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914.【ハル視点】懐かしい話

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 レイさんが入れてくれたお茶が減ってきた所で、アキトはこっそりと俺に顔を寄せて小さな声で尋ねてきた。

「ね、ハル、招かれたお客さん側が何か飲み物や食べ物を渡すのは…この世界では駄目な事かな?」

 俺達がいるのは小さな部屋の中で、しかもレイさんとケンさんは向かい合わせでテーブルに座っている。当然二人にもその声は聞こえていただろうが、二人は気づかないふりでそっと視線を反らしてくれている。

「いや、この世界では客が何かを渡すのも普通の事だから大丈夫だよ」
「そうなの?」
「ああ。何か出したいの?」
「お茶がなくなったら…果実水を出したいなって」

 こそこそと続いた言葉に、レイさんとケンさんがうっすらと微笑ましげに笑っている。

「良いんじゃないかな」

 しばらくしてお茶が無くなった所で、アキトが今日買ったばかりの果実水の瓶を取り出した。

「あ、スーラさんの所のやつだ!」

 瓶につけられているタグを見ただけで、ケンさんは嬉しそうに笑みを浮かべた。どうやらスーラの店を知っているみたいだ。

「ああ、これ美味いよな」

 レイさんもふわりと笑みを浮かべて嬉しそうな表情だ。

「良かった、皆で飲も!」

 ほんのり甘いさっぱりとした果実水を飲んで一息ついていると、不意にケンさんがアキトに向かって尋ねた。

「なあ、さっき俺の話にかなり怒ってくれてたけどさ…アキトは隣国で召喚されたってわけじゃないのか?」

 一年前だったらもう隣国の召喚は終わってる頃だよなと聞かれたアキトは、コクリとすぐに頷いた。

「俺はねーバイト帰りに自販機に寄って、ふと気づいたら森の中に立ってたんだ」
「うわ、自販機懐かしい」

 久しぶりに聞いたわと笑うケンさんの後ろで、レイさんはん?と首を傾げた。

「森の中って…どこの森だ?」

 それによって話は変わってくるよなと、レイさんは冷静に続けた。さすが元衛兵だけあって、目の付け所が違うな。

「ナルクアの森だよ」

 アキトが笑顔でそう答えた瞬間、レイさんは一気に顔色を変えた。血の気が引いた顔とはこういうのを言うんだろうなと思うほどの、変わりようだ。

「はっ!?ナルクアの森!?」
「わ、びっくりした!レイ、どうしたの急に?」

 地名を聞いてもどこの森か分からなかったらしいケンさんは、突然の大きな声に本気で驚いたようだ。心臓を抑えながらレイさんをじとっと見つめている。

「あー悪い。ナルクアの森ってのは…今の俺でも一人では入りたくないなと思うぐらいの、すごく危険な場所なんだよ」
「え、そうなの?」

 知らなかったんだけどと慌てた様子のケンさんの質問に、アキトはそうらしいねと苦笑しながら答えた。

「俺はそこでハルに会ったんだ」

 ケンさんとレイさんにも自分の幽霊が見える体質について話すのかと思ったんだが、俺の予想に反してアキトはそれには触れずに話を続けた。

「はーなるほど…それはハロルド様にそこで会えて幸運だったな」
「うん、ナルクアの森にハルがいてくれてすっごく幸運だったと思ってるよ」

 ニコッと笑ったアキトは、ちらりと俺に視線をくれた。

「もちろん俺もな。おかげでアキトに会えたんだ」

 ふふと思わず笑みを浮かべた俺に、ケンさんとレイさんはちらりと顔を見合わせた。これは二人に惚気られたなーとか、思われていそうな顔だな。

「そっか、じゃあアキトは何かのきっかけで、たまたまこっちに来ちゃったって感じなのかな?」
「うーん、少なくとも足元に魔法陣は無かったよ」
「それでアキトはこっちの世界では何をしてるんだ?」

 ワクワクした様子のケンさんの質問に、レイさんは呆れ顔だ。

「いや、服装見たら分かるだろ」

 だいぶ落ち着いてきたらしく、市場でみたような自然なやりとりを繰り広げている。

「え、服装…ファンタジー映画風っていうかゲームのキャラ風っていうか?」

 どういう意味だろうと考えながら聞いていると、レイさんはいやいやと苦笑を洩らした。

「これは冒険者の装備だろ…ですよね?」

 そう尋ねてきたレイさんに、俺たちは二人揃ってコクリと頷いた。

「え、アキトって、冒険者なの!?」
「うん、後衛の魔法使いだよ」
「うっわ、しかも魔法使いなの?魔法使えるってすごいな!憧れの魔法!!」

 一気にテンションの上がったケンさんは、残念ながら魔力がかなり少ない方だったらしい。だから魔法に憧れがあるが、攻撃魔法は使えないそうだ。頑張っても生活魔法が少しだけ使えるぐらいらしい。

「へへ、ありがとう。俺も魔法使えるってなった時はテンション上がったよ」
「そりゃあ上がるよな!な、どんな魔法が得意とかあるのか!?」
「えっとねー」
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