912 / 1,112
911.【ハル視点】警戒される理由は
しおりを挟む
「おふたりともどうぞこちらに座ってください」
緊張感の残る硬い声でそう言うと、レイさんはぎこちない動きで椅子を勧めてくれた。よく見ると指先が震えているのが分かった。
「ああ、ありがとう」
「ありがとうございます」
お礼の言葉を言って俺達は素直に横並びの椅子に座ったけど、レイさんはまだその場に立ったままだ。
俺達と同じ時にケンさんはいそいそと座っていたから、室内に立っている人はレイさんだけという状態だ。
執事のごとく背筋を伸ばして立ち尽くしているレイさんに、客である俺達から座って下さいというのも変だよな。
どうしようかとアキトに視線を向けてみたが、アキトもどうすれば良いのか分からないようだ。こそこそと視線だけで会話を交わしていると、不意にケンさんが口を開いた。
「なぁ、レイ」
「ん?どうした、ケン」
反射的に答えたらしいレイさんに、ケンさんは楽し気に続ける。
「さっき途中で待てって言われたから、実はまだ大事なお客さん達に飲み物の一つも出してないんだけど…」
大丈夫なのかな?と言い出しそうな心配そうな顔をしたケンさんを見て、レイさんはハッとした表情に変わった。
「もちろん俺が用意しても良いんだけど、レイの方がお茶入れるの上手いよね?」
さすが伴侶候補というべきか、レイさんを上手く誘導する姿にアキトと二人で感心してしまった。
「そうだな。すぐに用意する!」
レイさんはそう言うなり、アキトと俺に失礼しますと声をかけてから奥の方へと入っていった。
レイさんが去って行った方をじっと見守っていたアキトは、ちらりと厨房を見た。
「ああ、心配しなくても多分良い茶葉とお菓子でも探しに行っただけだよ」
「あ、そうなんだ」
ホッとした様子のアキトの隣で、俺も一緒になってホッと息を吐いた。
「まさかあそこまで動揺させてしまうとは…レイさんには申し訳ない事をしたな」
かといって偽名を名乗るなんていう選択肢は無かったから、どうしようも無いんだが。俺は苦笑しながら、ケンさんに向かってそう声をかけた。
「ああ、いや、それは気にしなくて良いよ…ただ…俺がねー貴族相手の対応とかそういうのすごく苦手なんだけど…大丈夫かな?」
そういうの慣れてないからさーと苦笑しながらも真剣な表情で続けたケンさんに、俺はむしろ軽い口調で話してくれた方が嬉しいくらいだと即答した。
貴族という身分が無い国出身だというのはアキトから聞いて知っているし、もしここで完璧に貴族に対する対応をされた方が、本当に異世界人なのかと疑ったかもしれない。
「あー良かった!敬語ぐらいは喋れるけどさ、貴族相手の対応とか知らないし。アキトの伴侶候補は優しいね?」
「え、うん、ハルは優しいよ」
照れくさそうに笑いながら、でも即座に同意するアキトの可愛らしさときたら。
「ケンさんのおかげでアキトに褒められたよ」
ありがとうと声をかけながら、自然と笑みがこぼれてしまった。
「だが俺はケンさんの伴侶候補のレイさんも、すごい人だと思うよ?」
「へ?あんなに分かりやすく緊張してたのに?」
思わずと言った様子でそう尋ねたケンさんに、俺は笑ってコクリと頷いた。
「ああ。ここに到着するなり、俺の素性について尋ねただろう?」
「うん、そうだったね」
「それまでは移動中もずっと、常に俺とケンさんの間に立つように立ち回ってたからね」
アキトについては特に危険視しなかったのは、ケンさんの同郷だと信じたからだろうか。
「え…そうなの?アキト気づいてた?」
「ううん、全く気づいてなかった」
アキトは気づいてなかったのか。
「しかもきちんと気配探知をかけながらだったよ。それに俺が気づいたから、余計に警戒させたんだと思うんだ」
「あー…なるほど。普段はあんな聞き方をする奴じゃないから、ちょっと意外だったんだよね…」
「気配探知に気づいた事で俺の強さを察した上で、それでも直球で尋ねてしまうぐらいレイさんは君を守ろうとしているって事だからね」
やっぱりすごい人だよ。そう続けた俺に、ケンさんは照れくさそうに、でも嬉しそうに満面の笑みを見せた。まるで無邪気なこどものような笑顔に、本当にアキトより俺との方が年齢が近いんだろうかと首を傾げてしまった。
「お待たせしました!茶葉とお菓子をお持ちしました!」
慌てた様子でトレイを掲げて帰ってきたレイさんに、ケンさんはちらりと視線を向けた。アキトと俺はそんなケンさんの様子を、何も言わずに微笑ましく見守っていた。
「ん?どうした?」
「いや、なんでも?俺の伴侶候補は良い男だなーと思って?」
ケンさんの言葉があまりに予想外だったのか、レイさんはボッと分かりやすく耳まで真っ赤になった。
「は?何だ急に!」
俺の名前を聞いた時よりもかなりの大慌てをしているレイさんに、俺とアキトは顔を見合わせて小さく笑ってしまった。
緊張感の残る硬い声でそう言うと、レイさんはぎこちない動きで椅子を勧めてくれた。よく見ると指先が震えているのが分かった。
「ああ、ありがとう」
「ありがとうございます」
お礼の言葉を言って俺達は素直に横並びの椅子に座ったけど、レイさんはまだその場に立ったままだ。
俺達と同じ時にケンさんはいそいそと座っていたから、室内に立っている人はレイさんだけという状態だ。
執事のごとく背筋を伸ばして立ち尽くしているレイさんに、客である俺達から座って下さいというのも変だよな。
どうしようかとアキトに視線を向けてみたが、アキトもどうすれば良いのか分からないようだ。こそこそと視線だけで会話を交わしていると、不意にケンさんが口を開いた。
「なぁ、レイ」
「ん?どうした、ケン」
反射的に答えたらしいレイさんに、ケンさんは楽し気に続ける。
「さっき途中で待てって言われたから、実はまだ大事なお客さん達に飲み物の一つも出してないんだけど…」
大丈夫なのかな?と言い出しそうな心配そうな顔をしたケンさんを見て、レイさんはハッとした表情に変わった。
「もちろん俺が用意しても良いんだけど、レイの方がお茶入れるの上手いよね?」
さすが伴侶候補というべきか、レイさんを上手く誘導する姿にアキトと二人で感心してしまった。
「そうだな。すぐに用意する!」
レイさんはそう言うなり、アキトと俺に失礼しますと声をかけてから奥の方へと入っていった。
レイさんが去って行った方をじっと見守っていたアキトは、ちらりと厨房を見た。
「ああ、心配しなくても多分良い茶葉とお菓子でも探しに行っただけだよ」
「あ、そうなんだ」
ホッとした様子のアキトの隣で、俺も一緒になってホッと息を吐いた。
「まさかあそこまで動揺させてしまうとは…レイさんには申し訳ない事をしたな」
かといって偽名を名乗るなんていう選択肢は無かったから、どうしようも無いんだが。俺は苦笑しながら、ケンさんに向かってそう声をかけた。
「ああ、いや、それは気にしなくて良いよ…ただ…俺がねー貴族相手の対応とかそういうのすごく苦手なんだけど…大丈夫かな?」
そういうの慣れてないからさーと苦笑しながらも真剣な表情で続けたケンさんに、俺はむしろ軽い口調で話してくれた方が嬉しいくらいだと即答した。
貴族という身分が無い国出身だというのはアキトから聞いて知っているし、もしここで完璧に貴族に対する対応をされた方が、本当に異世界人なのかと疑ったかもしれない。
「あー良かった!敬語ぐらいは喋れるけどさ、貴族相手の対応とか知らないし。アキトの伴侶候補は優しいね?」
「え、うん、ハルは優しいよ」
照れくさそうに笑いながら、でも即座に同意するアキトの可愛らしさときたら。
「ケンさんのおかげでアキトに褒められたよ」
ありがとうと声をかけながら、自然と笑みがこぼれてしまった。
「だが俺はケンさんの伴侶候補のレイさんも、すごい人だと思うよ?」
「へ?あんなに分かりやすく緊張してたのに?」
思わずと言った様子でそう尋ねたケンさんに、俺は笑ってコクリと頷いた。
「ああ。ここに到着するなり、俺の素性について尋ねただろう?」
「うん、そうだったね」
「それまでは移動中もずっと、常に俺とケンさんの間に立つように立ち回ってたからね」
アキトについては特に危険視しなかったのは、ケンさんの同郷だと信じたからだろうか。
「え…そうなの?アキト気づいてた?」
「ううん、全く気づいてなかった」
アキトは気づいてなかったのか。
「しかもきちんと気配探知をかけながらだったよ。それに俺が気づいたから、余計に警戒させたんだと思うんだ」
「あー…なるほど。普段はあんな聞き方をする奴じゃないから、ちょっと意外だったんだよね…」
「気配探知に気づいた事で俺の強さを察した上で、それでも直球で尋ねてしまうぐらいレイさんは君を守ろうとしているって事だからね」
やっぱりすごい人だよ。そう続けた俺に、ケンさんは照れくさそうに、でも嬉しそうに満面の笑みを見せた。まるで無邪気なこどものような笑顔に、本当にアキトより俺との方が年齢が近いんだろうかと首を傾げてしまった。
「お待たせしました!茶葉とお菓子をお持ちしました!」
慌てた様子でトレイを掲げて帰ってきたレイさんに、ケンさんはちらりと視線を向けた。アキトと俺はそんなケンさんの様子を、何も言わずに微笑ましく見守っていた。
「ん?どうした?」
「いや、なんでも?俺の伴侶候補は良い男だなーと思って?」
ケンさんの言葉があまりに予想外だったのか、レイさんはボッと分かりやすく耳まで真っ赤になった。
「は?何だ急に!」
俺の名前を聞いた時よりもかなりの大慌てをしているレイさんに、俺とアキトは顔を見合わせて小さく笑ってしまった。
693
お気に入りに追加
4,145
あなたにおすすめの小説
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?
トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!?
実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。
※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。
こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる