生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
899 / 1,179

898.お茶の用意

しおりを挟む
「おふたりともどうぞこちらに座ってください」

 緊張感の残る硬い声でそう言うと、レイさんはぎこちない動きで椅子を勧めてくれた。よくよく見ると指先が震えてる。

「ああ、ありがとう」
「ありがとうございます」

 お礼の言葉を言って俺達は素直に横並びの椅子に座ったけど、レイさんはまだその場に立ったままだ。

 ちなみにケンは普通に俺達と同じタイミングでいそいそと椅子に座ってたから、室内に立っている人はレイさんだけだ。

 うーん、座って下さいって、お店兼自宅だろう場所にお邪魔してる側の俺達が言うのも何か変だよね。かといって声をかけなかったら、ずっと立ちっぱなしになりそうで心配になってしまう。

 どうしよう?どうしようか?とハルと視線だけで会話を交わしていると、不意にケンが口を開いた。

「なぁ、レイ」
「ん?どうした、ケン」

 反射的に答えたらしいレイさんに、ケンは楽し気に続ける。

「さっき途中で待てって言われたから、実はまだ大事なお客さん達に飲み物の一つも出してないんだけど…」

 大丈夫なのかな?と言い出しそうな心配そうな顔をしたケンを見て、レイさんはハッとした表情に変わった。あ、ちょっと市場でみたレイさんに近づいた。

「もちろん俺が用意しても良いんだけど、レイの方がお茶入れるの上手いよね?」
「そうだな。すぐに用意する!」

 レイさんはそう言うなり、俺とハルに失礼しますと声をかけてから奥の方へと入っていった。

 えっと、今俺達がいる場所にキッチンらしきものがあるんだけど、大丈夫かな?

「ああ、心配しなくても多分良い茶葉とお菓子でも探しに行っただけだよ」
「そうなんだ」
「まさかあそこまで動揺させてしまうとは…レイさんには申し訳ない事をしたな」

 ハルは困り顔でケンに向かって声をかけた。

「ああ、いや、それは気にしなくて良いよ…ただ…俺がねー貴族相手の対応とかそういうのすごく苦手なんだけど…大丈夫かな?」

 そういうの慣れてないからさーと苦笑しながらも真剣な表情で続けたケンに、ハルはむしろ軽い口調で話してくれた方が嬉しいくらいだと即答した。

 うん、ハルはそうだよね。貴族だからとかそういう対応を求めている所を、見た事が無いもん。

「あー良かった!敬語ぐらいは喋れるけどさ、貴族相手の対応とか知らないし。アキトの伴侶候補は優しいね?」
「え、うん、ハルは優しいよ」

 しかも格好良いなんて思ってしまったけど、さすがにそれは口にしなかった。ハルは急に俺に褒められたと、嬉しそうに笑ってくれた。可愛い笑顔だ。

「だが俺はケンさんの伴侶候補のレイさんも、すごい人だと思うよ?」
「へ?あんなに分かりやすく緊張してたのに?」

 思わずと言った様子でそう尋ねたケンに、ハルは笑ってコクリと頷いた。

「ああ。ここに到着するなり、俺の素性について尋ねただろう?」
「うん、そうだったね」
「それまでは移動中もずっと、常に俺とケンさんの間に立つように立ち回ってたからね」
「え…そうなの?アキト気づいてた?」

 そう言われても、俺にも全然分からなかった。

「ううん、全く気づいてなかった」

 普通に前を歩いてる二人を、後ろから追いかけてるだけだと思ってた。

「しかもきちんと気配探知をかけながらだったよ。それに俺が気づいたから、余計に警戒させたんだと思うんだ」
「あー…なるほど」

 普段はあんな聞き方をする奴じゃないから、ちょっと意外だったんだよねとケンは答えた。

「気配探知に気づいた事で俺の強さを察した上で、それでも直球で尋ねてしまうぐらいレイさんは君を守ろうとしているって事だからね」

 やっぱりすごい人だよ。そう続けたハルに、ケンは照れくさそうに、でも嬉しそうに満面の笑みを見せた。ケンって、笑うとこどもっぽい笑顔になるんだな。

「お待たせしました!茶葉とお菓子をお持ちしました!」

 慌てた様子でトレイを掲げて帰ってきたレイさんに、ケンはちらりと視線を向けた。俺とハルはそんなケンの様子を微笑ましく見守っている。

「ん?どうした?」
「いや、なんでも?俺の伴侶候補は良い男だなーと思って?」

 ケンの言葉に、レイさんはボッと耳まで真っ赤になった。 

「は?何だ急に!」

 うん、レイさんは褒められなれてない、ちょっと可愛らしい人だ。
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

処理中です...