生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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918.辺境領での日々

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 そっと目を開けば、うっすらと朝の光に照らされた室内が目に入った。

 ああ、もう朝なんだ。そろそろ起きないと駄目かなと、俺はもぞもぞとベッドの上で身じろいだ

「あ、アキト、目が覚めた?」

 すっかり目が覚めた様子のハルは、本を片手に爽やかな笑顔を向けてきた。

 今朝も眩しいほどに美形だな。

「おはよ、ハル」
「ああ、おはよう、アキト――なんだか、今日はまだ眠そうだね」

 ふふと笑ったハルは二度寝する?とさらりと誘惑してくる。

「ううん、確かに眠いけど、起きる」
「そっか」

 相変わらずのふわふわふかふかの雲ベッドから、俺はなんとか自分だけの力で起き上がる事に成功した。最初はハルの手を借りないと起き上がれなかったんだから、それから考えたらかなり成長したよね。

 まあふわふわの雲ベッドから一人で起き上がれるようになりました!なんて、自慢できる機会なんてきっと無いんだけどさ。



 俺達がここウェルマールの領主城に滞在し始めてから、既に数日が過ぎた。

 一日目はハルの家族の皆との顔合わせに、親睦を深めるための食事会。

 二日目にはハルと二人で、ウェルマ市場に足を伸ばして屋台ごはんを食べた。

 同じ異世界人で日本人のケンと友達になれたのは、予想外ではあったけど本当に嬉しかったな。しかもレイさんにまで、またいつでも会いにきてくれと誘ってもらえたし。

 今日はこれから何をしようかとハルと二人で相談していた三日目には、執事長とメイド長のお誘いで領主城の中を案内してもらう事になった。

 和風のお城なら俺も社会見学とか遠足とかで訪れた事があったんだけど、こういう明らかに洋風のお城を見て回るのは初めてだった。

 あれこれと色んな事を質問しまくってしまったけれど、案内役を買って出てくれたお二人は嫌な顔一つせずに答えてくれた。

 知識量が無いとここのお城では働けないとか決まりでもあるんだろうか。

「そういえば、ハロルド様はここの壁をよじのぼられた事がありましたね」
「え、よじのぼったの?」
「あそこの岩に手を乗せれば上まで行けると、ファーガス様が伝えたんですよ」
「あー…あったな…」

 小さなハルがこの壁を?と思わず見上げてしまったけれど、今の俺でもどう見ても登れないぐらいの小さな岩しか無いね。ロッククライミングの要領でのぼるんだろうか。

「まだ幼いながらも上手に登っていかれましたが、一番上まで行ったら今度は降りれなくなったんですよね」

 メイド長は楽し気に笑いながらそう教えてくれる。

「そうだったか?」
「ええ、私は万が一のためにと近くにあった布を広げていましたから、よく覚えています」

 えーっと、どう見ても俺と同い年ぐらいにしか見えないメイド長が、さらりとハルの幼い頃の話をしてくれたのには正直に言ってかなり驚いた。

 え、なんで?とついつい言いたくなってしまったけど、そこは女性には何があっても年齢を聞くなという母の教えを守って何も聞かなかったよ。



 四日目にはアキトならそろそろ外で身体を動かしたいんじゃない?と首を傾げたハルの提案で、領主城の森へと採取に行く事になった。

 本当にそろそろ身体を動かしたいなと思い始める頃だったんだ。ハルはさすがに俺の事をよく分かってるよね。

 領主城前の森は、もしかして冒険者ギルドの採取地として登録されてないですか?と尋ねたくなるぐらい、様々な素材が豊富だった。

 珍しい薬草や見た事のない木の実には、ワクワクしてはしゃいでしまった。

 ああ、それに懐かしい巨大な黒曜キノコまで手に入ったんだよね。まさか見つかると思ってなかったから、見つけてしまった時には苦笑してしまった。

「ちょうどファーガス兄さんが探してるって言ってたよ」
「え、そうなの?」
「ああ、市場で見かけて質が良ければ買ってきてって言われていたんだ」
「そうなの?じゃあこれ貰ってもらおう」

 俺は巨大なキノコを魔道収納鞄にしまいこんで、いそいそとファーガスさんに会いに行ったんだけど残念ながらプレゼントはできなかった。

 個人的なものじゃなくて騎士団の武器に使うから、貰うわけにはいかないって買い取られてしまったんだ。

 プレゼントしたかったのにとすこし粘ってみたんだけど、ハルにまで騎士団の物なら素材の値段をはっきりさせたいだろうからと口添えされたらそれ以上は粘れなかったよね。
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