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916.【ハル視点】繊細な木彫り
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「どうぞー遠慮なく好きなように見て回ってね」
ニコニコ笑顔のケンさんにそう言われたアキトと俺は、服のすそが木彫りに触れないようにと慎重に、まずは真ん中にあるテーブルへと近づいた。
もしも倒してしまったら壊れてしまいそうな繊細な作りの木彫りが、たくさん並んでいる部屋だ。
とてもじゃないがスタスタと移動する事はできない。
「うわぁ…」
「これはすごいな…」
まじまじとテーブルの上の木彫りの像を観察した俺達は、思わずそんな声を洩らした。
「これとか本当に生きてるみたい」
アキトがそういって指差したのは、今にも動き出しそうな生き物の木彫りだ。
これはキャルテと呼ばれている大型の猫をモデルにしているようだ。ふさふさの長い尻尾をくるりと巻いたキャルテは、ちょうど優雅に伸びをしているところだ。
その隣に置かれているのは、バツーグと言う羽の生えた狼の魔獣だ。滅多に出会う事のできない魔獣だが、従魔を連れて戦うテイマー達にはかなり人気の種だ。陸でも空でも素早く動ける上に、頭も良くて人に懐きやすい。
そんなバツーグの木彫りは上目遣いにこちらを見上げながら、小さく舌を出している。テイマーが見たら誰が買うかと戦闘が起きかねない可愛らしい見た目だ。
「この辺りは、普通の動物と害のない魔獣だよ」
「え、そうなの?」
「危険な魔物の像は駄目って言われたから、作れないんだ」
「そうなんだ?」
「ああ、これはどの領でもそうだと思うよ」
危険な魔物を身近に感じるようになってはいけないからと、魔物の像を作ったり絵に描く事は禁止されている。唯一の例外が魔物図鑑の絵だ。
「ちなみにこの辺りのは、意外にも冒険者とか騎士団員に人気だね」
「え、冒険者とか騎士団員に?」
こんなに可愛らしい像が?と思わず首を傾げたアキトに、ケンさんは本当だよと笑っている。
「癒しが欲しいけど、家で生き物を育てる余裕は無いから…らしいよ?」
ああ、なるほど。冒険者も騎士団員も、依頼や任務で家を開ける事が多いからな。
連れていけば良いと思うかもしれないが、この世界では危険がいつでも隣にある。
それこそテイマーのようにきちんと行動を制御できる状態でなければ、連れている冒険者も連れられている生物も命の危険にさらされる。
「これが欲しいとかあれが欲しいとか要望を聞いてたら、増えてきたんだー」
元々の依頼は一点だけだというのに、気づけば生物ごとに色々な種類を作ったりしてしまうらしい。職人がたまに言う興が乗ったという状況だろうな。
「これとかさーお客さんの要望は寝てるところだったんだけど、俺は猫と言えば伸びだろうと思って」
「ああ、分かる分かる。猫は伸びしてる所も可愛いもんね」
アキトとケンさんは、俺達気が合うねーと楽し気に笑いあっている。
「俺はこれが特にすごいと思ったな」
俺がそっと手を向けたのは、まるで本物のように見える葉脈まで彫り込まれた美しい花々だ。
「うわーこれもすごいね!」
「ああ、これはあまり人気は無いんだけど、俺の趣味でねー」
こだわりが詰まってるんだよーとケンさんは自慢げに続けた。
「ん…?人気は無いのか?」
不思議に思って尋ねてみれば、ケンさんは生花の方が安く手に入るからねと苦笑を洩らした。まあ値段の面だけなら確かにそうかもしれないが、この花にはそれ以上の利点がたくさんあるだろう。
「俺は贈り物や部屋の飾りに、枯れない花というのも良いと思ったんだが…」
母さんなんてきっと手入れがいらない植物なんて最高だなと、一瞬で気に入ると思う。
「ハロルド様!」
ついさっきまで静かだったレイさんが急に何の前触れもなく叫んだので、俺達は三人揃ってビクッと身体を揺らしてしまった。ケンさんまで一緒に驚いているから、本当に予想外だったんだろうな。
「枯れない花という言葉、すごく良いですね!」
「そ、そうか…?」
思いついた言葉を言っただけで、そんな反応が来るとは思っていなかった。
「その路線で売り込みをさせて頂いても良いでしょうか?」
律儀にもそう尋ねてくるレイさんに、俺はもちろんとすぐに頷いた。
「ああ、別に構わないよ。ただの思いつきだし」
「お礼を考えておきますね」
「それは必要無いよ」
「いえ、これは確実に売れます!」
物々と何かを呟きながらあれこれと考え始めた様子のレイさんに、ケンさんは苦笑を洩らした。
「あーごめんね、レイが」
「いや、彼は販売担当なのか?」
参考になったなら嬉しいと笑って付け加えれば、ケンさんはふるふると首を振ってから答えた。
「販売も担当だね」
「も…という事は他にも何か彼が担当している事がある…と?」
「へへーそれが俺の店の一番の売れ筋に関わってくるんだよー」
ケンさんは悪戯っぽく笑うと、こっちこっちともう一度俺達を手招いた。
ニコニコ笑顔のケンさんにそう言われたアキトと俺は、服のすそが木彫りに触れないようにと慎重に、まずは真ん中にあるテーブルへと近づいた。
もしも倒してしまったら壊れてしまいそうな繊細な作りの木彫りが、たくさん並んでいる部屋だ。
とてもじゃないがスタスタと移動する事はできない。
「うわぁ…」
「これはすごいな…」
まじまじとテーブルの上の木彫りの像を観察した俺達は、思わずそんな声を洩らした。
「これとか本当に生きてるみたい」
アキトがそういって指差したのは、今にも動き出しそうな生き物の木彫りだ。
これはキャルテと呼ばれている大型の猫をモデルにしているようだ。ふさふさの長い尻尾をくるりと巻いたキャルテは、ちょうど優雅に伸びをしているところだ。
その隣に置かれているのは、バツーグと言う羽の生えた狼の魔獣だ。滅多に出会う事のできない魔獣だが、従魔を連れて戦うテイマー達にはかなり人気の種だ。陸でも空でも素早く動ける上に、頭も良くて人に懐きやすい。
そんなバツーグの木彫りは上目遣いにこちらを見上げながら、小さく舌を出している。テイマーが見たら誰が買うかと戦闘が起きかねない可愛らしい見た目だ。
「この辺りは、普通の動物と害のない魔獣だよ」
「え、そうなの?」
「危険な魔物の像は駄目って言われたから、作れないんだ」
「そうなんだ?」
「ああ、これはどの領でもそうだと思うよ」
危険な魔物を身近に感じるようになってはいけないからと、魔物の像を作ったり絵に描く事は禁止されている。唯一の例外が魔物図鑑の絵だ。
「ちなみにこの辺りのは、意外にも冒険者とか騎士団員に人気だね」
「え、冒険者とか騎士団員に?」
こんなに可愛らしい像が?と思わず首を傾げたアキトに、ケンさんは本当だよと笑っている。
「癒しが欲しいけど、家で生き物を育てる余裕は無いから…らしいよ?」
ああ、なるほど。冒険者も騎士団員も、依頼や任務で家を開ける事が多いからな。
連れていけば良いと思うかもしれないが、この世界では危険がいつでも隣にある。
それこそテイマーのようにきちんと行動を制御できる状態でなければ、連れている冒険者も連れられている生物も命の危険にさらされる。
「これが欲しいとかあれが欲しいとか要望を聞いてたら、増えてきたんだー」
元々の依頼は一点だけだというのに、気づけば生物ごとに色々な種類を作ったりしてしまうらしい。職人がたまに言う興が乗ったという状況だろうな。
「これとかさーお客さんの要望は寝てるところだったんだけど、俺は猫と言えば伸びだろうと思って」
「ああ、分かる分かる。猫は伸びしてる所も可愛いもんね」
アキトとケンさんは、俺達気が合うねーと楽し気に笑いあっている。
「俺はこれが特にすごいと思ったな」
俺がそっと手を向けたのは、まるで本物のように見える葉脈まで彫り込まれた美しい花々だ。
「うわーこれもすごいね!」
「ああ、これはあまり人気は無いんだけど、俺の趣味でねー」
こだわりが詰まってるんだよーとケンさんは自慢げに続けた。
「ん…?人気は無いのか?」
不思議に思って尋ねてみれば、ケンさんは生花の方が安く手に入るからねと苦笑を洩らした。まあ値段の面だけなら確かにそうかもしれないが、この花にはそれ以上の利点がたくさんあるだろう。
「俺は贈り物や部屋の飾りに、枯れない花というのも良いと思ったんだが…」
母さんなんてきっと手入れがいらない植物なんて最高だなと、一瞬で気に入ると思う。
「ハロルド様!」
ついさっきまで静かだったレイさんが急に何の前触れもなく叫んだので、俺達は三人揃ってビクッと身体を揺らしてしまった。ケンさんまで一緒に驚いているから、本当に予想外だったんだろうな。
「枯れない花という言葉、すごく良いですね!」
「そ、そうか…?」
思いついた言葉を言っただけで、そんな反応が来るとは思っていなかった。
「その路線で売り込みをさせて頂いても良いでしょうか?」
律儀にもそう尋ねてくるレイさんに、俺はもちろんとすぐに頷いた。
「ああ、別に構わないよ。ただの思いつきだし」
「お礼を考えておきますね」
「それは必要無いよ」
「いえ、これは確実に売れます!」
物々と何かを呟きながらあれこれと考え始めた様子のレイさんに、ケンさんは苦笑を洩らした。
「あーごめんね、レイが」
「いや、彼は販売担当なのか?」
参考になったなら嬉しいと笑って付け加えれば、ケンさんはふるふると首を振ってから答えた。
「販売も担当だね」
「も…という事は他にも何か彼が担当している事がある…と?」
「へへーそれが俺の店の一番の売れ筋に関わってくるんだよー」
ケンさんは悪戯っぽく笑うと、こっちこっちともう一度俺達を手招いた。
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