上 下
908 / 1,112

907.【ハル視点】予想外の出会い

しおりを挟む
 幼い頃から何度も訪れた事のある慣れた場所だから、アキトの案内役に徹しよう。

 今朝出発した時はそんな事を考えていた筈なんだが、アキトと回ると見るもの全てが新鮮で、結局は一緒になって全力で楽しんでしまったな。

 改めて見ると、この市場には変わった店が多い。

 凹凸のある不思議な質感の紙をたくさん取り扱っている紙の専門店や、魔物素材の中でも爪だけを集めた店、一種類の果物だけを取り扱っている店など本当に様々だ。

 一種類だけを取り扱ってる店の店員に、アキトが何故なのかと尋ねていたんだが、この果物が一番うまいからだと豪快に笑いながら答えられたのには、隣で聞いていて笑ってしまった。

 戸惑いながらも、じゃあ買いますと答えたアキトも可愛かったな。

 まあ直後に隣の果物の屋台の店員から、その言い方は周りの屋台に迷惑だって叱られていたんだが。

 すまんすまんと謝る店員と本気で怒っているわけではないらしい隣の屋台店員のやりとりに、アキトは笑い出すのを必死で我慢しているようだった。

 市場の途中には、ダンジョン産だと書かれた魔道具がずらりと並んだ屋台もあった。

 アキトはかなり気になっている様子だったが、あの店は駄目だな。

 ダンジョンからは出ない役に立たなさそうな魔道具も混ざっているし、何より値段設定が高すぎる。詳しくない客を引っかけようと思っているのがすぐに分かる悪質な店だ。

「あそこはやめておこう」
「…うん、分かった」

 俺の言葉に、アキトは何故と聞くでもなくすぐに頷いて諦めてくれた。何かを察してくれたんだろうな。

 少し歩いた所で視線を感じた俺は、ぐるりと周りを見渡した。遠くから俺とアキトを見守るように見つめていた騎士に見えるように、小さく手を動かした。近くに来てくれと指示を出せば、私服の二人はささっと歩き出した。

 何かあったのだろうと察してくれたらしい騎士たちは、真剣な表情で俺達に近づいてくる。

「十三後ろの屋台、ダンジョン産の魔道具屋が悪質店だった」

 すれ違い様にそう囁けば、二人組はコクリとすぐに頷いた。

「ご協力感謝します」
「ああ」

 無駄話を一切せずにすぐさま去っていった二人は、ウィル兄の部隊の騎士だな。こういう時の対応に慣れている隊員なんだなと感心しながら、俺はアキトに視線を戻した。

 そんな事を何度か繰り返して、俺が大丈夫だと判断した店だけを見て回っているうちに不意にアキトが声をあげた。
 
「ね、ハル、あれって…何?」

 そう尋ねながらアキトがそっと指差したのは、ここから見えるいくつかの屋台の上に掲げられている灰色の丸いものだ。

「どれ?ああ、あれはね…」

 アキトに説明をしようとした瞬間、雲の切れ目でもあったのか不意に太陽の光が辺り一面を照らした。

 その瞬間、その丸いものが光を反射して七色に輝いた。

「えええ…何あれ…すっごい光ってる」
「あれがヌキプルだよ」
「え…ヌキプルってあの真っ白なスープに使われてたやつ!?」

 キースくんの好物だって言ってたあのスープだよねと念を押してくるアキトに、俺はそうだよと悪戯っぽく笑いながら答えた。

「ヌキプルは普通に並べておいても灰色で目立たないからね。ああやって太陽の光を反射する場所に1個だけ飾ってるんだ」

 そうすればこの屋台ではヌキプルを売ってるとすぐに分かるからだ。つまりヌキプルがそれだけ人気のある野菜だという事でもある。

 アキトは面白そうに七色に光るヌキプルを観察している。眩しいと呟いてみたりクスクスと笑ったりするアキトを、幸せな気分で見つめていると不意に背後から声が聞こえてきた。

「え、すっごい派手な飾りがある。ね、あれ何?」
「ああ、あれは太陽の光を反射するヌキプルって野菜だな。お前…もうすこし外歩けよ…辺境領の名産品だぞ?」
「そうなんだ?」
「そうなんだって…お前な…」
「今日は珍しくこんな人混みに出てきたんだから、細かい事言うなって!」

 ケラケラと笑った男の声はそれにしてもと続けた。

「あれはゲーミング野菜って感じだな」
「ゲー…何だって?」

 困惑した様子の連れらしき男の言葉に、思わず頷きそうになってしまった。げーみんぐやさいなんて聞きなれない言葉に、思わず耳を澄ませてしまった。

「あー、えっとな、七色に光る物?を俺の故郷ではそう言うんだよ」

 そこでアキトはそっと後ろを振り返った。アキトも気になったんだろうかと思いながら、俺も後ろを振り返る。

 そこでは長めの前髪をした黒髪黒目の細身の青年が、茶色の髪をした連れの青年と話している所だった。

 じっと見つめるアキトに、細身の青年はハッとした様子ですぐさま口を開いた。

「あー、ごめん、俺の声でかかった?」
「あ。いえ…違います。あの、俺も同じ事を思ってたので…気になって…」

 アキトもげーみんぐやさいだと思っていたのか?それはつまり…?

 青年は急に声をかけられたのに、アキトの髪色と目を順番に見てたちまち人懐こそうな笑顔になった。

「あ!もしかして同郷なのかな!?」
「かもしれないです!」

 まさかこんな事になるとは、予想外だったな。
しおりを挟む
感想 318

あなたにおすすめの小説

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?

トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!? 実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。 ※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。 こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。

処理中です...