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908.【ハル視点】警戒
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アキトがこの世界に来てから、異世界人――つまりアキトのいた世界の人の影響というのは、色々な所で目にしてきた筈だ。
お菓子屋や料理店、ちょっとした行事、たまにある言葉の共通点などがそれだ。そういえばギルドカードもそうだと言っていたなと、ぼんやりと思い出す。
だが、目の前に同郷出身からもしれない人がいるという状況は、アキトにとっても初めての経験だ。
「うわーまさかこんな所で会えるとは!」
「俺も驚いてます!」
アキトと黒髪の青年は、途端に距離を詰めると嬉しそうにワイワイとはしゃいでいる。
うーん、何とも無防備というか、警戒心が少ない。そういう所は、たしかにアキトの世界の人らしいのかもしれない。
まだ信じて油断するつもりはかけらも無いが。
「色々話したいな」
「そうですね!」
できれば邪魔はしたくないんだが、このままだとアキトと目の前の青年が会話を始めてしまいそうだ。しかも同郷の話とやらを、こんなに人がたくさんいる場所で。
「アキト…ちょっと落ち着いて?」
話したい気持ちは分かるけどここでは駄目だと視線だけで訴えれば、アキトは慌てて口をつぐんだ。
「本当に…こいつと同郷なのか…?」
不意にそう口にした連れの青年は、明らかに疑いの目でアキトをまじまじと見つめている。
「お前、そんな目で見るなよ」
慌てた様子の同郷の青年がそう声をかけても、隣に立っている俺がじろりと睨みつけても連れ青年の視線は変わらない。
失礼な男だなと思ったのは一瞬だけだった。揃いの模様の入った腕輪を身につけているのに気づいてしまえば、伴侶候補を心配しての行動だと分かった。
それが分かれば、文句なんて言えなくなる。
俺だって目の前の青年がいきなりアキトを攻撃しないかと、まだ警戒しているしな。
「ごめんな」
「いえ、気にしないでください」
「俺はケンタって言うんだ。ケンって呼んでくれ。あと敬語はなしにしてくれないか?」
堅苦しいのは苦手でなと笑ったケンさんに、アキトもすぐに答えた。
「俺はアキト。好きに呼んで」
「じゃあ俺はアキトって呼ばせてもらおうかな…伴侶候補さんもそれで大丈夫?」
ちらりとこちらを見てそう尋ねたケンさんに、少しだけ驚きながらもすぐに頷いた。
俺はアキトの友人や知人との仲にまで介入するつもりは無いが、嫉妬深い伴侶候補なら名前呼びを嫌がる奴もいる。
まさかここで俺の気持ちにまで配慮しようとしてくれるとは、正直思っていなかった。俺の仲ですこしだけこのケンタという青年の評価が上がった。
「アキトの伴侶候補のハルだ」
「ああ、ご丁寧にどうも。ハルさんね。ちなみにこいつは俺の伴侶候補のレイだよ」
そう言うなりケンさんは隣に立っていた青年の手を持ち上げて、お揃いの腕輪を見せてくれた。
「ケンさん、レイさん。もしよければ、これも一種の縁だろう。俺達と一緒にどこかの店にでも入らないか?」
明らかに俺達に警戒心を抱いたままのレイさんに配慮して、店はそちらで選んでもらって良いと忘れずに付け加える。
レイさんは身のこなしからしてかなり戦える人だと思うが、全力で戦えば負けはしないだろう。そんな余裕からの提案だった。
「あー…そうだな。もう昼飯食っちゃったんだよなぁ」
「あ、俺達ももう食べたよ」
それなら軽い物だけを出してる店かと呟いたケンさんは、ちらりとレイさんを見てから口を開いた。
「あのさ、もしアキトとハルさんさえ良ければ…俺たちの店に来ない?」
「二人で店をやってるのか?」
「うん、大通りにある木彫りの店だよ。まあ今日は定休日なんだけどな」
「…そうか。分かった」
辺境領の大通りの店はウィル兄が自らきちんと調査をしているし、店主には身元がはっきりしている人しかいない。そうか、大通りに店を持っているのかと、俺はふうと小さく息を吐いた。
「俺もお店見てみたい!」
「よし、それじゃあついてきてくれー」
軽くそう言ったケンさんは、レイさんの腕をぐいっと引っ張ると俺たちが歩いて来た方向、市場の入口に向かって歩き出した。
アキトは少しだけ残念そうに、市場の先の道を見つめている。残念に思う必要なんて無いよと、俺はアキトの耳元に顔を寄せた。
「ここから先は、また今度来ようね」
「うん、そうだね」
また来れば良いんだよねと一転して笑みを返してくれたアキトがあまりに可愛くて、ついつい頭を撫でてしまった。
アキトは嫌がっていないから良いか。
お菓子屋や料理店、ちょっとした行事、たまにある言葉の共通点などがそれだ。そういえばギルドカードもそうだと言っていたなと、ぼんやりと思い出す。
だが、目の前に同郷出身からもしれない人がいるという状況は、アキトにとっても初めての経験だ。
「うわーまさかこんな所で会えるとは!」
「俺も驚いてます!」
アキトと黒髪の青年は、途端に距離を詰めると嬉しそうにワイワイとはしゃいでいる。
うーん、何とも無防備というか、警戒心が少ない。そういう所は、たしかにアキトの世界の人らしいのかもしれない。
まだ信じて油断するつもりはかけらも無いが。
「色々話したいな」
「そうですね!」
できれば邪魔はしたくないんだが、このままだとアキトと目の前の青年が会話を始めてしまいそうだ。しかも同郷の話とやらを、こんなに人がたくさんいる場所で。
「アキト…ちょっと落ち着いて?」
話したい気持ちは分かるけどここでは駄目だと視線だけで訴えれば、アキトは慌てて口をつぐんだ。
「本当に…こいつと同郷なのか…?」
不意にそう口にした連れの青年は、明らかに疑いの目でアキトをまじまじと見つめている。
「お前、そんな目で見るなよ」
慌てた様子の同郷の青年がそう声をかけても、隣に立っている俺がじろりと睨みつけても連れ青年の視線は変わらない。
失礼な男だなと思ったのは一瞬だけだった。揃いの模様の入った腕輪を身につけているのに気づいてしまえば、伴侶候補を心配しての行動だと分かった。
それが分かれば、文句なんて言えなくなる。
俺だって目の前の青年がいきなりアキトを攻撃しないかと、まだ警戒しているしな。
「ごめんな」
「いえ、気にしないでください」
「俺はケンタって言うんだ。ケンって呼んでくれ。あと敬語はなしにしてくれないか?」
堅苦しいのは苦手でなと笑ったケンさんに、アキトもすぐに答えた。
「俺はアキト。好きに呼んで」
「じゃあ俺はアキトって呼ばせてもらおうかな…伴侶候補さんもそれで大丈夫?」
ちらりとこちらを見てそう尋ねたケンさんに、少しだけ驚きながらもすぐに頷いた。
俺はアキトの友人や知人との仲にまで介入するつもりは無いが、嫉妬深い伴侶候補なら名前呼びを嫌がる奴もいる。
まさかここで俺の気持ちにまで配慮しようとしてくれるとは、正直思っていなかった。俺の仲ですこしだけこのケンタという青年の評価が上がった。
「アキトの伴侶候補のハルだ」
「ああ、ご丁寧にどうも。ハルさんね。ちなみにこいつは俺の伴侶候補のレイだよ」
そう言うなりケンさんは隣に立っていた青年の手を持ち上げて、お揃いの腕輪を見せてくれた。
「ケンさん、レイさん。もしよければ、これも一種の縁だろう。俺達と一緒にどこかの店にでも入らないか?」
明らかに俺達に警戒心を抱いたままのレイさんに配慮して、店はそちらで選んでもらって良いと忘れずに付け加える。
レイさんは身のこなしからしてかなり戦える人だと思うが、全力で戦えば負けはしないだろう。そんな余裕からの提案だった。
「あー…そうだな。もう昼飯食っちゃったんだよなぁ」
「あ、俺達ももう食べたよ」
それなら軽い物だけを出してる店かと呟いたケンさんは、ちらりとレイさんを見てから口を開いた。
「あのさ、もしアキトとハルさんさえ良ければ…俺たちの店に来ない?」
「二人で店をやってるのか?」
「うん、大通りにある木彫りの店だよ。まあ今日は定休日なんだけどな」
「…そうか。分かった」
辺境領の大通りの店はウィル兄が自らきちんと調査をしているし、店主には身元がはっきりしている人しかいない。そうか、大通りに店を持っているのかと、俺はふうと小さく息を吐いた。
「俺もお店見てみたい!」
「よし、それじゃあついてきてくれー」
軽くそう言ったケンさんは、レイさんの腕をぐいっと引っ張ると俺たちが歩いて来た方向、市場の入口に向かって歩き出した。
アキトは少しだけ残念そうに、市場の先の道を見つめている。残念に思う必要なんて無いよと、俺はアキトの耳元に顔を寄せた。
「ここから先は、また今度来ようね」
「うん、そうだね」
また来れば良いんだよねと一転して笑みを返してくれたアキトがあまりに可愛くて、ついつい頭を撫でてしまった。
アキトは嫌がっていないから良いか。
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