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915.【ハル視点】それぞれの得意技
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アキトが一番得意な魔法といえば、やはり土魔法だろう。
隣でそう考えながらも黙っていたが、どうやらアキト本人も同じ意見だったらしい。
アキトが土魔法についてあれこれと詳しく説明を始めれば、ケンさんもレイさんもとても興味深そうに聞いている。
レイさんもあまり魔力が多くはないが、生まれつき身体強化の魔法だけは使えるそうだ。
本当に便利そうだよな、身体強化の魔法は。
魔法馬鹿のファリーマいわく、あれは遺伝する魔法らしいからいくら羨ましいと思っても今さら身に着けられるわけじゃないんだが。
レイさんもケンさんも、そもそも身近な人の中に魔法が得意だという人はいなかったらしい。だからあまり魔法に馴染みがないんだと言いながら、楽し気にアキトの説明を聞いている。
「土魔法かーすごいな」
「あの…そのつぶては、その辺りの石や砂を使うんですか?発動できない条件などはありますか?」
レイさんからの質問に、アキトはゆるりと首を傾げた。
「えっと…どうだろう?」
助けを求めるような顔でこちらを向いてくれたアキトに、俺は満面の笑みで答えた。
「ああ、近くに素材になるものがあれば、意識して魔法を発動すればその素材を使えるんだ。だが近くに素材が無い場合は魔力で補って発動できるよ」
そう説明すれば、アキトも一緒になって感心している。
「へぇーそうなんだ」
「なんでアキトがそんな反応なんだよ」
「いやー俺魔法の理論とか詳しくないから」
アキトはあっさりとそう答えてから、説明してくれるハルがいつも一緒にいるから良いんだと楽し気に続けた。
あーもう。可愛いなぁ、アキトは。
「俺は感覚派だから仕方ないの」
「うん、そうだね」
これからも説明は俺がするから、アキトは気にしなくて良いよ。
魔法についての話が一段落した所で、アキトはそっと切り出した。
「ね、もしケンが作った木彫りの作品を見たいなって俺が言いだしたら…困るかな?」
「え?」
「あ、無理だったらはっきり無理って言って欲しい!……でももし大丈夫なら、見せて欲しいなって思ったんだ」
断られるかもしれないけどと控え目にお願いを口にしたアキトに、ケンさんはむしろ大喜びでスクッとすぐさま立ち上がった。
「え、俺の作品見てくれんの?わ、じゃあこっち来て、こっち!」
躊躇のかけらも無いその様子からして、ケンさんはむしろ見て欲しいと思っていそうな反応だ。
「あ、ケンさん、もし良ければ俺も見せてもらっても良いか?」
アキトの横から慌ててそう声をかけた俺に、ケンさんは更に笑みを深くした。
「うん、もちろんだよ!ほらこっち!」
弾むように歩き出したケンさんが目指しているのは、どうやら廊下の隅にある布の前みたいだ。
ケンさんの背中を眺めながら追いかける俺達に、レイさんが申し訳なさそうに声をかけてきた。
「あー…あそこの布の奥が店に繋がってるんです。説明もせずにすみません」
自分の作品を見たいって言われたのが、よっぽど嬉しかったみたいですとレイさんはこそりと教えてくれた。
「レイさんが代わりに説明してくれたんだから、問題は無いさ」
「うん、見たいって言ったのは俺達だし」
「ありがとうございます」
こそこそと俺達がそんな事を話している間に布の前に辿り着いたケンさんは、パッとこちらを振り返った。
「こっちこっち」
ニコニコ笑顔で手招きされた俺たちは、慌ててケンさんに近づいていく。
「じゃじゃーん」
そんな声と共にケンさんはさっと布を引いてくれたが、店の中は薄暗くて残念ながら何も見えなかった。
店の中が暗い上につい先ほどまで明るい部屋にいたから、俺達の目が慣れていないせいだろう。反応のない俺たちに一瞬だけ不思議そうな顔をしたケンさんは、ちらりと店の中へと視線を向けた。
「あーそっか。ちょっとだけここで待っててねー」
ケンさんはそう言うと、スタスタと慣れた様子で迷いなく真っ暗な部屋の中へと入って行く。
ほどなくして部屋中に魔道具の明かりがともった。外から店をみた時の印象と同じ赤と黒基調のテーブルや棚の上には、ずらりと細かな彫刻の施された木彫りが並んでいる。
「うわぁーすごい量!これ全部ケンが?」
「うん、そうだよ。全部俺が作ったやつ」
自慢げな声を聞きながら、アキトと俺はまじまじと木彫りをみつめた。
隣でそう考えながらも黙っていたが、どうやらアキト本人も同じ意見だったらしい。
アキトが土魔法についてあれこれと詳しく説明を始めれば、ケンさんもレイさんもとても興味深そうに聞いている。
レイさんもあまり魔力が多くはないが、生まれつき身体強化の魔法だけは使えるそうだ。
本当に便利そうだよな、身体強化の魔法は。
魔法馬鹿のファリーマいわく、あれは遺伝する魔法らしいからいくら羨ましいと思っても今さら身に着けられるわけじゃないんだが。
レイさんもケンさんも、そもそも身近な人の中に魔法が得意だという人はいなかったらしい。だからあまり魔法に馴染みがないんだと言いながら、楽し気にアキトの説明を聞いている。
「土魔法かーすごいな」
「あの…そのつぶては、その辺りの石や砂を使うんですか?発動できない条件などはありますか?」
レイさんからの質問に、アキトはゆるりと首を傾げた。
「えっと…どうだろう?」
助けを求めるような顔でこちらを向いてくれたアキトに、俺は満面の笑みで答えた。
「ああ、近くに素材になるものがあれば、意識して魔法を発動すればその素材を使えるんだ。だが近くに素材が無い場合は魔力で補って発動できるよ」
そう説明すれば、アキトも一緒になって感心している。
「へぇーそうなんだ」
「なんでアキトがそんな反応なんだよ」
「いやー俺魔法の理論とか詳しくないから」
アキトはあっさりとそう答えてから、説明してくれるハルがいつも一緒にいるから良いんだと楽し気に続けた。
あーもう。可愛いなぁ、アキトは。
「俺は感覚派だから仕方ないの」
「うん、そうだね」
これからも説明は俺がするから、アキトは気にしなくて良いよ。
魔法についての話が一段落した所で、アキトはそっと切り出した。
「ね、もしケンが作った木彫りの作品を見たいなって俺が言いだしたら…困るかな?」
「え?」
「あ、無理だったらはっきり無理って言って欲しい!……でももし大丈夫なら、見せて欲しいなって思ったんだ」
断られるかもしれないけどと控え目にお願いを口にしたアキトに、ケンさんはむしろ大喜びでスクッとすぐさま立ち上がった。
「え、俺の作品見てくれんの?わ、じゃあこっち来て、こっち!」
躊躇のかけらも無いその様子からして、ケンさんはむしろ見て欲しいと思っていそうな反応だ。
「あ、ケンさん、もし良ければ俺も見せてもらっても良いか?」
アキトの横から慌ててそう声をかけた俺に、ケンさんは更に笑みを深くした。
「うん、もちろんだよ!ほらこっち!」
弾むように歩き出したケンさんが目指しているのは、どうやら廊下の隅にある布の前みたいだ。
ケンさんの背中を眺めながら追いかける俺達に、レイさんが申し訳なさそうに声をかけてきた。
「あー…あそこの布の奥が店に繋がってるんです。説明もせずにすみません」
自分の作品を見たいって言われたのが、よっぽど嬉しかったみたいですとレイさんはこそりと教えてくれた。
「レイさんが代わりに説明してくれたんだから、問題は無いさ」
「うん、見たいって言ったのは俺達だし」
「ありがとうございます」
こそこそと俺達がそんな事を話している間に布の前に辿り着いたケンさんは、パッとこちらを振り返った。
「こっちこっち」
ニコニコ笑顔で手招きされた俺たちは、慌ててケンさんに近づいていく。
「じゃじゃーん」
そんな声と共にケンさんはさっと布を引いてくれたが、店の中は薄暗くて残念ながら何も見えなかった。
店の中が暗い上につい先ほどまで明るい部屋にいたから、俺達の目が慣れていないせいだろう。反応のない俺たちに一瞬だけ不思議そうな顔をしたケンさんは、ちらりと店の中へと視線を向けた。
「あーそっか。ちょっとだけここで待っててねー」
ケンさんはそう言うと、スタスタと慣れた様子で迷いなく真っ暗な部屋の中へと入って行く。
ほどなくして部屋中に魔道具の明かりがともった。外から店をみた時の印象と同じ赤と黒基調のテーブルや棚の上には、ずらりと細かな彫刻の施された木彫りが並んでいる。
「うわぁーすごい量!これ全部ケンが?」
「うん、そうだよ。全部俺が作ったやつ」
自慢げな声を聞きながら、アキトと俺はまじまじと木彫りをみつめた。
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