生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
911 / 1,179

910.【ハル視点】二人の会話

しおりを挟む
 まさか俺が名前を名乗っただけで、ここまでの大騒ぎになるとは想像もしていなかったな。

 名前を知ればレイさんも警戒を解いてくれるかもしれない。そんな気持ちだったんだが、逆に萎縮させてしまったようだ。

「し、失礼な質問をした事をお許しください!」
「いや、失礼な質問はされていないよ。あれは伴侶候補の身を案じての、当然の質問だから気にしなくて良い」
「ケンが偽物と言った事については…」
「それも気にしなくて良い。問題にするつもりはかけらも無い」

 そんな風に優しい声を意識して必死で宥め続ければ、二人はなんとか落ち着きを取り戻してくれた。

「あー、とりあえず俺の正体は分かっただろうし、防音結界を作動して良いかな?」

 まずはこれを設置したいと魔道具を取り出した俺が尋ねれば、レイさんはハイッと即答を返してくれた。

「これ以上ないぐらい信頼できるお方だとはっきりと分かりましたので、どうぞご自由にお使い下さい!」

 さっきまでの態度がガラッと変わってしまったな。ピンっと背筋を伸ばしたレイさんの言葉に、俺は苦笑しながら答える。

「えっと…別に堅苦しい話し方は、しなくて良いからな?」
「…今はまだ…普通に話すのは無理、です…」

 気持ち的には無理だが言われたからには何とかしないととでも考えたのか、レイさんの顔色が一気に悪くなった。

「あ、いや別に無理して普通に話さなくても良いんだが…」
「あ、ありがとうございます!」

 お礼を口にしたレイさんは、明らかにぎこちない動きでぺこりと頭を下げた。

 ま、まあ先に防音結界の魔導具だけは作動させて貰おうかな。そう思って作業をしていたが、ふと気づけばアキトがじっとケンさんを見つめているのに気づいた。

 視線の先を追ってみれば、動揺しているレイさんを見つめてうっすらと笑っているケンさんの姿が目に入った。

 ああ、なるほど。レイさんと一緒になって騒いではいたけれど、ケンさんは別に本気で焦っていたわけじゃないのか。慌てるレイさんを可愛いとか思っていそうな目だ。

 貴族だとか領主一家だとか、そういう事に馴染みが無いのだろうその反応は、アキトにも似ているかもしれない。

「よし、二人とももう話して良いよ」

 無事に魔道具の設置を終えた俺は、アキトとケンさんに向けてそう声をかけた。これで店の外に声が漏れる心配は無いからな。

「ね、ケンってどこの国出身なの?」
「ん?俺はねー」

 普通に答えそうだったケンさんに、アキトは慌てた様子でハイッと手をあげた。あの動き、アキトはたまにするが何故なんだろうな。

「折角だし、同時に言わない?」
「ああ、それは良いな!よーしいくぞー」

 せーのと声を合わせてから、アキトとケンさんは揃って口を開いた。

「「日本!」」
「おおーやっぱり同郷か!」
「ゲーミングが分かる時点でそうかなーと思ってたけど、嬉しい!」
「あの七色っぷりはゲーミング野菜だよな?」
「うんうん、あれはすごいゲーミングっぷりだった!」

 げーみんぐとは何なんだろうとかなり気にはなるが、さすがに同郷の二人の会話に割り込んだりはしない。

「あ、俺、フルネームはヒイラギ アキトです」
「お、俺はトキ ケンタだ」

 二人はどんな漢字?と言い合ったかと思うと、ケンさんが取り出した紙に名前を書き始めた。

「これはね、俺達の世界の漢字っていう文字で書いた、俺達の名前だよ」

 一体何をしているんだろうと俺とレイさんはじっと見守っていたんだが、不意に振り替えったアキトがそう教えてくれた。

 そうかこれがアキトの名前なのか。まじまじと見つめてその複雑な形を覚えようとしている俺の隣で、レイさんもきっと同じ事をしていた。

「あ、そういえばレイ、レイだけちゃんと名乗ってなくない?」

 ケンさんは唐突にそう言うと、レイさんをじっと見つめた。

「…名乗ってなかったな…なんという失態…」

 がくりと肩を落としたレイさんに、ケンさんは笑って答える。

「はいはい、落ち込むのは後にして、自己紹介!」
「えー、アキト様、ハロルド様、俺の名前はレイース・テルカーといいます。以前は衛兵団にいたんですが、今はケンと一緒にこの店をやっています」

 なるほど、元衛兵なのか。だからあんなに自然に警戒する事が出来ていたんだな。

「へぇ…衛兵団にいたのか!どこの隊だ?」

 衛兵と言っても、所属する隊によって得意な事は変わる。たとえ辞めた後だとしても普段なら尋ねないんだが、今は防音結界があるからと試しに聞いてみた。

「所属はプレール隊でした!」

 プレールが率いているその隊は、スタンピードが起きた時に先陣を切って駆け出すようなそんな攻撃的な部隊だ。

「ああ、プレールの所か。それじゃあ実力派の場所だな」
「隊へのお誉めの言葉ありがとうございます!」

 即座にそう返ってきた事に、俺は思わず苦笑を洩らした。元、の筈なのに現役の衛兵のような答えた方だな。
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...