常事態とかじゃないんだなと分かる、そんな笑顔だった。少しだけ部屋の空気も緩んだ気がする。

「こちらの手紙の内容は、グレースに至急王都へと来て欲しいというものだった」

 グレースさんに…呼び出し?一体何だろう?何か大変な事でもあったのかな?

 俺の焦りに気づいたのか、隣に座っていたハルは俺の耳元にそっと囁いた。

「元々母は王妃様とかなり懇意にしているから、こうして呼び出しがかかる事は別に珍しい事ではないよ」

 心配しなくても大丈夫と続いたハルの言葉に、俺は声には出さずにありがとうと口を動かした。ニコっと笑みを見せてくれるハルに、俺も笑顔を返す。

「…それはいつまでに迎えと、期日を設けられていますか?」

 普段とは違って丁寧に喋るグレースさんに一瞬だけ驚いてしまったけど、ここには王立騎士団の騎士がいるからかと納得した。

「期日ははっきりとは書かれていなかったが…アロ殿、期日については聞いているか?」
「聞いておりません。ですが、グレース・ウェルマール様にお使い頂くための、携帯式転移魔法陣を持参しております」

 携帯式転移魔法陣とは、それを使えば一瞬で王都まで辿り着ける、持ち運べる転移魔法陣らしい。

「そこまでするとは…それほどまで急ぎなのだろうか?」

 少し心配そうに尋ねたケイリーさんに、騎士さんは詳細は聞いておりませんがおそらくはそうだと思われますと返した。

「すこし家族だけで相談がしたいのですが…」

 グレースさんは目線を伏せて、申し訳なさそうにそう続けた。

「ハッ、それでは私は部屋から出ております」

 すぐさまそう答えた騎士様に、すかさず執事さんがお疲れでしょうからこちらで軽食などをと言いながら近づいていく。

 案内されて部屋からアロさんが出ていった瞬間、ケイリーさんは困り顔でグレースさんを見た。

「グレース…まさか…」
「今回は私は呼び出しには応じないぞ!」

 いつも通りの口調でそう言いきったグレースさんに、その場にいた全員がえって声を洩らしたよね。

 王家からの呼び出しに行かないなんて選択肢があるの?って、俺なんて首まで傾げてしまった。

「待ってくれ…母上、それはさすがに…」
「一般的に考えて、何よりも優先すべき招待だろう?」

 ウィリアムさん、一般的に考えてって言葉は不敬に当たるんじゃないですか。勝手に心配してしまった。

「グレース、まずは王都行きを断る理由を教えてくれ」

 一番落ち着いていたのはケイリーさんだった。慣れてるとかそういう話だろうか。

「理由なんて決まってるだろう?せっかくアキトが来てくれてるのに、今辺境を離れろって言われて、はいなんて言えるか!」

 まさかの理由に俺は絶句して固まった。
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